第26話 高校生クイズ甲子園

 体育祭を終え、まだその興奮が校内に残っているある日の休み時間、隣の席の三間坂さんがまた変なことを言い出してきた。


「ねぇ、高居君、高校生クイズ甲子園って知ってる?」


 三間坂さんが言ってきたのは、各都道府県の代表の高校生が三人一組で、知力だけでなく体力や運も含めた力を競い合うクイズ番組の名前だった。毎年テレビで放送しているので、俺も見たことはある。


「もちろん知っているけど?」


 とはいえ、あの番組の放送は夏休み明けくらいだったはず。なぜこのタイミングで三間坂さんが急にそんなことを聞いてきたのか、俺にはその理由が読めない。


「私、前から高校生になったらあれに出てみたいな~って思ってたんだよね」

「へぇー、そうなんだ。でもまぁ、確かに出てる人達は楽しそうだもんな。その気持ち、ちょっとわかるかも」

「でしょ!」


 三間坂さんはすごく嬉しそうな顔を向けてきた。自分の考えに賛同してもらえたのが嬉しいのだろう。その気持ちはわかる。


「高居君ならそう言ってくれるって思ってたよ! じゃあこれで私と高居君の二人は参加決定ということで……」


 ん?

 今何か三間坂さんが変なことを言ったような気が……

 参加決定?

 参加って一体何に……


「ちょっと待って三間坂さん! 参加決定って高校生クイズ甲子園に出るつもり!?」

「もちろん!」

「いや、そんなに目を輝かせながら言われても……。俺、出るなんて一言も言ってないんだけど……」

「え!? どうして!?」


 いや、三間坂さん。そんな明日人類が滅ぶと言われたかのような驚き方をされても、こっちの方が驚くって。

 なぜ俺が一緒に参加することが当然みたいに思ってたのか、俺にはわからないよ。


「どうしてって、そもそも予選を突破できると思えないし……」

「もう一人は一ノ瀬さんを誘ってみるつもりなんだけどなー」

「――――!?」


 な、なんだと!? 一ノ瀬さんを誘うだって!?

 ……もし一ノ瀬さんと一緒に予選を勝ち抜いてテレビに出るようなことになったら……もうそんなのそれをきっかけに付き合っちゃう流れじゃないか!

 いや、本選に出られなくても、一緒に予選を戦っていくだけでも、必然的に仲は深まっていくわけで……

 自分で言うのもなんだが、一緒に体育祭の練習をすることで、一ノ瀬さんとの仲はだいぶ進展していると思う。そこに高校生クイズ甲子園に一緒に出るなんてことになったら……これはもう下手すりゃワンチャンあるんじゃいない!?


「……よく考えたら、僕も前から高校生クイズ甲子園には出たいと思ってたんだった。そうか、三間坂さんと一ノ瀬さんか、うん、悪くないメンバーだと思う。二人とも出るっていうのなら、僕も一緒に出ることに異存はないというかなんというか……」

「ふふ、まぁ、そういうことにしといてあげますか。じゃあ、一ノ瀬さんを誘ってくるね。もしダメだったらその時は相談ってことで」

「わかった。……がんばって」

「任せといて」


 そう言い残して三間坂さんは意気揚々と一ノ瀬さんの席へ向かって行った。

 なんというか、さすが三間坂さん、行動が早い。

 三間坂さんは早速色々と一ノ瀬さんに喋り出している。


 離れたところで行われている女の子同士の会話、そんなものを聞き耳立てて盗み聞くなんて、紳士としては恥ずべき行為だ。

 うむ、それはわかっている。

 わかっているが、これは俺にも関係した問題だ。

 俺にだって、聞く権利くらいあるのではないだろうか?

 そうだ、きっとある! あるに決まっている!

 ――などと心の中で言い訳をして、ついつい俺は自分の席から二人の話に耳を傾けてしまう。


「――というわけで、高校生クイズ甲子園に出たいんだけど、一ノ瀬さん、一緒に出てくれないかな?」

「んー、三間坂さんが一緒なら出てもいいんだけど――」


 おお! さすが三間坂さん! なんという信頼の篤さ!

 確かに色々と頼りがいあるもんな。


「――でも、三人一組だよね? 知らない人とか仲良くない人と一緒だとちょっと……」


 知らいな人や仲良くない人か……。

 俺って一ノ瀬さんにとって知らない人ではないよな? ボウリングを一緒にやったり、体育祭で一緒に頑張ったりしてきたのに、これで知らない人ですとか言われたら普通に死ねる。

 でも、仲が良いかと言われたら、俺の方はそう思ってても、一ノ瀬んさんにもそう思われてるかどうかと言われれば、あまり自信はない。あー、一ノ瀬さんに、「高居君とは仲良くない」とか言われたら、マジでへこむ。


「もう一人は高居君なんだけど、どうかな?」


 三間坂さん、はっきりドストレートにいくのか!

 まだ俺は心の準備ができてないのに!

 ちょっと、その答え、怖いって!


「高居君かぁ」


 それってどういう意味での「高居君かぁ」なの?

 がっかり?

 それとも――


「高居君ならいいか。三間坂さんと仲良いしね」


 おお!

 おおお!

 一ノ瀬さんの「高居君ならいいか」もらいました!

 でも、「三間坂さんと仲良いしね」ってなに? 「私と仲良いし」とかならわかるんだけど……

 けどまぁいいか!

 これで、一ノ瀬さんと三間坂さんと一緒に高校生クイズ甲子園に出られる!

 今年の夏は暑くて熱い夏になりそうだぜ!


 その夜、「7組オリジナル」のライングループの名前が、「ソラノユキノシズク」に変わり、「今日から高校生クイズ甲子園用に使うのでヨロシク」とのメッセージが三間坂さんから送られてきた。

 グループ名は俺達三人の名前からとったのは明らかで、夏休みに行われるクイズ甲子園の予選、今から楽しみになってきた!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る