第27話 高校生クイズの予選会場に向かう

 期末考査も終わり、高校生になって初めての通知表も受け取り、いよいよ夏休みが始まった。

 今日は夏休みに入ってから最初の日曜日。

 本来なら、すでに夏休みであるため、日曜日とはいえそれほど価値のない一日になるはずだった。

 だが、今年のこの日曜日は、俺にとって決して無価値ではない。

 むしろ、これまでの日曜日の中でも、そして夏休みの中でも、最も価値のある一日になるかもしれない日曜日だった。

 なにしろ、今日は高校生クイズ甲子園の地区予選の日。

 一ノ瀬さんと三間坂さんと一緒にその大会に出る日なんだ!


 俺達は日曜日にもかかわらず、朝早くから駅で待ち合わせをしている。

 地区予選は、関東なら関東地方全域、近畿なら近畿地方全域、中部なら中部地方全域の都道府県の出場者を一箇所に集めて行われる。

 俺達が住んでいるのは中心都市ではないので、遠い予選開催都市まで出向かないといけない。

 開始時間は午前10時だから、やっぱり30分前には最低でもついておきたい。予選の場所は行ったことのない大きな公園なので、最寄り駅を降りてからどのくらい歩くのか、迷わず行けるのかも定かではない。そのため、移動時間も余裕をもって見ておきたい。電車が遅れて乗り換え予定の電車に遅れることも考慮しないといけない。

 ――などと考えているうちに、随分と早い時間の電車に乗ることになった。


 ううっ、やっぱり眠い。

 昨日は今日に備えて早く寝るつもりだけど、緊張と興奮とでなかなか寝付けなかったもんな。


「高居君!」


 呼ばれて、声の方を見れば、三間坂さんが手を上げながらちょっと明るい髪色のサイドテールを揺らしていた。隣には一ノ瀬さんもいる。

 平日なら込み合うこの時間の駅も、日曜なので人は多くない。その中から二人を発見するのは容易なことだった。

 前に二人とボウリングに行った時は、二人の私服姿にドキッとしたものだったが、今回は二人ともうちの学校のブレザーの制服姿だ。見慣れた姿なため、下手に胸が高鳴るようなことはないが、緊張しないでいい分、精神的なコンディション面ではいいかもしれない。ちなみに、俺も同じく学校のブレザーの制服を着用している。

 高校生クイズ甲子園の服装は自由なため、三人でどうしようかと相談した結果、やっぱり高校生らしく制服でいこう、ということになった。

 この制服を着られるのは人生の中でもたったの3年間だけ。もしテレビにでも映れれば、その貴重な制服姿を映像として残せるから、とまで考えてのことだった。

 我ながらすでに勝つ気でいるのが気恥しいが、多分負けるつもりで出てくる人なんていないとも思う。


「二人とも時間通りだね! それじゃあ行こうか」

「うん!」

「はい」


 こうして俺達は戦の場へ向け、改札を抜け電車へと乗り込んだ。


 まだ時間が早いこともあり、電車の比較的すいていて、俺達は4人掛けの向かう合う席に3人で一緒に座ることができた。

 一ノ瀬さんと三間坂さんが隣同士で座り、対面の席に俺。窓際に一ノ瀬さん、すでに一人窓際に男の人が座っていたので、俺と三間坂さんが通路側の席で向かい合う形だ。

 さっき二人と出会ったときは、見慣れた制服姿で緊張しないと思っていたんだけど、電車の中という、非学校空間で二人の姿を見ると、妙に緊張してしまう。

 今日は日曜日ということもあって、この車両の中に制服姿の人間は俺達以外にはいない。それだけに、二人の姿は電車の中でも目立っているようにも思う。そのうえ、二人はクラスの中でも最上位クラスの容姿の持ち主ときている。

 やばいな。改めて見ると制服姿の二人ってめちゃくちゃ可愛いじゃないか。

 特に斜めの位置から見る一ノ瀬さんなんて、完璧な清楚系美少女って感じで、チラ見したいと思うけど、神々しすぎて緊張してしまい、なかなかそっちを向けやしない。


 そういうわけで、必然的に俺は正面の三間坂さんの方を見ることになる。

 三間坂さんならいくら見ても緊張することもないからな。


 そう思って俺は、三間坂さんの顔に目を向けたんだけど、猫の目のようにややつり目のくっきりした三間坂さんの目が俺の方を見ていて、俺はそのキラキラした瞳に気恥しくなり、目を合わせず済むように視線を下げてしまう。


 ちょっと待て。

 相手は三間坂さんだぞ。

 なんで俺、ドキドキしてるんだ?


「高居君、緊張してる?」


 俺の様子を見て、緊張と捉えたのか三間坂さんが聞いてきた。


「いや、緊張はしてないよ。むしろ楽しみで仕方ないくらいだ」


 さすがに三間坂さんを見て緊張したなんて口が裂けてもいえない。それに、クイズ甲子園を楽しみにしているのも事実だ。俺は嘘は言っていない。


「そうなの? 緊張とかしてないなら全然いいんだけど……」


 緊張なんてしてない!

 してないって言ったらしてないんだ!


 俺は顔を上げられないまま心の中で叫ぶ。

 俺の下げた視線は、三間坂さんのスカートや脚を捉えたままだった。


 ……って、制服の三間坂さんをこうやって正面から見るのって初めてかもしれない。いつも、横から見ていたからなぁ。


 ……にしても、三間坂さん、スカートが短くないかい?

 太ももまでそんなに見せちゃって。

 夏服に変わったときに、三間坂さんのスカートがちょっと短くなったかなとは思ってたけど、正面から見ると余計その短さを感じてしまう。

 だってこんなの正面でしゃがまれたりしたら、脚と脚の間からスカートを覗かれて……その、なんだ……三間坂さんの下着が見えてしまうんじゃないかい?

 そうでなくても、今でもそのちょっと太めで柔らかな太ももの間の先に、何か見えてはいけないものが見えてしまうんじゃないって気が気でなくて……


 待て。

 待て待て。

 さっきから俺は何を考えてるんだ!?

 三間坂さんの太ももとか、スカートの中の下着とか……

 ああー、やめやめ!

 今日の俺はどうかしてる!


「高居君、やっぱりちょっと変だよ、気分悪い?」

「――――!?」


 三間坂さんに顔を近づけて下から覗かれ、俺の心臓が跳ね上がる!


「なんでもない! 本当に平気だから!」


 三間坂さんの顔は本当に心配そうだった。

 ……俺はなんてゲスな人間なんだ。

 三間坂さんが純粋に俺のことを気遣ってくれているのに、よりによって三間坂さんの破廉恥なことを想像してしまうなんて……


 俺は三間坂さんに心の中で謝りながら、電車に揺られ続けた。

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