第13話 アイスと一口
「下林君、これ」
みんなのところに戻った俺は、下林君にカスタードプリンのフレーバーのアイスを渡す。
「サンキュー」
下林君はさも当然といった顔で受け取った。
くっ! 勝者の権利なのだからその態度も受け入れるしかない。
一ノ瀬さんとハイタッチを交わした上、他人の金で買ったアイスまで食べるとは、今日という日は下林君のためにあったのだろうか……
俺は、顔には出さないが悔しさを感じたまま、三間坂さんの方へと寄っていく。
「三間坂さん、これ、どうぞ」
俺は彼女の前に、クッキー&クリームのアイスを差し出した。
「え?」
珍しく三間坂さんが戸惑った顔を浮かべている。
「負けさせたおわび」
「……別に高居君のせいで負けたわけじゃないよ」
三間坂さんの声は意外なほど優しげだった。
今日の三間坂さんはなんだかいつもと違う気がするぞ。
負けた原因が自分にもあると思っているのだろうか?
確かに三間坂さんがミスってスペア逃したりしてたこともあるけど、女子としては十分なくらいに頑張ってくれてたし、そんなこと思う必要はないんだけど。
「じゃあ、最後の投球で僕のミスを挽回しようと頑張ってくれたお礼。あれはホントに格好よかったし」
「――――!?」
ん? なんだ今の三間坂さんの表情は?
妙に照れているようで、つい可愛いと思ってしまった。
待て待て。
三間坂さんが可愛い?
確かに、容姿だけなら三間坂さんはクラスで三番目に可愛いかもしれない。あくまで顔の造形でいうならそうなるだろう。
でも、表情が可愛いというのは、外見だけでなく、中身からにじみ出る人間性も含めてってことにならないか?
今俺が三間坂さんの表情を見て可愛いと感じているのは、彼女の内面の可愛さを認めてしまっていることになってしまうのではないだろうか?
「……じゃあ、もらっておく。ありがとね」
俺が難しい問題に頭を悩ませかけたところで、三間坂さんは俺からアイスを受け取った。
……とりあえず、今の問題については深く考えてはいけない気がして、考えるのをやめた。
三間坂さんはちょっと嬉しそうに、コーン型のアイスの周りについているパッケージを剥がして、お好みのクッキー&クリームのアイスの部分を出している。
結構子供っぽいとこもあるんだな、と三間坂さんのことを見ていると、彼女は俺の想定外の行動を取ってきた。
「はい。一口いいよ」
三間坂さんは自分が食べる前に、俺の口もとにアイスを突き出してきたのだ。
「え、僕は別に……」
「奢ってくれたお礼に一口だけね」
まぁ、確かにこのアイスは俺のお金で買ったものだ。それに、勝負に負けたのも、全部が全部俺が悪いわけでもないとは思う。それを考えれば、一口くらいもらったって罰は当たらないかもしれない。
「じゃあ、一口貰うよ」
俺は一口にしてはちょっと深めにアイスにかぶりつき、かじりとった冷たい塊を口の中に放り込んだ。
うほーっ、つめてぇー!
でもクッキーの欠片がアイスのアクセントになってて、なかなかおいしい。
クッキー&クリーム、いいかも。俺も今度買うとしたら、これにしようかなぁ。
「じゃあ、私もいただきます~」
三間坂さんが、俺がかじった一口分が欠けたアイスを、その小さな口へと運んでいく。
……ん、ちょっと待ってくれ三間坂さん!
そこは今、俺の口というか、唇が触れた部分と重なっているとこがあるぞ!
そのまま食べたら、いわゆる間接キスというやつになるのではないのか!?
俺がテンパり出したのをよそに、三間坂さんは俺が食べたアイスのすぐ隣に口を当てていた。俺の唇が触れた部分にも当然、三間坂さんの唇が触れているわけで……。
くそっ、どうして俺の顔が赤くなるんだよ!
これが一ノ瀬さんならともかく、相手は三間坂さんなんだぞ!
男友達とアイス食べ合ったりするのと変わらないのに……って、男同士でそれはやるのはいやだな。……でも、三間坂さんとはいやじゃない。なんだか無性に恥ずかしいというかなんというか……。もう、なんなんだよ、この気持ちは!?
俺は三間坂さんがアイスを食べるところをそれ以上見ていられなくなり、顔を逸らしてしまった。
あとから思い返すと、この時の俺は自分の気持ちにいっぱいいっぱいで、三間坂さんがどんな顔でアイスを食べていたのか見ていなかった。
まぁ、三間坂さんのことだ、何も気にしないで平気な顔で食べていたんだろうけど。
なお、この後俺達は賭けはなしで、同じチームであと2ゲーム行った。
賭けがなくなると余計なプレッシャーがないぶんリラックスして投げられるのか、俺は思い通りの投球を繰り返し、俺達ソラノユキチームが2連勝を果たした。
一ノ瀬さんとハイタッチは結局できなかったけど、格好いいところは見せられたと思う。ストライクも何回か取れたし。
あと、ゲームが終わった後、三間坂さんの提案で、全員でライン交換をすることができた。
これで俺は一ノ瀬さんとラインで繋がったわけで、これに関してはホントに三間坂さんに感謝するしかない!
……ただ、登録したチーム名は変えられないにして、2ゲーム目以降はチーム分けを変えてもよかったのではないだろうか? そうすれば、俺と一ノ瀬さんが同じチームになって、ハイタッチもできのになぁ。
三間坂さんはああ見えて意外と気配りできたりするから。そのことに気付いて提案してくれてもよかったのに。
結局、三間坂さんと手が痛くなるくらいハイタッチしただけなんだよな。いまもまだ俺の手に、三間坂さんの手の感触が残ってるよ。
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