第11話 勝者と敗者
俺が投げたボールは、狙い通りに転がっていき、しっかりとヘッドピンを捉えた。
よしっ!
ボールと弾かれたピンが、後ろのピンを倒していく。
そのまま全部倒れろ!
俺は心の中で叫んだ。
だけど――
俺はその場に膝から落ちる。
レーンの奥ではピンが2本残っていた。
右側と左側に1本ずつ。
正確には、一番奥の列の右端と、奥から2列目の左端のピン。ピンの番号でいえば4番と10番。
いわゆるスプリットといわれる、スペアを取るのが困難なピンの残り方の一つだ。
この大事な場面で俺はやらかしてしまったのだ。スネークアイと言われる奥の左右の端が残るスプリットよりはましだが、この残りかたも、プロでもなかなか難しいスプリットだということくらいは俺にだってわかる。
……三間坂さんに合わせる顔がない。
それでも俺は重い足をついて立ち上がった。
そして、振り返りたくはないが、勇気を持って後ろを向く。
さすがに今回ばかりは、三間坂さんの顔が険しかった。
それはそうだろう。アイスのかかった勝負、超重要な最終フレーム。スペア以上じゃないと勝てない状況。それなのに、よりによってスプリットの状態でバトンタッチされるのだ。これならまだガターで回されたほうがましだっただろう。
でも、これは俺がやらかした失敗だ。
三間坂さんに何を言われたってしょうがない。
そういう思いで、俺は三間坂さんのところに戻った。
「……三間坂さん、ごめん」
「まだだよ。まだ終わってないよ」
「え?」
落ち込んだ声の俺と違って、三間坂さんの声には力強さがあった。
俺は顔を上げて三間坂さんの顔にちゃんと目を向ける。
確かに三間坂さんの顔は険しいものに見えたが、決して怒っているわけではなかった。
それはいつもの三間坂さんとはちょっと違う、凄く真剣な顔だった、離れていたのと、俺が勝手に思い込んでいたから険しく見えただけだった。そういえば、声にも怒った感じは全然なかった。
「なんとか頑張ってみるから見てて」
「……うん」
三間坂さんから迫力みたいなものを感じて、俺は情けなくただうなずくことしかできなかった。
三間坂さんは諦めずにスペアを狙うつもりなんだ……。
この状況で両方のピンを倒すには、左側の4番ピンの左側に薄く当てて右に弾き、そのピンで右端奥の10番ピンを倒すしかない。三間坂さんはボールを曲げたりはできないから、レーンの左端をまっすぐガターに落とさずにボールを転がすしかないだろう。しかもピンを弾き飛ばさないといけないから、勢いよく投げる必要もある。
正直、俺だって思い切り投げたらコントロールなんて付けられない。
なのに三間坂さんはそれに挑戦しようとしている……。
三間坂さん、がんばれ!
レーンの前に立つ三間坂さんに目を向ける。あんなにか弱く見えていた三間坂さんの肩が、今はとても頼りがいがあるように見えた。
俺だけじゃなく、一ノ瀬さんや下林君が固唾をのんで見守る中、三間坂さんはレーンの左端からまっすぐ左端を狙って力強くボールを投げた。
すぐ隣はガター、少しでも左に曲がれば落ちてしまう。そんなギリギリのまま、三間坂さんのボールはまっすぐ転がっていく。
すごいよ、三間坂さん! これならもしかしたら!
俺の中でふいに期待感が膨れ上がる。
「いけぇぇぇぇ!」
自分でもびっくりしたが、俺が一番大きな声を上げて叫んでいた。
そして、俺の声に応えるように、三間坂さんのボールは4番ピンの左側に当たり、ピンを右側に弾き飛ばす!
奇跡よ、来い!
俺達の視線は弾かれたピンに集中する。
しかし、世の中そんなうまくいくわけがない。
右端の10番ピンに向かって飛んでいったピンは、そこに届く前に奥の闇へと消えていった。
惜しかった、
ホントに惜しかった。
でも、三間坂さんの投球はピンを1本倒しただけでスペアはならず、俺達は1点差でウミノシズクチームに届かなかった。
「……ごめん、高居君」
戻ってきた三間坂さんが、俺に申し訳なさそうな顔を向けてきた。
待ってくれ!
どうして三間坂さんがそんな顔をするんだ!?
こうなったのは全部俺のせいだし、三間坂さんは何も悪くないじゃないか!
むしろ三間坂さんは凄かった! 興奮させられたし、もしかしたらって思わせてくれた!
そんな三間坂さんが、こんな顔をするなんておかしい!
「謝らないで! 三間坂さんは凄かったよ! すごく惜しかった!」
俺は心の想うまま、必死にその気持ちを三間坂さんに伝えた。
それを理解してくれたのか三間坂さんが微笑む。
「ありがとうね。応援、嬉しかったよ」
うっ……応援ってさっき俺が叫んだやつか?
なんだか恥ずかしいけど……三間坂さんの表情がやわらいだことに俺は少しほっとした。
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