第12話 敗者とアイス
「危なかったけど、俺達の勝ちだな。アイス、よろしく頼むぜ」
くっ! 今の三間坂さんの魂の一投を見ても、下林君は心が動かないのか!? あの投球に免じて賭けはなかったことにしようと言うのが男じゃないのか!?
ふぅ……そんなわけないよな。
負けは負け、しょうがない。
「……わかってるよ。どの種類がいいの?」
「そうだなぁ……」
下林君は悩み始めた。
置いてあるアイスの自販機はセブンティーンアイスというやつだ。その名の通り17種類のアイスがあるから悩むのはわかるが、勝った方が選ぶことになるはわかっているんだから、どのアイスが食いたいのかくらい決めておいてくれよな。
ちなみに、セブンティーンアイスの名前は、17種類あるからってことだけじゃなく、子供だけでなく17歳の学生にも楽しんでもらいという思いがあって付けられたらしい。俺が17歳になるにはまだ1年以上必要だけど、こうやってアイスを材料にして楽しんでいる高校生がいると知ったら、会社を作った人も喜んでくれるだろうか?
そんなことを考えながら、俺は下林君は一旦放っておいて、一ノ瀬さんの方へ顔を向けた。
「一ノ瀬さんはどのアイスにする?」
「じゃあ、私は木苺のチーズケーキをお願いしようかな」
一ノ瀬さんからはすぐに答えが返ってきた。
木苺のチーズケーキか、なんか一ノ瀬さんらしくて可愛い気がする!
下林君も一ノ瀬さんみたいに、ボウリングの間に何にするかくらい考えておくべきだよな、まったく。
俺は、下林君と一ノ瀬さんの二人分のアイス代を自分が出すつもりだ。
さすがにスプリットという負けた原因を作っておいて、三間坂さんにお金を出させる気にはなれなかった。
「三間坂さん、ここは二人分僕が出すよ」
せめてもの償いとして三間坂さんにそう言葉をかけたのだが、なぜか三間坂さんは上がり気味の目をさらに吊り上げた。
「だめだよ! 私達はチームなんだから!」
チーム? 確かにボウリングではチームを組んだが、俺がお金を出すと言っているのに、そこは拘るところなのだろうか?
「一ノ瀬さんの分は私が出すからね!」
そう言うと三間坂さんは、俺の答えも待たずにアイスの自販機の方へ行ってしまった。
まぁ、俺も小遣いが多いわけではないから、出してもらえるの別にいいんだけど……。
……あっ! しまった! 一ノ瀬さんの分は俺が出そうと思ってたんだった!
一ノ瀬さんにアイスを奢ることは俺にとって決してマイナスなことではない。むしろプラスと言っていいイベントだ。
それなのに……
俺は慌てて三間坂さんを呼び止めようとしたが、時すでに遅し。彼女はすでに向こうの方へ行ってしまっていた。
なんてことだ……。
俺は目の前でいまだ頭をひねっている下林君に目を向ける。
……どうして下林君なんかにアイスを奢らないといけないんだ。
一ノ瀬さんの前で二度もストライクを出し、ハイタッチまでしていた下林君に……。
くっ! これは俺にとって相当な罰ゲームだ。
……どうでもいいけど、下林君、とっとと欲しいアイスくらい決めろよ。
◆ ◆ ◆ ◆
下林君からカスタードプリンというオーダーを受けた俺は、アイスの自販機までやってきた。
三間坂さんはすでに一ノ瀬さんのアイスを買い終えて二人のところに戻っている。
ホントに下林君は無駄なことに時間をかけるんだから……。
俺は心の中で文句を言い続けながら、下林君が望んだカスタードプリンアイスのボタンを押した。
夏場なら自分の分も買うところだが、今はまだ4月。ちょっとアイスには早い。奢ってもらえるのなら喜んで食べるが、自分でお金を払ってまでは食べなくてもいいかな、という気がする。
下林君の分だけを手にして、俺はみんなのところにも戻ろうとした。
だけど、ふいに思い出してしまう。
勝負の開始前に「私、クッキー&クリームが食べたいし!」と嬉しそうに言っていた三間坂さんの声と顔を。
あんなこと言ってたのに、三間坂さん、自分用のアイスを買ってなかったな……。
負けて自分で買うのはプライドが許さなかったのだろうか? それとも、ボウリングしているうちに欲しくなくなったのかな?
……いや、あんな顔で言っていたのに欲しくないってことはないだろう。
プライドの問題なら、自分で買わなかったらオッケーかもしれない。
俺は財布を開くと、お金を取り出して硬貨投入口に放り込む。
クッキー&クリームのボタンを押し、ゴトンと音を立てて出てきたアイスを取り出し、2本のアイスを手に、みんなのところへ戻っていった。
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