第30話 帰り
「……ごめん。俺のせいで……」
謝罪の言葉を口にするが、謝ってどうにかなる問題ではないことは俺が一番よくわかっている。二人から答えを託されたのは俺だったんだ。
それなのに俺は失敗した……
「何言ってるの。高居君のせいじゃないよ」
「そうですよ」
二人とも俺を責めはしなかった。むしろ口調からは、俺を気遣ってくれているのが伝わってくる。
二人がそういう人だと言うことは、俺もよくわかっている。
だからこそ余計につらい。
むしろ俺のせいにして怒ってくれたほうが楽だったかもしれない。
駅までの帰り道、背中から第2問目を出題する司会者の声が聞こえてきた。
……もっと三間坂さんと一ノ瀬さんと一緒にクイズをやりたかったなぁ。
会場の最寄り駅も、そして電車の中も、すごい混みようだった。
1問目で敗れた約半数が一気に帰路につくのだから当然と言えば当然のことだった。
その混雑する電車の中で俺にできるのは、ほかの男子高校生が三間坂さんや一ノ瀬さんに下手に体を寄せてこないよう目を光らせることくらいだった。
もっとも、みんな紳士的で不埒な輩は見当たらなかったが。
それに、電車内がこれだけ込み合っているのに、優先座席だけは誰も座らずぽっかり空いていた。
クイズには負けたけど、ここにいる全員心までは負けていない、そんなふうに思えて、俺もいつまでも引きずってちゃいけないなって気がしてきた。
乗り換え駅についた俺は、てっきりこのまま帰るものだと思っていた。勝ち残るつもりだったから、早く終わった場合どうしようなんて話はしていなかったから。
親には遅くなるかもしれないと言って出てきたが、恥ずかしいくらい早々に帰宅することになるな。
俺はそう思っていたのだが――
「ねぇ、せっかくこんなとこまで来たんだから遊んで帰らない?」
多分一番高校生クイズを楽しみにしていたのは三間坂さんだろうに、ちょっと楽しそうな顔で三間坂さんがそんなふうに誘ってきた。
俺としては、もうちょっと二人と一緒にいたいって気持ちと、今はまだそんな気になれないって気持ちが半々といったところだ。
「そうですね。時間はたっぷりできちゃいましたし」
見れば一ノ瀬さんも割と乗り気だった。二人がその気なら俺に拒否権はない。なにしろ1問目敗退は俺のせいなんだから。
俺達は駅から出て、街をぶらつくことになった。
「あ、ちょっと遊んでいこっ!」
地元の駅周辺とは違う賑やかな駅周辺の商業施設を見ながら歩いていたところ、先頭を歩いていた三間坂さんがアミューズメントセンターの中に入っていった。
俺達の主導権はいつの間にか三間坂さんが握っている。彼女が入っていったのなら、俺も一ノ瀬さんにそれに従うだけだ。
店の中には様々な音と光が溢れていて、沈んでいた俺の心が少し盛り返してきたような気がする。
そういえば、女の子とこんなところに来るのは生れて初めてだ。ちょっと緊張してきたかもしれない。
「マリカーやろ、マリカー!」
三間坂さんが指さしたのは、家庭用でもお馴染みのレースゲームだった。有名キャラクター達がカートに乗って、アイテムを駆使しながら競い合うレースゲームだ。
三間坂さんは俺達の答えも待たずに四台並んでいる大型筐体の左から二つ目に座った。こうなったら俺達ももうやるしかない。
一ノ瀬さんが三間坂さんの左の筐体に、俺が三間坂さんの右の筐体に座ってコインを入れる。
カメラに顔をあわせると、俺の顔にキャラの特徴をかぶせた画像が現れた。レース中はこの顔が表示される。嬉しいような恥ずかしいような微妙な気持ちになるやつだ。
俺は、続いてコースを選び、ほかの二人のコース選択を待つ。
決定したのは割とカーブが多めのコースだった。なんとなく、三間坂さんが選んだんだろうなって思う。
コース決定が終わり、画面はスタート前のレース画面へと変わった。
俺のカート以外だけでなく、三間坂さんと一ノ瀬さんのカートも画面に映る。当然、二人の顔の画像も。
やべっ。
荒い画質で、キャラの顔パーツも被っているのに凄く可愛い!
清楚な一ノ瀬さんがちょっとコミカルな感じになっていて、ギャップ的な可愛さがたまらない。
そして、三間坂さんも一ノ瀬さんに負けないくらい可愛い。写真映りがいいのか、なんだか一ノ瀬さんよりも可愛く見えてしまうかもしれない。というか、こうやってまじまじ女の子の顔を見ることなんてなかったから俺が気づいてなかっただけで、三間坂さんって3番目どころじゃなくもっと可愛い女の子だったのかもしれない……
――などと三間坂さんの画像に見とれていたら、俺は完全に出遅れてしまった。
くっ、俺としたことが!
これも三間坂さんの罠だったのか!
俺は後方から追いかける。
スタートに失敗はしたが、俺はアイテムを駆使しながら、コンピューターのキャラをパスしていき、前方を走る二人を追い上げた。
赤甲羅を所持したまま、まずは二番手を走行していた一ノ瀬さんを抜いていき、トップ快走中の三間坂さんに迫る。
このまま赤甲羅をぶつけてトップに立とうかとも思ったが、三間坂さん相手に使うのはちょっと気が引けて、俺はハンドルから放しかけた手を再び強く握った。
俺と三間坂さんの勝負に余計なアイテムなんて必要ない。
これは俺と三間坂さん、男と女の真剣勝負なんだ。
俺はコーナーで膨らんだ三間坂さんのインをつき、ついにトップに立った。
見たか三間坂さん! これが俺のドライビングテクニックだ!
そう心の中で喜んだ次の瞬間、俺のカートはひっくり返っていた。
「やったぁ!」
隣で三間坂さんが歓声を上げている。
俺は三間坂さんに赤甲羅をぶつけられていた。
俺が使うのを躊躇したのに、こうも躊躇いなく使ってくるなんて……
おのれ三間坂さん! 絶対負けねー!
再び動き出した俺は三間坂さんと一ノ瀬さんを猛追する。
ラストの3周目に入って、ついに俺は三間坂さんを追い抜き、トップに返り咲く。
三間坂さんのことだ、またすぐに妨害してくるだろう。だが、まだアイテムは何回か取れる。逆転の機会はまだまだある。
さぁ、仕掛けて来るならこい!
しかし、警戒しているのに三間坂さんは何もアイテムを使ってこなかった。いいアイテムが出ないのかもしれない。
ドライビング技術も俺もほうが上なのか、抜きにかかってくることもできないようだった。
ふふふ。
三間坂さんも所詮は女の子。
運転技術では俺に勝てないということだ!
三間坂さん、この勝負、俺がもらうぜ!
最後のアイテムを通過しても三間坂さんは何もしかけてこなかった。
今回もいいアイテムがでなかったのだろう。
勝負ありだ。
いよいよゴールが画面に見えて来た。
さぁ、俺のフィニッシュの時間だ!
俺はガッコポーズする準備をした――ところで、車が吹っ飛ばされる。
赤甲羅だと!?
「やった! ずっと残しておいたんだよね!」
そんな言葉を吐きながら三間坂さんが俺の隣を通り過ぎてゴールしていった。
俺が再出発する前に一ノ瀬さんまでが先にゴールしていく。
…………
三人の中で最後にゴールした俺は隣の三間坂さんに恨みがましい目を向けた。
「運転技術では私に勝てないということだよ、高居君」
三間坂さんは勝ち誇った笑い顔で俺を見ていた。
くそっ!
三間坂さんめぇぇぇぇぇぇ!
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