第28話 高校生クイズ予選開始前

 目的の駅に近づくにつれ電車内は混んでいくが、車と違って人が多いからといって渋滞するはずもなく、電車は定刻通りに乗り換え駅に到着した。

 乗り換えもスムーズに進み、俺達は予選会場の最寄り駅まで行く電車へと乗り込んだ。この電車はさすがに三人とも立つことなったが、乗っている時間は短いので大事な勝負の前に余計な体力を使うことはなかった。

 そして、目的の駅につくと、そこでトイレをすませた後、俺達は会場を目指して歩き出す。

 駅から会場まで、もしかしたら迷うかもと心配していたが、案内看板はあるし、何より同じ目的の人が周りにいたため、何の問題もなく予選会場の公園に俺達はたどりついた。

 そこは、公園内の広い野原のような場所だった。

 司会者が立つステージ、〇と×が描かれたボードなど、すでにクイズを行う準備はしっかり整えられている。おまけに、テレビの機材や撮影スタッフと思しき人の姿まで目についた。全国放送されるのは、各予選を勝ち抜いたチームによる決勝大会のみだが、予選の様子も各地方局で放送されている。つまり、決勝まで行けずとも、この予選でそこそこ勝ち残れば、全国放送ではないにしろ、テレビというメディアに俺達が映るかもしれないのだ。

 俄然やる気が湧いてくる。


 しかしながら、今の俺達には一つの問題があった。

 開始時間まではまだ1時間以上ある。

 早くつき過ぎたのだ。

 現に今会場にきている出場選手は、広い会場の中まだまばらにしかいない。


「やっぱり早すぎたのかな?」

「ごめん。俺が余裕をもって行こうとか言ったせいで……」


 一ノ瀬さんの言葉に、俺は思わず謝罪してしまう。

 今回、こんな早い時間にくることを言い出したのは俺だった。二人はそんな早くなくてもいいのではないかと言っていたのに、変に俺が心配性になってしまい、二人をそれにつき合わせてしまった。


「でも、遅れるよりはいいじゃない。こうやって、ここに来るほかの高校の人達もゆっくり見ることができるし。みんな、私達と同じ目的で来てるんだよ。高校は当然違うし、県も違うし、学年の組み合わせや性別の組み合わせも色々、やっている部活だって違う、そんな人たちがここに集まって、一番になることを目指して勝負する……なんかすごいことだよね」

「三間坂さん……」


 三間坂さんのおかげで、俺の中にあった申し訳ないという気持ちが消えていく。

 高校生の三人一組、共通点はそれだけでほかは全部違う。そんな人たちが今もこの会場へどんどん歩いて向かってきていた。

 他の都道府県の人達とは直接競い合うことはないけど、それでもみんなライバルだ。


 俺は時間潰しもかねて、そんなほかの出場者達に目を向ける。

 制服組は思ったより少ない。やっぱり私服が多いな。

 あと、男女混成チームも少ない。

 そういうこともあってか、制服の三人組で、男1女2の俺達はわりと目立っているのか、結構視線を向けられていた。

 もっとも、その視線は俺に向けられているわけではなく、もっぱら隣の二人に向けられているのだが。

 それと、視線を向けてくるのは大半が男だった。

 けど、その気持ちは非常にわかる。

 一ノ瀬さんと三間坂さんは、クラスの中でもトップクラスの美少女二人。他校の制服を着た美少女二人だぞ、ほかの学校の男子が見ないわけがない。

 それに、ここに集まってきているほかのチームの女の子を見ても、正直、一ノ瀬さんや三間坂さんほど可愛い子は滅多にいない。いてもせいぜいチームに一人。同じチームにこんな可愛い子が二人もいるチームなんてマジでない。

 こんなこと言ってはなんだが、俺の優越感はすさまじい。ほかの男から見れば、両手に花状態だ。

 どうだ、羨ましいだろ!

 決してどちらかと付き合っているわけではないが、そんなことはほかの奴らにはわからない。勝手に勘違いしてくれれば、ますます俺の優越感は増していくというものだ!


「高居君、なんだか悪い顔をしているけど、変なこと考えてない?」


 三間坂さん、いつもながら鋭いな。


「きっと気のせいだと思うよ」


 ごまかしたつもりだが、本当にごまかせているかどうかはわからない。


「すみません、ちょっといいですか」


 俺が三間坂さんの視線に冷や汗を流しているところに、女の子たちが声をかけてきた。


「私達三人は新聞部で、今回のクイズ甲子園のことを学校新聞の記事にするんですけど、よかったらお話を聞かせてもらえませんか?」


 三人の女の子は明らかに俺達に話しかけていた。

 まさか、同じ高校生からとはいえ、取材を受けることになるとは思っていなかった。


「はい、かまいませんよ!」


 三間坂さんは、俺と一ノ瀬さんの了承も得ずに、即答でオーケーする。まぁ、俺も断るつもりはないから全然いいんだけどね。


「今日はどこからこられたんですか? 高校名と、お名前も教えてもらっていいですか?」

「はい。私達は――」


 このチームの代表者は三間坂さんだ。彼女の声かけから始まったんだから、当然そうなる。

 だからというわけではないが、女の子たちの質問には、三間坂さんが淀みなくすらすらと答えていった。

 出場動機とか目標とか、そのあたりの一般的な質問が続いていく。


「ところで、三人はどういう関係なんですか? 女子2人に男子1人ってあまりない組み合わせですよね。もしかして、どちらかの彼氏さんだったりするんですか?」


 彼女達の質問に俺の胸が大きくざわつく。

 三間坂さんはなんて答えるんだ?

 新聞受けを狙って、俺が一ノ瀬さんのことを好きだから、それを応援するためにこの3人で組んだとかそういうおかしなことを言ったりしないよな!?

 あるいは、俺のことが前から気になってたからチームに誘ったとか、こんなところでいきなりそんな驚きの告白をしたりしないよな!? 俺には一ノ瀬さんという心に決めた人がいるから、そんなこと言われても困るし、このあとのクイズに絶対影響してしまうぞ!


「違いますよー。同じクラスの3人です。席が近かったり、体育祭の出場競技が同じだったりして仲良くなった感じですね」


 ……だよね。

 うん、わかってた。

 今の俺は二人にとってちょっと仲の良いクラスメートでしかない。

 いや、わかってたんだよ、まじで。


「ですよねー。お二人ともすごく綺麗だから、たぶん違うだろうなとは思ってました」


 ……ん?

 今この人、変なこと言わなかったか?

 まるで俺では二人に釣り合わないような、そんな言い方に聞こえたんだけど?

 俺の気のせいだよな?


「でも、なんだかすごく雰囲気よかったからもしかしたらとかも思ったりしたんですけど……えっと、写真も撮らせてもらってもいいですか?」

「ええ、いいですよ」


 彼女達が何か気になることを言ったような気がしたが、写真撮影の流れになり、俺に落ち着いて考える余裕はなくなった。

 カメラを構えられ、それまで、俺、三間坂さん、一ノ瀬さんという並びだったのに、急に三間坂さんが俺の空いている側に移動し、俺は三間坂さんと一ノ瀬さんに挟まれる形になった。

 しかも、俺の右側に回った三間坂さんは自然な感じで左手を俺の左肩に回してくる。

 体育祭の二人三脚と同じ位置だから、三間坂さんにとっては条件反射的なあれか?

 これって俺も肩に手を回した方がいいんだろうか?

 三間坂さん一人だけ肩に手を回してたら変だよな……


 俺も三間坂さん同様、右手を三間坂さんの右肩に回した。

 二人三脚の時には平気でできてたことなのに、今回はなぜかひどく緊張してしまった。

 あれからもう二箇月近く経っている。きっと久しぶりだからだろう。


「せっかくだからピースしようよ、ピース」


 三間坂さんの提案で俺達は胸の高さにピースサインを掲げた。右手は三間坂さんの肩に回しているから、俺は左手でピースサイスを作ることになった。

 そうして、俺と三間坂さんが肩に手を置き合っている三人の写真が、名前も知らない女の子によって撮られた。


 こんな写真が彼女達の学校新聞に載せられたら、絶対に俺と三間坂さんが付き合っているとか思うやつがいるよな――質問を終えた彼女達が離れていってから、俺はそんなことに気付いてしまった。

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