第46話 クラスの出し物決定
文化祭実行委員会が行われた後の次のHRで、実行委員の関岡君から希望を出していた出し物の決定内容がクラスのみんなに伝えられた。
「――ということで、このクラスは教室展示に決まりました。結果的には、うちのクラスだけでなく、1年生は全クラス教室展示になっています」
ようは3年生と2年生は全クラス体育館でのステージ劇か、教室での劇を希望し、教室展示を選ぶところはなかったということだ。高学年で劇の枠をすべて取られてしまっては、1年生は余りものの教室展示になるしかない。
可能性は高くないと理解しつつも劇に期待を持っていたクラスメイト達は一様に沈んだ様子を見せている。
正直、俺だってがっかりだ。
シナリオも決まってないのに、勝手に一ノ瀬さんと三間坂さんのダブルヒロインを期待し、俺もちゃっかりその劇に出たいとひそかに思っていただけに、残念としか言いようがない。
しかし、こんな理不尽な決め方があっていいのだろうか? 公平にクジ引きとかならまだわかるのだが。
そもそも、1つしかない体育館ステージの劇に限りがあるのはわかるが、それ以外のクラスが全部劇をやったっていいんじゃないのか? 模擬店もできない文化祭で劇以外をやるなんて罰ゲームみたいなものじゃないか。
三間坂さんも劇をやるならどんな役でも出てみたいと言っていたからきっと悔しいだろうなと思って、俺は隣の三間坂さんに視線を向けてみる。
あれ?
てっきり残念がっていると思ったのに、三間坂さんは意外と平気そうだな。言ってたほど劇に興味がなかったのか、あるいは最初から劇の希望が通ると思っていなかったのか……。
いや、そういうのじゃない気がする。
劇がダメならダメで割り切って、その上で楽しもうとしているような期待感さえ感じる。
これはどういうことだろうか?
「というわけで、教室展示となったわけですが、どのようなこのクラスは教室展示をすればよいと思いますか? 案があればなんでもいいので出してください」
俺が三間坂さんの様子に疑問を感じている間にも、実行委員の二人は話を進めていた。
教室展示と役割が決まったのだから、それに向けて中身を詰めて準備を進めていかねばならない。
とはいえ、展示って言われてもなぁ。
文化祭で展示なんてしてても、自分達自身でさえ見る気にならないから、当然ながらやる気も湧いてこない。
好きなアニメかゲームに関する展示とかならまだやる気も出てくるが、さすがにその案が採用されるとは俺も思っていない。
ほかのみんなも思っていることは俺と大差ないのだろう。
誰からも何の意見も出てこなかった。
それ以前に、どんよりとした空気さえ漂っている。
中には劇になることを想定して、候補となるシナリオを考えてきてたやつだっているかもしれない。
それを思えば、こんな空気になるのも当然だと思えた。
「質問いいですか?」
そんな中、俺の隣の三間坂さんが手を挙げた。
こんな状況でも積極的な姿勢を見せる三間坂さんには素直に感心する。
関岡君に当てられ、三間坂さんは立ち上がった。
「展示というのは具体的にどういうものを指すんですか? たとえば、展示という名目で劇をするようなことをしてもいいんでしょうか?」
――――!
三間坂さん、すごい掟破りなことを考えてきたな!
なるほど。劇を展示するというスタンスに立てば、教室展示でも劇ができる。
三間坂さん、なかなかの策士だな!
「いえ、劇はダメです。展示に関しては特に細かい決め事はないそうですが、劇は教室劇があるのでダメだと実行委員会でも言われています」
せっかくの三間坂さんの提案は池さんにあっさり否定されてしまった。
わざわざ実行委員会でそういうことを伝えるということは、過去に三間坂さんのような手を使おうと考えたクラスがあったのだろう。
三間坂さん、よい考えだと思ったけど、その道はすでに誰かが通ろうとして失敗した道だったようだよ。
でも、なんとかしようとよく頑張ったと思う。
俺は三間坂さんの頑張りを称賛するよ。
俺は席に座った三間坂さんに慰めの言葉でもかけようかと思っていたが、三間坂さんは立ったままでまだ座らなかった。
「ということは、展示という名前だけど、劇以外ならたいていのことをしてもよいということでしょうか? たとえばお化け屋敷なんかも展示の中に含まれると考えていいのでしょうか?」
「そうですね。過去に教室展示でお化け屋敷をされたクラスはあるみたいです」
――――!
今の三間坂さんと池さんとのやり取りで教室の空気が少し変わった。
俺もそうだが、展示と聞かされ、何やら文化的な展示をしなければならないとほとんどの生徒が考えていたはずだ。
だけど、展示を劇以外ならなんでもいいイベントと捉えれば、楽しみ方は一気に広がる。
「だったら、脱出ゲームみたいなのもありってことですよね? 順番に謎解きとかミニゲームみたいなのクリアしていって、最後までいけたらクリアみたいなの。あ、でも、それだと最後の方のイベント担当の出番がなかなかないから、イベントはクリアできてもできなくても次のイベントに進んでいく形の方がおもしろいかな? 最終的に全部クリアできたら何か賞品をプレゼントして、クリア数が少なかったら逆に罰ゲームとか、そういうのどうかな?」
三間坂さん、君っていう人はなんてすごい人なんだ。
三間坂さんの今の言葉で、さっきまでがっかりしていたクラスメイト達の顔が一気に熱を帯びたものに変わっていた。
俺もさっきまで教室展示なんてクソつまらなそうだと思っていたのに、三間坂さんのアイデアを聞いて、すごく楽しく……もしかしたら劇よりも楽しく思えてきたかもしれない。
「それおもしろそう!」
「いいじゃん!」
「やりたいかも!」
クラスメイト達からも賛同の声が上がっていく。
そして、三間坂さんが言ったアイデアを軸に、皆が意見を出し合い、俺達の教室展示の方向性が決まっていった。
タイトル「君は無事脱出できるか? 謎のダンジョン1-7」。
教室に仕切りを立て、複数の部屋を作る。参加者は、教室に入る際にカードを受け取り、最初の部屋から順番に、そこで提示される謎解きやミニゲームなど様々なミッションに挑戦し、成功失敗にかかわらず、次の部屋へと進んでいく。成功時にはカードにシールを貼ってもらい、最後まで進んだ時に、全シールコンプリートならば、クジを引いて賞品をゲット。失敗ならば、罰ゲームとして処刑人からハリセンを受ける。ちなみに、賞品は各家庭から不用品を持ち寄ってそれを賞品とする。
決まった内容は、こんな感じだった。
正直、これなら俺が参加者なら、絶対にやってみたいって思う!
劇ができないと決まった時はがっかりしたけど、この内容の展示なら楽しめそうだ!
功労者といえる三間坂さんは俺の隣で、やる気に満ちているほかのクラスメイトを見てニコニコしていた。
「……三間坂さん、すごいよ。素直に尊敬する」
俺は面と向かっていうのが恥ずかしいので、三間坂さんの方を向きながら、自分にだけ聞こえる声でそう伝えた。
「……ん? 何か言った?」
三間坂さんがキラキラした顔を俺に向けてくる。
「……三間坂さんのおかげだって言っただけだよ」
「にゃははは、そうでしょ! もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
三間坂さんを褒める言葉なんて、考えなくてもいくらでも出てくるよ。
恥ずかしいから言わないけど。
「調子乗りすぎ」
「にゃはははは」
可愛くて賢くて、すごい人だよ、この人は。
無邪気に笑う三間坂さんを見て俺は心からそう思った。
クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる グミ食べたい @katia_kid
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます