第4話 三間坂さんと一ノ瀬さん

「高居君って絶対一ノ瀬さんのこと気になってるよね」


 休み時間にぼーっと一ノ瀬さんを見ていたら、三間坂さんが鋭いことを言ってきた。

 三間坂さんはホントに勘がいいからやっかいだ。


「……別にそんなことはないと思うけど」


 三間坂さんにどこまで通用するかわからないが、俺としてはとぼけるしかなかった。三間坂さんに本当のことを知られると、色々とからかわれそうな気がしてならない。


「遊びに誘ったりしないの?」


 同級生の女子を遊びに誘うだって?

 そんな恐ろしいことができるわけないじゃないか!

 そんなのもう好きだって告白しているのと同じだ。せめてお互いに友達として認識しあえるようになってからじゃないと、そんなこと、とてもできたものじゃない。


「私が一ノ瀬さんを一緒に遊ぼうって誘ったら、高居君もくる?」


 俺は風が起こりそうな勢いで三間坂さんのほうに顔を向けた。


「お、ようやくまともに反応したね」


 くっ! 俺をからかうつもりだったのか!

 三間坂さんはこういう人なんだ!

 からかわれそうだと判断した俺は正しかったんだ!


「でも、女子二人と男子一人だとバランス悪いから、誰か誘える? あ、もちろん、クラスの男子ね。クラスメートと親睦深めようってことで誘うんだから」


 あれ?

 もしかして、からかってるんじゃなくて、本気で言ってるのか?


「……クラスの男子を誰か誘えばいいのか?」

「そそ。一ノ瀬さんの方は私がなんとかしてあげるから」


 え、もしかして、三間坂さんって神だったの!?

 いや、待て! きっとこれは孔明の罠だ!

 後で「何本気にしてるの」とか言って、また俺をからかう気に違いない!

 しかーし、万が一、本当だったら、一ノ瀬さんと一緒に遊ぶ千載一遇のチャンスじゃないか……。

 うむむむ、俺は一体どうすれば……


「とりあえず、連絡先交換しようよ。日程は一ノ瀬さん優先ね。空いてる日聞いたら連絡するから、そっちが合わてよね」

「わかった……」


 自慢じゃないが休みの日の予定なんてほんどない。いくらでも合わせることはできる。


「はい、さっさとスマホ出して」

「……わかった」


 なんやかんやの内に、俺のLINEに三間坂さんを登録してしまった。

 初めての女子の登録。

 その相手が三間坂さんだというのがちょっとアレだけど、初女子はなんか嬉しいかもしれない。リア充に一歩近づいた感じがするというかなんというか。

 このまま順調にいけば、一ノ瀬さんを登録する日がそう遠くない日に来るかもしれない。

 俺は淡い期待を抱いてしまう。


「高居君、何嬉しそうな顔してるのよ。もしかして私とLINE交換したことが嬉しいの?」


 違う! 断じて違う! 一ノ瀬さんを登録した日のことを想像して顔がにやけてしまっただけなんだ!

 でも、それを言うと絶対にキモく思われそうだから言えない……。

 なんという悔しさだろうか!

 俺はまたいじってくるつもりなんだろうと思いながら、少し恨めし気な視線を三間坂さんに向けた。


 ……あれ?

 面白がっているというよりは、なんか三間坂さんが嬉しそうなんだけど?

 理由はわからないけど、そういう顔をされると、何か余計なことは言えなくなってしまう。

 三間坂さんには一ノ瀬さんとの約束を取り付けてもらわないといけないし、機嫌がいいならそれにこしたことはないだろう。

 俺は口では何も言わず、LINEで「よろしくお願いします」とだけ三間坂さんに送った。

 三間坂さんからは変な顔のキャラのスタンプが送られてきたが、俺にはその意図はよくわからなかった。

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