第42話 三間坂さんとウォータースライダーの順番待ち

 俺と三間坂さんがやってきたのは、二人乗りの浮き輪に乗って滑るウォータースライダーだ。

 こんなのにカップルで乗る奴らなんて不幸になれと思っていたのに、まさか自分が乗ることになるとは思わなかった。

 でも、俺と三間坂さんは別にカップルじゃない。自分がかけた呪いは俺にはかからないはずだ。

 とはいえ、周りの人に俺達の関係がわかるはずもなく、俺達は並んでいる間、特に男同士で並んでいる連中から様々な視線を向けられていた。


 そういった連中はまず三間坂さんにいやらしい目を向けてくる。俺はできるだけ男達の視線と三間坂さんの体との間に入ろうとするが、前からも後ろからも見られてるとさすがにどうしようもない。

 見ず知らずの男どもに三間坂さんの水着姿を見られてしまうのは、別に彼氏でもないのに、なぜか腹立たしくなる。


 また、三間坂さんをそういった目で見てた奴らは次に俺に視線を向けてくる。

 羨ましげに見てくる奴らはまだいいが、三間坂さんの一緒に乗るのがなぜこいつなんだ?みたいな目で見てくる奴らもいて、これがまた無性に腹が立つ。

 確かに三間坂さんは可愛さではクラスで3番目だ。一番ではないけど、客観的に見て可愛い。その相手が俺では役者不足なのは自分でも理解している。

 だが、頭と感情とは一致しないのだ。自分のレベルがわかっていても、腹が立つものは立つ。


「もうすぐだね!」


 俺がそんなふうにずっと三間坂さんを男の視線からガードしつつ葛藤しているのに、三間坂さんはほかの男達の視線をあまり気にしてないように、きらきらした顔を俺に向けてくる。

 単純に男どもの視線に気づいてないのか、そういう視線に慣れ過ぎて気にならなくなったのか……。あるいは、ウォータースライダーに乗れることに興奮して、ほかのことを気にする余裕がないのか……。三間坂さんのウキウキした様子を見てると、本当にそうなのかと思えてくる。

 三間坂さん、実はウォータースライダーがめちゃくちゃ好きだったのだろうか?


 そして、いよいよ俺達の番がやってきた。

 さて、こういう場合、前と後ろ、どっちがどっちに座るべきなんだろうか?

 今まで滑った人達を見ていると、男女の場合、前に女の子が乗っていることが多かった。

 やっぱり前の方が楽しそうだし、そっちに三間坂さんに乗ってもらうべきだろうか?


「じゃあ、三間坂さんが前に――」

「私、後ろに乗るから、高居君は前ね」

「え?」


 せっかく俺が色々考えたのに、あっさり三間坂さんに逆の乗り方を言われてしまった。


「三間坂さんが前の方がいいんじゃないのかな? 女の子はたいてい前に乗ってるみたいだよ?」

「いいからいいから! 後ろが重いと浮き輪がひっくり返るかもしれないし!」


 そういうものなのか? 途中で浮き輪の前が浮いている人達なんて見たことないぞ?

 疑問は残るものの、三間坂さんが後ろがいいというのなら、俺はそれに応えるだけだった。三間坂さんに喜んでもらうこと、それが一番大事だからな。


「わかった。じゃあ、僕が前にいくよ」

「うん!」


 俺が先に浮き輪に乗ると、続いて後ろに三間坂さんも乗る。


「――――!?」


 座った俺の体の両側から三間坂さんの綺麗で張りのある足が出てきた。

 いや、後ろに乗った人の足が前の人の横にいくのは当然なんだけど……。

 触れてる! 三間坂さんの生足が俺の体に触れてるって!

 ちょっと三間坂さん! 健全な高校生男子を相手にこれはなかなか挑発的な行動ではないか!?

 冷静沈着なはずの俺の心臓が激しく鼓動し始める。


「私、男の子と一緒に乗るの初めてだよ」


 すぐ耳元で三間坂さんの声が聞こえた。

 三間坂さん、近い!

 言葉の内容にもドキドキしてしまうが、声の近さに驚いてしまう。耳で三間坂さんの息遣いまで感じてしまいそうだ。

 だが、実はそれ以上に俺を混乱させているものがあった。それのせいで、言葉の内容も息遣いのこともすぐに考えられなくなる。

 なにが俺を混乱させているかといえば、それは俺の背中に当たる柔らかな感触だった。

 声の近さから三間坂さんが密着に近いところまで近づいていることはわかる。それはつまり、俺の背中に触れているのは、三間坂さんの二つの膨らみということになり……。


 …………


 ちょっと三間坂さん!

 今、とんでもないことしてるんじゃないんですか!?


 俺の心は落ち着かない。そんな状態のまま浮き輪が前にスタッフにより押し出される。

 背中にあった三間坂さんの感触は離れたが、俺の心臓はバクバクしたままだ。


「高居君、いっくよー!」


 後ろから嬉しそうな三間坂さんの声が響く。

 いや、三間坂さん!

 俺をこんな落ち着かない気持ちにさせたのは君なんだよ!


 そして俺達を乗せたウォータースライダーは滑り出した。

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