第16話 出場種目決め

 HRの時間になり、種目決めの時間がやってきた。

 体育委員の原田君と柴咲さんが中心になって進めてくれる。

 決め方としては、全員が第一希望を書いて提出し、人数が多かった場合はクジ引きをするということになっている。

 俺は配られた色違いの3枚の紙に希望を書いていく。色を変えているのは、集計の時に一目見て、徒競走系、団体競技系、パフォーマンス系の区別がつくようにだ。

 俺はそれぞれの紙に「二人三脚」「お邪魔玉入れ」「オリジナル」と希望を書いて提出した。

 全員の分が集まると、体育委員の二人が紙を開いて仕分けをしていく。


 待っている間に、三間坂さんが話しかけてくる。


「二人三脚にした?」

「うん」

「一ノ瀬さんに話したら、私と一緒だったら二人三脚にするって言ってたよ」

「そうなんだ……」


 これで一ノ瀬さんを説得できなかったとか言われたら泣くところだったが、とりあえず、三間坂さんに感謝。

 だが、希望通りにいくかどうかという重要な問題が残ってる。

 二人三脚の人気というのは、正直読み切れない。

 女子の出場者が一ノ瀬さんと三間坂さんだとわかっていたら、男子はかなりの奴が希望しそうな気がする。でも、相手がわからない状態だとどうなんだろう? 女子と一緒ということで恥ずかしがって敬遠する奴も多いだろうけど、逆に希望する男子もいそうだ。特に陽キャラ連中は要注意かもしれない。

 でも、問題は男子だけじゃない。女子の方で一ノ瀬さんの希望が通るのかどうかも重要だ。男子とペアとなるとわかってるから二人三脚を希望種目にする女子は少ないのかもしれないけど、女子とは言え健全な高校生、逆に希望する可能性も捨てきれない。正直、女子の考えてることはよくわからないからなぁ。


「うまく希望通りにいくといいよね」

「そうだな、でも、こればっかりは運に任せるしかないな」


 そうこうしている内に、体育委員の集計が終わったようで、教室の前にいる二人が顔を上げた。


「それではまず、出場枠と希望人数がピッタリだった競技を発表します。徒競走系では1競技だけ、二人三脚ですね。仙石君、高居君、一ノ瀬さん、三間坂さんの4人は決定です」


 ――――!

 原田君の言葉にびっくりした俺が隣の三間坂さんの方に顔を向けると、三間坂さんも同じようにただでさえ大きな目をさらに大きく見開いて俺の方を見ていた。

 まさに二人して顔を見合わせるという状況だ。


「あっさり決まっちゃったね」

「そうだな」

「グーパーでペア決める時、今度は間違えないでよ」


 まるで前回のボウリングの時の失敗が全部俺のせいみたいな言い方だが、今は怒りはわいてこない。今回ここまでお膳立てしてくれたのは三間坂さんだ。しかも、ちょっと卑怯だが、一ノ瀬さんと俺がペアになる裏工作まで整えてくれている。前の失敗の件を補って十分にお釣りがくる。

 もう一人の男子の仙石君は、クラスでも1、2を争うイケメンのうえ、身長も高い。万が一にも一ノ瀬さんとペアを組むようなことになったら、誰が見ても美男美女ペアになってしまって、一ノ瀬さんも仙石君に惹かれてしまうおそれがある。

 そういう意味で、俺と一ノ瀬さんが組めるように手段を考えてくれていた三間坂さんには、本当に感謝しかない。

 仙石君が何を出そうと、俺はパーを出し続けてやるからな!

 俺は自分の右手に目を向ける。


「それでは、二人三脚のペアですけど、勝つためには身長が近いペアの方がいいと思うので、一組は仙石君と一ノ瀬さん、もう一組は高居君と三間坂さんで登録しますね」

「…………」


 俺は自分の右手を見ながら固まってしまった。

 ……今、原田君がおかしなことを言ったような気がするけど、気のせいだよな?


 俺は救いを求めるように、隣の三間坂さんへと顔を向ける。


「なんだか勝手にペアを決められちゃったね。原田君、結構本気で勝ちたそうにしてたもんね」


 どうやら俺が聞いた言葉は気のせいでも空耳でもなかったようだ。

 確かに身長を見たら、俺より仙石君の方が高いし、三間坂さんより一ノ瀬さんの方が高い。二人三脚をするのなら、歩幅が近い方がやりやすいだろうから、組み合わせ的には背の高い者同士、低い者同士にするのがよいかもしれないが、そんな体育委員が一方的に決めるようなやり方でいいのか?

 第一、グーパーの組み分けは三間坂さんが考えてくれた策だ。三間坂さんだって、その策がこんな形で踏みにじられるのはよししないだろう。

 俺は何かを訴えかけるように彼女を見つめる。


「まぁでも体育委員に決められちゃったらしょうがないよね。またペアになっちゃったけどよろしくね」


 せっかくの計画が水泡に帰したというのに、なぜか三間坂さんは楽しそうだった。

 ……三間坂さんは相手が誰か気にならないくらい二人三脚が好きなのだろうか?


 俺がショックから立ち直れない間に、出場枠未満の希望者しかなかった競技、そして出場枠を超過して希望者数でクジ引きが必要な競技が発表されていった。

 お邪魔玉入れもオリジナルもどちらも希望者数が超過した競技だった。

 正直、二人三脚のペア決めでショックを受けていた俺は、そのあとのことをあまりよく覚えていない。

 気が付いた時には、俺はお邪魔玉入れのクジに外れ、棒引きというなんだかよくわからない団体競技に出ることになっていた。

 三間坂さんは希望通りお邪魔玉入れへの出場が決まったようで、嬉しそうにしていたのをちょっと覚えている。

 パフォーマンスについては、クジの結果、俺も三間坂さんも一ノ瀬さんオリジナルになった。


「やったね、一緒だね」


 三間坂さんはそんなこと言って喜んでいた気がするが、正直よく覚えていない。

 ああ、一ノ瀬さんとの二人三脚の思い出を作るはずがぁぁぁぁぁ……

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