第8話 ボウリング開始
シューズを借りて、ボールも取ってきて、いよいよゲームを始める準備が整った。
ボールの重さは、俺が12ポンド、三間坂さんも11ポンド、一ノ瀬さんが10ポンド、下林君が15ポンドだ。ちなみに、1ポンドは約450グラムだから、10ポンドは約4.5キロ、11ポンドは約5キロ、12ポンドは約5.5キロ、15ポンドは約6.7キロとなる。
男子高校生の俺が12ポンドは軽すぎではないかと言われるかもしれないが、俺はコントロール重視。重い方が、威力が増して有利なことは重々承知しているが、指や腕に負担なくボールを制御できるこの重さが俺にはベストなんだ。
なお、それぞれのチーム名は、俺達と三間坂さんが「ソラノユキ」、一ノ瀬さんと下林君が「ウミノシズク」となった。
「ねぇねぇ、どうせやるなら何か賭けない?」
おいおい三間坂さん、賭け事は法律で禁止されているんだぞ。
「いいかもな。じゃあ負けたチームは勝ったチームに自販機のジュースでも奢る?」
「ジュースよりアイスにしようよ、アイス! ここ、アイスの自販機あるし。一ノ瀬さんもアイスの方がいいよね?」
「私はどっちでも……」
「ほら、一ノ瀬さんもこう言ってるし、アイスで決定ね」
三間坂さんよ、一ノ瀬さんは一言もアイスがいいとは言っていないぞ。
しかし、どっちでもいいということは、すでに賭けを受け入れること前提の発言になってしまう。賭けをするかどうかではなく、賭けの内容を聞くことで自然と賭けを受け入れさせるとは、三間坂さん恐るべし。
3対1になってしまうと、もう俺ではこの状況をひっくり返せない。
まぁ、この前テレビで、一時の娯楽に供する物は罰則に当たらないって言ってたから、アイスを賭けたくらいで捕まることはない。俺もそこまで反対する気はないから別にいいんだけどさ
「高居君、勝つよ! 私、クッキー&クリームが食べたいし!」
チームごとにわかれて座ることになり、隣の三間坂さんがこっちに顔を向けて来た。
ちょっと三間坂さん、顔が近いよ。
それに、食べたいのなら普通に買ったほうがよくないかい?
とはいえ、勝負となったら俺も負ける気はない。一ノ瀬さんにアイスを奢るのは全然かまわないが、一ノ瀬さんにアイスを奢ってもらう機会もそうそうないだろうから、この勝負は出来るならものにしたい。
「俺も負けるつもりはないよ」
「おおっ! 言うじゃない! 頼りにしてるよ」
こうして、アイスをかけた「ソラノユキ」と「ウミノシズク」との戦いが始まった。
先に投げるのは五十音順でというよくわらからない理由でウミノシズクからだ。
「それじゃあ、まず女子からどうぞ~」
「えー、私からなの?」
こういう場合もレディファーストと言うのだろうか?
しかし、先に女子に投げさすとは下林君もまだまだだな。ここは先に投げてストライクでも出して格好いいところを見せるべきだろうに。甘い男だ。
「ピンが残っても、俺が倒すから安心して投げていいぞ」
…………。
なるほど。そういう考えもあったか。
……今度俺も使おう。
「じゃあ、私から行かせてもらうね」
少し恥ずかしがりながら、一ノ瀬さんがボールを持って前へと進んでいく。
うむ、可憐だ。
パンツスタイルなのもスポーティでなんだかすごくイイ!
一ノ瀬さんが一投目を投げた。
一ノ瀬さんは投球フォームも可憐だった。
その場に止まったまま両手で投げたりとか、トコトコって走っていって意味なく立ち止まって投げたりといったような変なことはせず、素直なフォームで、ボールがレーンにつく音さえ聞こえないくらいにおしとやかで美しい投球だった。
いやぁ、見ているだけで幸せな気分になる!
一ノ瀬さんのボールはヘッドピンにしっかり当たったものの、右の方のピンが三つ残ってしまった。
「あとは俺に任せておけって!」
下林君が自分のボールを手にレーンに向かっていく。
くそ! あの残り方なら俺でもスペアを取っていいところを見せられるのに!
このままでは下林君においしいところを持っていかれてしまう!
外せ! 外せ! 外せ!
友達同士のボウリングで願ってはいけないことを考えてしまうが、これは仕方ないことではなかろうか。
……だよね?
「よっしゃ!」
だけど、俺の願いむなしく、レーンの方では下林君が力強いフォームから球速のあるボールを投げ、残った三つのピンを派手に弾き飛ばしていた。
ああ! しかも、戻ってきて、一ノ瀬さんと両手でタッチをかましているじゃないか!
くそっ! 本来ならそれをやっているのは俺のはずだったのに!
今更ながらにあの時のグーパーが悔やまれてならない!
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