第7話 ボウリングのチーム分け

 たわいのない話をしながら、俺達はボウリング場に到着した。

 俺のボウリングの腕は、うまいと言えるほどではないが、それほど下手でもない。平均すればだいたい120いくかいかないかくらいだ。一度150を超えたこともある。

 だから、一ノ瀬さんよりスコアが下という恥ずかしい姿を見せることはないと思っている。

 三間坂さんには……なぜか一ノ瀬さんよりも負けられないと思ったりしてしまう。理由はよくわからないが。


「投げる順番はどうする? とりあえず男女が交互になるようにするとして」


 むっ、下林君、なかなかやる気だ。色んな意味で。


「あー、待って待って。せっかくだから親睦深めるためにチーム戦やろうよ」


 おいおい、三間坂さん、何を言い出すんだ? ボウリングでチーム戦ってなんだ!?


「三間坂さん、チーム戦ってどういうこと?」


 一ノ瀬さんの疑問は当然だ。俺も同じ気持ちだ。

 ……なんだか一ノ瀬さんと同じ気持ちだと思うと幸せな気持ちになってしまうな。


「男女でペアになって、1投目を女子が投げたら、2投目は男子。次のフレームは逆に1投目を男子が投げて2投目は女子って感じで、お互いがカバーしながら1フレームを2人でやるっていうのはどう?」

「私、あまり上手じゃないから迷惑かけちゃいそう」

「でも、おもしろそうじゃん! 俺がカバーするから平気平気!」


 む、もしかしてそのルールでやる流れ? でも、ちょっと興味あるかもしれない。これって同じペアになった女子と絶対親しくなれるチャンスだよね。一ノ瀬さんとペアを組めれば、今まで教室でもあんまり喋れてなかったけど、一気に仲を深められるかもしれない!


「高居君ももちろん賛成だよね?」


 三間坂さんが俺にウインクしながら確認してきた。

 ん? どういう意味だ?

 ……もしかして、俺と一ノ瀬さんがペアになれるような秘策を用意してくれてたりするんだろうか。もしそうなら三間坂さんには感謝しいかないわけだが。


「僕もいいと思うよ」


 三間坂さんの真意はわからないが、このルールは俺にとって悪いものじゃない。

 俺は、ここは素直に三間坂さんに賛成をした。


「組み分けばどうする?」

「男女それぞれでグーパーして決めましょ」

「そうですね」


 俺が何も言わないまま決まってしまったが、別に俺にも異論はない。確率は2分の1、自分の運を信じて一ノ瀬さんと同じペアになるように祈るしかない!


 ……ん、なんだ? 三間坂さんが俺の方をチラチラ見てるぞ?

 何か握りこぶしを出して、俺にアピールしているような……


 ――――!


 俺はピンと来た。ズルではあるが、三間坂さんは俺に合図を送ってくれているんだ!

 あれはグーを出せという合図に違いない!

 俺はどうやら三間坂さんという人を誤解していたようだ!

 こんな一ノ瀬さんと仲良くなる機会を作ってくれただけでなく、同じペアになれるように気を使ってくれるなんて!

 何かお礼でもしないいけないな、これは。


「おい、高居、何してんだよ、早くチーム決めしようぜ」

「あ、うん」


 くっ! 下林君め、あいかわらずイマイチ空気の読めない奴だ。

 俺は下林君の方へと向かった。


「それじゃあ、いくぞ。グーパーでわかれましょ!」


 下林君の掛け声にあわせて俺はグーを出す。下林君はパー。

 もしさっきの三間坂さんとのやりとりに気付かれていたなら、下林君にも延々とグーを出される可能性があったが、どうやらその心配はなかったようだ。あっさりと一発で男子の組み分けは決まった。


「男子の方、決まった?」


 三間坂さんが声をかけてくる。


「おう、決まったぞ」

「じゃあ、せーので出すよ。……せーのっ」


 三間坂さんの掛け声で、俺達4人は自分の出した手を前に出す。


 ふふふ、悪いな下林君。グー同士、一ノ瀬さんとペアを組むのは俺なんだよ。


 俺は自信満々で一ノ瀬さんの綺麗な手を見つめる。

 細くて長い指がピンと伸びててホントに綺麗な手だなぁ。


 ……ん? ちょっと待て! 一ノ瀬さんが出してるのはどう見てもパーじゃないか!


 慌てて三間坂さんの方に目を向けると、彼女はグーを出していた。

 ちょっと待ってくれ、なんなんだこれは!?


 あ、ありのまま今起こったことを話すぞ。

 俺はグーを出して一ノ瀬さんとペアになると思ったら、いつの間にか三間坂さんとペアになっていたんだ。

 な、何を言っているのかわからないと思うが、俺もなにが起こったのかわからなかった。

 頭がどうにかなりそうだ。催眠術だとか後出しだとかそんなチャチなもんじゃ、断じてない。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったような気分だ。


「おー、一ノ瀬、同じチームだな。よろしくな!」

「うん、迷惑かけるかもだけどよろしくね」


 くっ! 下林君が一ノ瀬さんのそばによって仲良さげに話している! 本当ならああやって話しているのは俺のはずだったのに!

 俺が悔しがっていると、三間坂さんが近づいて来た。

 む、ちょっと、近づきすぎじゃないでしょうか、三間坂さん。向こうのペアよりも相当くっついていて、三間坂さんの顔が近いんですけど。


「ちょっと、合図したのにどうしてグーを出しているのよ!」


 小声だが、三間坂さんの声がお怒り気味なのが伝わってくる。

 むむっ、どうして俺が怒られているのだろうか?


「いや、待ってくれ。三間坂さんがグーを出せと合図してくれたから僕はグーを出したんだけど……」

「違うって! あれは『私はグーを出すよ』っていう合図だよ!」


 ちょっと待ってくれ、三間坂さん。さすがにそれはわからないって! これってグーを出せという合図と勘違いした俺って悪くないよな?


「まぁ、でも、もうチーム決まっちゃったからしょうがないよね。一緒にやってれば一ノ瀬さんと仲良くなるチャンスもあるだろうし、ここは楽しむべきだよね」


 確かに三間坂さんの言うことも一理ある。今回のルールだと、場合によっては相手の足を引っ張ってがっかりさせてしまう可能性もある。そういう意味では、同じペアにならずにフラットな関係でいるほうがむしろよい可能性さえあるはずだ。


「そうだな。せっかくみんなでボウリングするんだし、楽しむのが一番だよな」

「そうそう!」


 せっかく三間坂さんがお膳立てしてくれた組み分けを失敗したのに、三間坂さんは笑顔を向けてくれた。

 うん、やっぱり、いい人だよな、三間坂さんって。

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