第26話 行け……“フェニックス”
ウィルキシュとズーカーは場を離れ、ムートへ追従。
ムート自身も着地に怯むキャスへライフルを構え直し、
「! わわっ! バエル! 護って!」
発砲。
弾丸がキャスの顔面目掛けて飛来するも、体積を広げた“バエル”が体内に納め、完全に停止させた。
「! なんだと!?」
ムートの他にウィルキシュとズーカーも横に歩み並びながら銃撃を行うが、全て“バエル”によって阻まれる。
“バエル”は受けた弾丸を、横からペペペっ、と吐き出した。
「よ、よーし! 予定どおりだ! そのまま、あたし達を囲むように護って!」
“バエル”はキャスもリタを円形に囲むように体積を広げて壁となる。
キャスからすれば“バエル”が弾丸を止められるかは完全に運だったが、細かいことは考えずに次はリタの解放へ向かった。
「リタさん! 聞こえる!?」
「……誰……?」
弱々しくもリタは反応を示す。モナの言った通り、肩と足に怪我をしており、適当な止血だけが施されていた。
「あたしだよ! キャスレイ! 今、外すからね! 皆で帰ろ!」
キャスはリタの口と手足を縛っている拘束を解きに入る。まずは目と口を取った。
「なんだぁ、この結び方! 固ったぁ……」
手足を後ろ手で拘束するガチガチの結び目を解く作業に苦戦していると、
「……私の事は……もう良いから……」
「え? なに?」
近づいてくるムート達の銃声と必死に結び目を解くキャスはリタの呟くような声は聞こえ難かった。
リタは少し声を張り上げる。
「……私は最初から……戦えなかったの。ずっと……怖かったのよ」
「仕方ないよ! こんな状況……あたしだって怖いもん!」
縄が緩み、そのままスルスルとリタの腕の拘束を解く。次は足首を縛るモノに取りかかった。
「でも……貴女は戦ってる……私にはもう無理なの……置いて行って……」
キャスとは目を合わせずに涙を流しながらリタは心内を告白する。
その様子にキャスは、ハンニバルが言っていた、“色々な意味で死んでいる”と言う言葉を思い出した。
「……安全な所に行けば大丈夫だから! 怪我をしたなら『宮殿』に――」
「私なのよ。裏切り者は」
静かにそう言ったリタの言葉に足の拘束を解いていたキャスの手が止まる。
「……私は……自分の命惜しさに……敵に命ごいをしたの。民が殺されてるのに……何でも話すから……助けてって」
「…………」
「……わかったでしょ? ハンニバルが言ってた裏切り者は私……私が――」
更に続けようとしたリタの襟首をキャスは掴んで強制的に引き起こすと自分と目を合わせさせた。
「リタさん。あたしは……こんな所で死ねないの! イラムスさんや……皆と約束したから! 序列1位の『魔女』になって……お婆ちゃんになるまで生きるって決めたから!」
「…………だから私を置いて逃げて……もういいから」
リタは強い意思を向けてくるキャスの瞳から逃げるように目をそらす。
「あたしの憧れる……【番人】ナギ・ヤタガラスって言う『魔女』は絶対に民や仲間を見捨てない。あたしはそんなナギ様を越えるの!」
「…………」
「リタさんが裏切り者でも……生きることを諦めてても、あたしは絶対にリタさんを見捨てたりしない! それが『魔女』だから!」
「――――」
その時、“バエル”が爆発し飛び散った。
ムートは“バエル”が何でも受け止めると言う特性を利用し、手榴弾のピンを抜いて投げ込むと、内側から粉々に爆散させたのだ。
囲むような“バエル”の防備が散る。
「! バエル――」
銃声。キャスは肩を撃ち抜かれ、貫通する弾丸の衝撃に倒れる。
「あぐっ!?」
「! キャス……」
「何も喋るな、指一つでも余計な動きをしたら、全員が死ぬと思え」
ウィルキシュは腕の拘束が解け、座り起き上たリタに銃を向け、ズーカーは肩を押さえるキャスに警戒の銃を向けていた。
「こい! 残りの魔女どもを表に引っ張り出せ!」
ムートは負傷したキャスの髪を掴んで起き上がらせて立たせると、そのまま晒し挙げる様に連れて行った。
作戦はこうだった。
まずは、“スプリガン”“バルバトス”“麒麟”で敵の注意を引きつつ、前に誘き出して、その間にキャスがリタを保護する。
その後“スプリガン”で、“バエル”が保護する二人を掬い上げて場を離脱する。
と言ったモノだったのだが――
「っ……」
敵の攻撃が激し過ぎて、顔を出せずキャスの様子が解らない。更に――
「どうしてなのよ。スプリガン……」
“スプリガン”に視線を移せなくなっていた。それが出来ればこの場で敵を薙ぎ払う事も容易いと言うのに。
すると、敵の攻撃が止んだ。
「隠れている『魔女』ども! 出てこい! さもなくば、お前達の仲間が死ぬぞ!!」
敵の声にそっと覗き見ると、キャスが捕まっていた。
――――私の……私のせいだ!
「スプリガン! 私を下に降ろして!」
ミカとモナは唐突に止んだ敵の攻撃にすぐには様子を伺えなかった。
“スプリガン”が動く気配はないが、近づいてくる気配もない。なら――
「バルバトス! 戻れ!」
「麒麟! 戻りなさい!」
拘束されている“使い魔”を一旦消す。これで、敵が近づいて来たら対抗策になる。
「隠れている『魔女』ども! 出てこい! さもなくば、お前達の仲間が死ぬぞ!!」
ムートのその言葉に物陰から様子を伺うと、キャスが銃を突きつけられて捕まっていた。
「っ!」
「キャス……」
どうする? 大人しく出て行ったら間違いなく殺される。しかし……キャスを見捨てるワケには――
「スプリガン! 私を下に降ろして!」
崖上から状況をいち早く知ったラシルが“スプリガン”の手の平に乗って姿を現し、敵の目の前へ降り立った。
即座にすべての銃口がラシルへ向けられる。
「お前が『巨人』を出す魔女か?」
「ええ。そうよ」
距離を置いてのムートとラシルの会話。ラシルは証明する様に指を鳴らすと“スプリガン”を消した。
「隠れてる残りの『魔女』も出てこい!」
「! 私を殺しなさい! それで十分でしょ!」
「履き違えるな。お前達に意見する権利はない! 出てこないなら見ている目の前でこの『魔女』に指の数だけ弾丸を撃ち込むぞ!」
ムートの脅しにモナとミカも物陰から出てくる。即座に兵士は銃を構えて包囲した。
「バケモノを出すなよ?」
「…………」
「…………」
ゲイツが二人に銃を構えたまま、前に行け、と首を動かし進ませるとラシルと並べさせた。
そして、膝をつけ! とその場に跪かせる。キャスも同じ様な姿勢にさせられ、後頭部に銃口を突きつけられる。
「これもあの男の指示か?」
「……え?」
ムートとしては、あの時目が合った“ハンニバル”の存在を懸念していた。
あの眼は……一時的、ペルキナ部隊の指揮を担っていたスピキオ姫と同じモノだったのだ。
敵も味方も全ての心を読み取るような見透かした眼。
もしスピキオ姫が敵であったらと……当時は悪寒を感じるほどの頼もしさだった。それ故に、ハンニバルの存在は絶対に無視出来ない。
「あの男も来ているのだろう?」
「…………」
別れ際のハンニバルの様子から見るに彼は――
「……そうか、来ないか」
ムートはラシルの表情からこの件にはハンニバルが関与していない事を読み取った。
跪かせた四人から距離を取るようにペルキナ部隊は銃を構えつつ間を空ける。
「バケモノを出して抵抗はするな。仲間が死ぬぞ」
リタの始末が出来るようにウィルキシュの姿を示唆する。
あの男は気になったが……指揮官だけ残ったとしても意味はない。手足を失ったら何もできん。
「総員! 誤射せぬ様に構えろ!」
四人へ、ペルキナ部隊全ての銃口が向けられ、ムートの次の合図で――
“ニバルさん、先に逝くよ。ナギ姉さんの事……お願いね”
「ああ。任せとけ、フウ」
“ワタシは子孫を見捨てられないねぇ”
「地獄で酒を飲もうぜ、リリルク婆さん」
八咫烏×イフリート
「行け……“フェニックス”」
ソレは太陽の光を凌駕する炎を纏って、上空より現れた。
だが……彼らがソレに気がついたのは
「! 総員! 上だ!」
唐突に周囲の温度が20度近く引き上がったからだった。
上空からこちらへ向かって急降下してくる一対の炎――いや、鳥へ向かって一斉に撃。
「――なによ……あれ……」
「……うっ……」
「太……陽?」
“炎の鳥”はラシル達『魔女』から見ても太陽が落ちて来たのかと思える程の熱と異常な魔力を纏っていた。
「ば、バエル! 皆を護って!!」
ペルキナ部隊の弾幕をモノともせず、“
全てを焼き尽くす熱を戦場に拡散させた。
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