第6話 魔女VS神
「ミカお姉ちゃん!」
「ネネ――」
「お前! お姉ちゃんから離れろ!」
走ってくるネネは使い魔の“バルバトス”を召喚する。
「カッカッカ」
ガイダルの視線は向かってくる
「バルバトス! そいつを殴れ!!」
ネネの命令に“バルバトス”は大きく振りかぶりつつ、ガイダルへ拳を叩き込むとその身体を木っ端のように吹き飛ばした。
ガイダルは近くの資材を巻き込みながら滑っていく。
「お姉ちゃん! 大丈夫!?」
「え、ええ。ネネ……」
ミカは妹を抱き締める。まだ、相手の力量が解らない妹は今の行為がどれだけ危険だったのかを理解していない。なんて……危険な事を……
「お姉ちゃん?」
「大丈夫。皆を助けるぞ!」
「うん!」
「カッカッカ」
しかし、ガイダルが笑う。彼は何事も無かったかのように立ち上がっていた。
岩を砕き、鉄を貫通させ、大型の魔物でさえ容易く仕留める“バルバトス”の一撃をまともに受けて何故――
「生きている!?」
「カッカッカ。ソレはワシが“強さ”の頂点だからだ」
ガイダルは笑う。
帝国では武道を目指す者は誰しもがソレを知る。
生きる伝説にして、神と称される【魔拳神】ガイダルの名前を。
「お前っ!」
「! 待て! ネネ!」
ネネは“バルバトス”と共にガイダルへ攻撃を仕掛ける。
「カッカッカ。さて……どっちかのぅ?」
未熟ながらも、途切れないネネと“バルバトス”とラッシュをガイダルは涼しい様で全てかわしていく。
まるで、煙のように当たらない。
「バルバトス! そいつを捕まえろ!」
「お?」
ネネの命令に“バルバトス”はガイダルの腕を掴んだ。食らえ! と、ネネはガイダルの頭へ蹴りを放つ。
しかし、ガイダルは逆に頭突きをしてネネの脚を弾く。
「なっ……」
「重心は人と同じか」
ネネを捌いたガイダルは、腕を掴む“バルバトス”を見る。次の瞬間、ガイダルの拳が“バルバトス”に叩き込まれ、その衝撃に浮き上がった。
「――カハッ!?」
ネネは内蔵を貫かれた様な衝撃に吐血する。
フィードバック。使い魔が受けきれる許容量を越えたダメージが使い手の魔女へと帰っていく。
「ほう? こやつを殴れば
ガイダルは笑う。“バルバトス”のフィードバック許容量は落石に見舞われても反ってくる事はない。
しかし、ガイダルが平然と放った拳はそれを、たった一撃で越え来た。
「ネネ! バルバトスを一度消すんだ!」
ミカと“バルバトス”が共に再び攻める。しかし、ネネは喉から血が逆流し上手く命令が出せない。
「やはり、そっちじゃな」
ガイダルは腕を掴んでいる“バルバトス”の重心を見切り、片手で振り回すとミカを吹き飛ばした。
「くっ!」
大きく弾かれ、再び攻撃を仕掛ける僅かな間にガイダルはネネの“バルバトス”へ先ほどの拳をもう一撃叩き込む。
空気が破裂し、衝撃波が近くの壁にヒビを入れる。
「ゴボ……」
「ネネ!」
その一撃にネネは血を吐くと、力を失った様に動かなくなった。ガイダルの腕を掴む“バルバトス”は煙のように消える。
「ネネ! ネネ!」
ミカは倒れた妹を抱え起こすがネネは、だらん、と力無く何も反応しない。
「そ……んな。私よりも強くなるんだろ……? ネネ……お前は……いつもそう言ってたじゃないか……」
既に物言わない妹を抱き締めながらミカは涙を流す。
「弱さは罪。死者は無価値。その
ガイダルの言葉にミカの心に……悲しみを埋め尽くす程の“ある感情”がわき上がる。
「バルバトス! ソイツを殺せ!!!」
ミカの言葉と感情に“バルバトス”反応すると、その姿を禍々しく変貌させる。
鋭利な爪。凶器の様に全身に生える刃。吼える様に牙を剥き出しにする。
“バルバトス”の咆哮。それは、周囲をあらゆる生物に死を与える宣言の様なモノだった。
「カッカッカ。ようやく、そう言ったかのぅ!」
狂った様に向かってくる“バルバトス”にガイダルは笑う。
強ければ強いほど、賢ければ賢いほど、知れば知るほど、挑む事は無意味であると誰もが悟る。
【魔拳神】ガイダル。
いつから居るのか誰にも解らない。
“神”が住まう、その国は……領土も技術も帝国よりも遥かに劣る。しかし、帝国が唯一、“同盟国”として条約を結んでいる程に――
「カッカッカ」
圧倒的な個の強さを持っていた。
ガイダルへ向かって行った“バルバトス”は容易く吹き飛ばされると、近くの壁を破壊して奥へ消える。
ミカはフィードバックのダメージに血を吐くが、歯を噛みしめ“バルバトス”と入れ違う様にガイダルへ攻撃を仕掛ける。
「この程度か?」
ガイダルは指2本をミカの肩の付け根に刺し入れて骨を外す。
「くっ……おおお!!」
残った片手で殴りかかるが、それに合わせて向けられたガイダルの拳に拳を砕かれ弾かれた。
外された肩。砕けた拳。それでも、ミカは踏み止まりガイダルへ――
「お主はその程度よ」
向かった瞬間、トン、と額を人足し指で押された。
その僅かな力加減は脳を揺らし、平衡感覚を乱されてミカは膝をついた。
それはまるで“神”に頭を垂れるように。
「あ……くぅ……」
ミカの意識の朦朧に“バルバトス”が消える。
その様を見たガイダルは、つまらなそうな嘆息を吐く。
“よう、神様。100年以上退屈してるって聞いたぜ? どう? オレと手を組まない? 相手は帝国だ。退屈しない戦場に招待してやれる。て言うか、マジで100年も生きてんの?”
「ハンニバルよ。お主の言葉は間違いではなかった」
かの戦略家と共に合った戦場は本当に心踊った。ハンニバルが消えた後、退屈な戦いを繰り返して、ソレを強く実感したのである。
「終わった様ですね」
と、鉄鋼街の制圧を終えた面々がガイダルの元へ集まる。
「コイツが魔女かよ。ボコボコだな」
「ガイダル様に挑むなんて。愚かを通り越して呆れる」
「街の制圧は完了です」
「鏖か?」
「はい。今、死体を集めてます。火葬は一度にした方が楽ですから」
「ガイダル様。果物見つけた。あげる」
「カッカッカ。サンキュー」
ガイダルはヴェトルから果物を受け取ると噛る。ルヴェンは無力化されたミカを見た。
「加減したので?」
「ガンズに引き渡す。何かしらの情報が得られるじゃろうて」
と、ガイダルはミカに対して既に興味を失っていた。やはり満たされませんか……とルヴェンはガイダルに申し訳なく感じる。
「魔女を拘束しろ。口は常に塞げ。口頭でモンスター召喚するぞ」
部下に命令を出したその時だった。ミカを護るように発生した突風が彼女以外を吹き飛ばす。
「!?」
「おわぁ!?」
「何……コレ?」
「カッカッ――」
全員、受け身を取るが不自然に吹き荒れる突風によってミカに近づけない。
そこへ舞い降りるのは一羽の烏だった。
『ミカ! 無事か!?』
「……ナギ……様?」
ミカは“八咫烏”を何とか認識する。
『ここを脱するぞ! 掴まれるか?』
「カッカッカ!!」
その時、突風が逆に吹き飛んだ。
ガイダルの正拳。本気の本気で踏み出したソレはあらゆる万象を停止させる。
『!?』
「それが魔法かのぅ!」
居た! 出会えた! 今まで経験の無い戦いに!
ガイダルは嬉々として“八咫烏”へ距離を詰める。
『ッ!』
“八咫烏”は翼を羽ばたかせ、ガイダルの視界を覆う程の羽を散らばせる。
「カァッ!」
ソレもガイダルの正拳で全て吹き飛んだ。副作用で発生する衝撃波が拳先を破壊する。
しかし、拳の先に“八咫烏”は居なかった。目眩ましをかけた瞬間に、ミカを抱えて空へ舞い上がったのだった。
『ミカ。少しの辛抱だ。近くの交通拠点まで運ぶ』
「……すみません……ナギ様」
『謝るな。お前は十分よくやった』
ミカは朦朧とする意識の中、鉄鋼街を見下ろす。
殺された民達。見上げる強者。そして……死んだ妹――
「絶対に……絶対に……」
お前達は許さない――
「……」
ガイダルは既に追えない程に遠方へ飛行する“八咫烏”を見上げていた。
「すみません、ガイダル様。接近に気づかぬなど……未熟の極みです」
「そう、悲観するなルヴェン。音も臭いも気配も無く上空から現れれば流石に見落とすわい」
ガイダルは、カッカッカ、と笑いながら果物を噛った。
此度の戦は実に楽しめそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます