第7話 イフリートVS科学(★)
「何だ。お前達は」
リタは魔物避けの篝火を村の各所に灯しながら、入ってきた帝国の者たちを見る。
後ろには馬の無い鉄の馬車が存在し、彼らの装いは全員が違っていた。
「ふっは♪」
その先頭で眼鏡を掛けた男は思わず笑った。
「何と言う事だ! 皆さん! 見てください! なんとっ! 井戸がありますよぉ! しかも移動は馬っ! 食用では無い様子です! そして、そして――」
男は篝火を持つリタを見る。
「夜の灯りは篝火っ! まるで50年前の帝国ではないですかっ!」
何だコイツ? リタは急に現れて楽しそうに叫ぶ男に怪訝そうな顔を向ける。
「リタ様。何かありましたか?」
一人騒がしい男の声に村人達が寄ってくる。
「オェェッ!」
男は次に嗚咽を漏らした。
「臭っせぇ! なんだ、この臭さは……嗅覚の反応じゃない! 生理的に無理っ! 無理な臭ささっ!」
何となく侮辱されている事がわかったリタは、篝火を媒介に“イフリート”を出して黙らせようと――
「お前か、臭っせぇのは」
男が、パンッ、と銃を村人へ撃った。撃たれた村人は額を撃ち抜かれ力無く倒れる。
「――え?」
リタを含む、場の全員が倒れた村人に視線を向ける。
短い音が鳴ったら人が倒れた。
その程度しかリタ達は理解出来なかった。
「まだ臭っせぇなぁ」
パンッ、パンッ、パンッ。と男は正確射撃で村人を撃ち抜き次々に射殺する。
そこまで来て、リタはようやく理解した。コイツは民を殺している!?
「イフリート!」
篝火から炎の魔人が現れて皆の盾となった。そして、男を睨む。
「うっは! 何ですかぁ!? それはっ! 初めて見る!」
「ソイツを焼き倒せ!」
嬉々とする男へ“イフリート”は迫る。炎となって飲み込む刹那、壁にぶつかる様に形を崩した。
「!?」
「アンバー博士……テンションおかしいですよ? あまり前に出ないでください」
盾を持った大柄の男が“イフリート”の突撃を防いだ。すっぽりと姿を隠すほどの大盾は幾つもの鉄が折り重なった様に複雑な形状をしている。
「ギネス君、ナイスガード。君のおかげで帝国の貴重な頭脳が護られたよ」
「いや、ホント。マジで――」
散った“イフリート”が再度形を成すが、行動を起こす前にギネスが盾で潰す。
「下がっててくださいよ」
「リタ様! 我々も戦います!」
民も鍬や鎌を持ってリタの加勢にやって来た。
「駄目よ! 私が時間を稼ぐから逃げ――」
パンッ! と短い音が再び響く。その音にリタたちはビクッついた。
「くっくっく……」
しかし、誰も死なない。音を出した銃は空を撃っていたのだ。
「何とも滑稽! 初めてですかぁ!? 銃で人が死ぬのを見たのは!?」
まるで、檻の中の実験動物の反応を見るようにアンバーは笑う。
「反応が面白すぎますよ、原人たち。最早これは侵攻作戦ではありません。旅行ですよ! 旅行! 物珍しい動物達を見て、その反応を楽しむツアーです!」
「っ! イフリート!!」
「撃ちなさい」
アンバーの指示に後ろに控えていた部隊が銃を構えて一斉に射撃する。
「! イフリート! 護って!」
“イフリート”は視界を覆うように広がるが、弾丸は炎を貫き民へ襲いかかった。止まない銃声に民は悲鳴を上げて倒れリタの肩と腕にも当たる。
「痛っ!?」
なんだ。何をされている?!
リタはどうして良いのかわからない。音は止まない。倒れる民の光景がリタの瞳に記憶される。
銃弾がリタの足を掠め、痛みから思わず座り込んだ。
「痛っ……」
立ち上がらねば。
手を地面についた時、ぬるっと何かに触れた。
「――――」
それは民の血だった。自分が護るべきだった彼らの命が零れ、地面を赤く染めている。
「死んだ……? なんで? こんなに……あっさり――」
敵があの音を鳴らす度に、人が……民が死――
「チェックメーイト」
眼前にアンバーが銃口をリタに突きつける。
いつの間にか“イフリート”は消えていた。いや、無意識の内にリタが引っ込めてしまったのだ。
「あ……あぁぁぁ」
コレだ。この……武器が鳴る度に……死ぬ。誰かが……民が死んだ。そして……次は――
「炎を操る。手品でも舞台の仕掛でもない。貴女が魔女ですかぁ?」
「…………」
リタは言葉が出なかった。目の前にある不可解な恐怖に口が動かない。
「ふむ。どうやら貴女に情報を求めるのは無理の様ですねぇ」
グイッと銃口を押し付けられ、引き金にかけるアンバーの指に力が入る。
殺される……そう感じたリタは――
「ま、待って……ください」
ぶるぶる震えながら
「博士。離れてくださいって」
「ギネス君。彼女は我々に情報提供をしてくれるそうだよ? 是非とも聞いておかなければならない。帝国の進攻ツアーをより良いモノにするために!」
「はいはい。ちょっと下がって。他の奴らは残りの人間を皆殺しにしろ。気を付けろ、他にも炎を出す奴が居るかもしれん」
敵が……民を殺しに村の中へ行く。私が……護らないといけない民を――
「それで?」
ギネスの大盾がリタの目の前に突き立てられる。
「お前さんは有益な情報をくれるのか?」
銃を持った者達がリタを囲い、いつでも殺せる様に頭に銃口を向けた。
村で銃声が響き、民たちの悲鳴が聞こえてくる。しかし、今のはリタにはその悲鳴は聞こえない。
彼女の心は恐怖と言う感情に強く覆われていた。
「私は……」
『リタ!』
その時、リタに銃を向けている帝国兵が吹き飛ぶ。
帝国による国内の進攻を確認した“八咫烏”はより近い所を回っていた。
ここまでの村や集落は全滅。リタの村は……間に合ったとは言えないが、彼女を逃がさねば!
突風はリタを護るように彼女を中心に回転する。
「ギネス君、これは全くもって不可解な風域だよ!」
「博士は俺の後ろから離れないでくださいよ!」
ギネスは大盾を飛行する“八咫烏”へ向ける。正面のギミックを変化させ、覗き穴から銃を出すと“八咫烏”へ発砲。しかし、
「ギネス君! 空を飛ぶものに銃は当たらないな!」
「ちょっと黙っててください!」
“八咫烏”は風を纏い、ギネスへ突撃する。ギネスは大盾を地面に突き立て、装備の性能を限界まで出力させると場に踏ん張り、その突撃を受けた。
『!?』
津波でさえ突き破る突進を逆に弾かれて“八咫烏”は困惑する。
「角度をつける技量! 流石だギネス君! そして、私の開発した装備も流石だよね! 試験では車の衝突にも耐えているのだ! 私は天才過ぎて己が嫌になるよ!」
「ミヨ!」
嬉々とするアンバーを尻目にギネスは指示を飛ばす。
大盾に弾かれ、空中で姿勢制御をしていた“八咫烏”へ、ブレードが見舞われた。
それはマスクを着けた女がギネスと同じ装備で飛び上がり、直剣で“八咫烏”を切り裂いたのだ。
『くっ――』
まさか、この高さまでやって来るとは思わず、“八咫烏”は二つに両断される。
「ああ!? ミヨ君! 駄目だ! 私はその烏が欲しい!」
「博士、それは無理です」
二つに分かれた“八咫烏”は死ぬ事はなく形を元に戻す。
「再生もするのか!」
嬉々とするアンバーを尻目に、“八咫烏”はミヨを風で吹き飛ばす。そして、その風は村に付けられた篝火を巻き込み――
「っ!」
「博士! もうちょっと下がって!」
ミヨは飛び離れて離脱。ギネスは再び大盾を構える。
火炎旋風。高温の風が竜巻となって敵の攻撃を一時的に中断させた。
「ここまで自在に操れるのか!? なんと……なんとも! 素晴らしい! 素晴らしいツアーだよ!!」
「ちょっと走るだけでゼーゼー言うくせに! どこにそんな肺活量があるんですか!」
熱からアンバーを護るようにギネスはその場で大盾を構える。
『……もう、間に合わないか』
下手に戦えばリタを巻き込む。
“八咫烏”は項垂れるリタを掴み渦の中心を飛び上がり離脱。すると、力を失った様に旋風は勢いを失うと霧散して消えさった。
「逃がしたようだね!」
「勘弁してくださいって。あんなの捕まえられませんよ」
「ギネス、あの烏を斬ったとき、殆んど手応えは感触は無かったわ。豆腐を切ったみたいな感じ」
「二つに分けても再生した所を見ると、捕獲は無理だな」
「それには及ばないよ!」
アンバーは何かに気づいた様にリタを掴んで彼方へ飛翔する“八咫烏”を見る。
「炎の魔人を出す彼女を見ればわかるさ。あの巨大な烏にも同じ様に召喚する人物が居る。召喚範囲がどれ程かは解らないが……そっちを捉えれば良い!」
僅かな情報から確信に近い結論をアンバーは出していた。
「空から攻撃されるのは厄介だね! ガンズ提督に私から進言しよう! 真っ先に落とすべきは港でも鉄鋼街でもない――この島の中枢だ」
帝国の化学研究局局長のアンバーは“八咫烏”の主と出会えることを恋い焦がれた。
https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16818093074083247254
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます