第34話 ワシもワクワクしたいわい

「休暇の気分ではないか」

「はい」

「任務を与えてください」


 王族であるスピキオの直下部隊隊長のベラン大佐は、ペルキナ部隊で唯一生存した二名に次の行動を懇願されていた。


「我々二人が生き延びたのは偶然です」

「ムート大尉ならば、任務を続けるハズです」


 休めの姿勢の二人は回りの和やかな雰囲気に馴染めない集中力を維持している。


「皆が、ペルキナ部隊の喪失を戦力以上に感じている。普段通り振る舞っているのもお前達の事を思ってだ」

「わかっています」

「それでも我々は任務の途中でした。継続の許可をください」


 ペルキナ部隊が消滅し、二人の指揮権は二番艦艦長――フォルサイへ移った。そして、フォルサイは適任とされるベランへ指揮権を譲渡したのである。


「件の魔女の捜索は打ち切る。追われているとわかった以上、追跡は困難だ」

「! 大佐!」

「お願いです! 任務を続けさせてください!」

「新たな任務を与える」


 詰め寄る二人にベランは進めていた作戦とは別の任務を二人に告げた。


「先ほど四番艦が帰港し、簡易的なこの国全体の地図ができた所だ」


 ベランはスッと写した地図を二人に見せる。


「もう一つの港街の情報が欲しい。拠点が一つでは敵の包囲に対する打開策が絞られる。姫様が来るまでに海か陸、どちらかに確固たる拠点をもう一つ築く」


 地図には港街には“巨大な光る樹”が遠目に見えると記載があった。


「その候補が、巨大な光る樹があるとされる港ですね?」

「そうだ。港ならば戦艦を寄せられる。ただし、この任務にこちらの移動手段は使えない。馬を引き、商人を装って徒歩で行ってもらう。本当は安全の確保と更に正確な地図が完成してからの方が良いのだが……」


 島にある独自の生態系から生まれている野生生物は見たことがないモノばかりだった。

 道も海岸沿いを進んでも、たどり着けるのか怪しく野宿する必要もあることから、危険度は更に高い。


「やらせてください」

「確実に情報を持ち帰ります」


 それでも、ペルキナ部隊の二人は怯む事はなかった。


「リンド、ショーン。お前達を一時的にスピキオ姫の王族直下部隊へ配属とする。情報を持ち帰り、任務を完遂せよ!」

「「はっ!!」」






「…………遅いわ」

「ラシルちゃん。さっき行ったばかりよ?」

「気持ちはわかるが」


 居残り組はブルームの内陸橋を遠目で見張れる場所にある茂みに隠れて待機。ラシルは落ち着かない様子で少しウロウロしていた。


「ハンニバルさんがついてるもの。二人は大丈夫よ」

「モナ、恐らくそれだけじゃない」


 ミカは腕の包帯をモナに取り替えて貰いつつ、ラシルがブルームの事を何よりも大切にしているのだと思った所で、


「ん?」


 内陸橋へ走ってくる・・・・・人影があった。


 ソレは先頭を走り、後方の者達の追従を許さなかった。

 限りなく無駄を削いだその走法に達する為には常人では生涯を費やす鍛練が必要となるだろう。


「! ちょっと! ストップ! 止まってください! ガイ――」

「カッカッカ。橋は使わん。気にするな」


 ガイダルは見張りの兵士にすれ違う様にそう言うと、躊躇い無く陸から海に飛び降りた。そして、そのまま海面を蹴ると地面を走るように港街へと駆けていく。


「あーあー、マジで常識外れだな。あの人……」


 車よりも速い速度で海面を駆けていくガイダルを見張りは見送るしかなかった。


「……何よあれ?」

「海の上を……走ってる? 魔法?」

「ヤツだ……」


 ミカは常識の桁が違うガイダルを見て僅かな殺気を飛ばした。すると、


「ん?」


 ガイダルは海面に止まり・・・、ミカが殺気を感知したように視線を向けてくる。


「!」

「バカな!」

「隠れて!」


 咄嗟に三人は茂みに伏せる。こんな距離から見えているハズはない。しかし、視線の先に入れば間違いなく見つかると三人は察したのだ。


「……どれ」


 ガイダルは殺気を感じた地点――ラシル、ミカ、モナが隠れている位置を確認に行こうと踵を返した。


「ガイダルの爺さんじゃねぇのよ」

「ん? ジドーか」


 その時、手漕ぎボートを出して、部下と釣り勝負をしていたジドーは、海面に立つガイダルを見つけて寄せる。


「え? 何で海の上に立ってんの? 樽に乗ってる?」

「カッカッカ。足が沈む前にもう片方の足を持ち上げるだけじゃわい。簡単なことよ」

「いや……ソレ全然簡単じゃねぇから」


 ガイダルに関しては、何をしようが深く考えるだけアホらしいと思える程に規格外の存在だった。


「カッカッカ。それよりも、ホントにワシはタイミングが悪い。魔女との戦いがあったんじゃろ?」

「ペルキナ部隊は二人を残して全滅っすよ」

「うむ。実に惜しい。闘争を逃した事は悔やんでも悔やみきれんわい。それと、お主もじゃぞ。ジドーよ」

「俺なんかやった?」

「艦で外を回るならワシにも声をかけよ。ワシもワクワクしたいわい」

「提督に黙って出るように言われたんだ。悪りぃ」

「ガンズめ……まぁ良い。次のイベントは逃さんぞ。誰がなんと言おうとワシはこの街から離れん」

「スゲー助かる。兵士全員、安心して爆睡できらぁ」


 ガイダルは再度、殺気を感じた地点へ視線を向けるがジドーとの会話で興味を無くし、ほいじゃの、と言って街へ走って行った。


「……何なのあれ?」

「こちらの常識の外に居るような方ですね」

「……必ず」


 ガイダルの常識外の様子に二人が驚く中、ミカだけは心の中で闘志を燃やした。






「よーし、バエル。あたし達が一番多く情報を集めるよー」


 キャスの意気込みに応える様に“バエル”もポヨンと流動する。

 服の中に隠れていた“バエル”はキャスの肩に乗る程度のサイズとなり、透明度を上げる事で他からは視認されなかった。


「序列を上げるには貢献が第一! コツコツやっていくのが第一だって、ナギ様も言ってたしね!」


 行くぞー、と意気揚々と歩き出す。敵地とは言え初めての場所を歩く事にワクワクするのは『薬師村』から出たことのないキャスの境遇からすれば仕方のない事だった。


「凄いなぁ。家は全部、石で出来てるんだー。貴重な情報!」


 木造の家屋が多い『薬師村』と比べると、ブルームの家屋は海風による風化と、水害を考えて特殊な石材で作られていた。


「おっと……」


 正面から話し込みながら歩いてくる敵の兵士達の姿を見かけて近くの樽影に隠れる。


「ホントにさ、フォルサイ艦長が来てくれて良かったよなぁ」

「戦地の材料でケーキ作るなんて、ガイダル様に並ぶ神だろ」

「俺はフォルサイ艦長の艦に異動願い出してんだけどさ……倍率高過ぎて中々受理されねぇ」

「そもそも枠が開かねぇって。そろそろ会場に行こうぜ。トーナメント始まるぞ」

「お前、どのチームに賭けてる?」


 そんな事を話しながら、兵士達は通り過ぎて行き、キャスはひょこっと顔を出す。


「バエル、聞いた? ケーキだって」


 ケーキ。その言葉に“バエル”も嬉しそうにポヨンとする。

 キャスは母親がよケーキを作っていた事を思い出す。よく食べさせて貰っていたので味にはうるさい方だった。


「こりゃあ、食べてみないとね」


 敵のケーキ事情を知ることは……今後の戦いの役に立つハズだっ!


 そう判断し距離を置いて歩いていく兵士達を追った。

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