第3話 巨人VS戦艦(★)
「ん? 何だあの船」
ブルームの灯台で水平線を見ていた水夫は、裸眼で僅かに見える船影に眼を凝らす。
この灯台は基本的に眼の良い人員が配備され、何か異常があれば鐘を鳴らすのだ。
「なんだ? 魔物でも出たか?」
「魔物……魔物か。そうだよな。鉄が浮くハズ無――」
ドン! ドン! と言う音が水平線から響き、一呼吸間を置いた次の瞬間、港が吹き飛んだ。
「なんだ、お前達――」
ミカとネネが席を置く、金物を製造する鉄鋼街に彼らは現れた。
その姿を見た民は次の瞬間に、踏み込まれ頸椎を破壊され絶命する。
襲撃者は全員が仮面を着け、音も立てずに移動を開始。武器を持たずに素手にて街の人間の排除に乗り出す。
「なんだぁ? 城門も低いしガタイばかりの雑魚ばっかだぜ。なぁ、ヴェトル」
「ボング、油断しないで。魔女は魔法を使うと聞く」
「ヴェトルとボングは小隊を指揮し、確実に各所を制圧しろ」
「俺はソロが良いんだがなぁ」
「了解。先に行く」
二人の手練れは武器がありそうな倉庫と製鉄設備を抑えに部隊を率いる。
「ガイダル様。この程度ならば制圧に三十分もかかりません」
「カッカッカ。ルヴェン、うっかり魔女を殺してはならんぞ。ワシが相手をするからのぅ」
「隊に被害が出る様なら許容はできません」
「ならば、ワシは奥へ行くわい。掃除は任せるぞ」
仮面を着けた者たちの中で、一人果物を噛りながら歩く仮面の老人――ガイダルが告げる。
「さて、魔法とやらを見せて貰おう」
ドン! ドン!
ラシルは朝食を終えて執務に入ろうとしたところでその轟音を聞いた。
窓から空を見る。天気は晴れ。雷ではない? 港で何か倒れたのかしら?
「なんの音でしょうか?」
「ジャン、屋上に行くわ。スプリガンを――」
「た、大変です!」
メイドが慌てて二人の元へ駆け寄ってきた。
「ラシル様! み、港が! 吹き飛び――」
ドン! ドン! ドン! と同じ轟音が響く。ラシルは走って階段を上がると屋上のガラス扉を開けてブルームの街並みを見下ろす。
「な……なによ! これは!」
どうやったのか不明なまでに港は破壊され、民達は逃げ惑っていた。すると、再び継続的な轟音が響く。
「スプリガン!」
使い魔の“
「痛っ……」
嵐でさえ平然と向かい合える“スプリガン”がダメージを受けた!?
フィードバックによる痛みに顔を歪ませるが、傷ついた民を前に顔を下に向ける事は出来ない。
『港から逃げなさい!』
“スプリガン”から避難の進んでいない民達へ通告する。
一体……なんの攻撃を受けているの? ガレオン船がぶつかっても壊れない港が……ここまで破壊されるなんて……
ドン! ドン! ドン!
「!」
腕を伸ばして広い面で受け止める。民をこれ以上……傷つけさせはしない!
「あの……沖合にいるヤツか」
攻撃をしてくる敵をラシルは“スプリガン”の眼で的確に捉えた。
「“巨人”の出現を確認!」
「三番艦! 四番艦! 旋回中です!」
「アレが魔女の使い魔か」
ガンズは冷静にブルームを護るように現れたスプリガンを見る。明らかに物理法則を無視した現象。しかし、ガンズの冷静を溶かすには全くもって足りなかった。
「螺旋弾頭を装填」
「サー! 螺旋弾頭装填! 目標は?」
「目標――」
砲撃は無限には出来ない。しかし、当初の目的通り、“巨人”を出現させる事に成功した。つまり、魔女は居る。しかも、攻撃を防ぐためにこちらを俯瞰出来る位置――
「市街地上部の屋敷。吹き飛ばせ」
「目標! 市街地上部屋敷! 砲塔師! 腕の見せ所だ! 日頃の訓練の成果! 今見せてみよ!」
ザァァァと波を掻き分けて旋回を終えた一番艦と二番艦が斜角に入る。すると、“スプリガン”の姿が煙の様に消えた。
「! 消え――」
副艦長が驚く中、次に艦に影がかかる。こちらを見下ろす様に“スプリガン”が目の前に現れた。
「ここまで届くだと!?」
『お前達か……』
ラシルは“スプリガン”の眼で甲板にいる者達を見下ろしていた。
「……はぁ」
船員が皆、動揺して見上げる中、ガンズだけは退屈そうにため息を吐いた。
「お前が魔女か」
『よくも……私の……故郷を!』
“スプリガン”が腕を振り下ろす。
「撃て」
「う、撃て!」
バン! バン! バン!
火薬を調整した為に先程とは違う発射音と共に螺旋弾頭は“スプリガン”を貫通。キィィィィ、と空気を裂く音と共にラシルの屋敷を吹き飛ばした。
振り下ろした腕が艦体に触れる瞬間、フッと“スプリガン”が消える。
「き、消えた……」
「三番、四番艦。対人三式弾、準備」
「! 信号旗! 三番、四番艦。対人三式弾を放て!」
今度は斜角をつけての砲撃。上空に弧を描いて弾頭が飛ぶと落下するタイミングでバラけ、広範囲に鉄の礫をブルームにばらまく。
「港へ近づく。歩兵隊は上陸準備。三番艦は対人三式弾を撃て。四番艦は旋回後、本島とつなぐ通路を封鎖しろ。誰も港から出すな」
ガンズの指示を復唱する様に副艦長も各艦に指示を出す。
「やれやれ……この200年。戦とは名ばかりの航海だな」
“海流を計算に入れてなかったな、ジィさんよ。いくら大砲を積んでても団子状態じゃ撃てねえだろ? オレの奢りだ。大盛りの火艦を食らっとけ”
「ハンニバルよ。お前で最後だった。血湧き肉躍る戦が出来た相手は」
もはや合間見える事の無い200年前の英雄との決着がつけられなかった事がガンズの心残りだった。
「うっ……」
ラシルは朦朧とする意識の中、何とか身体を動かそうとすると。
「! ゴ、ゴホッ! ゴホッ!」
器官を血が逆流しその場で吐血する。右眼が見えず身体中が痛い……
フィードバック。スプリガンがここまでダメージを受けるのは初めてだった。
“スプリガン”を……ナニかが貫通した……ソレがそのまま屋敷を吹き飛ばして――
場所は崩れた屋敷の中だった目の前には大穴が空いている。
「ラシル……様……」
「! ジャン!」
「良かった……ご無事……で――」
横で瓦礫に下半身を潰されているジャンを見てラシルは奮起して立ち上がる。
「スプリガン!」
屋敷の天井程の大きさのスプリガンがジャンの瓦礫を退かすも、彼は既に事切れていた。
「……」
パン! パン! パン!
風船が破裂する様な音が外から聞こえて、ラシルは身体を動かすと大穴からブルームを見た。
細長い武器を持った敵が逃げる民達を躊躇いもなく殺して行く。
民は武器も何も持たない。抵抗する意思さえも無いと言うのに――
「……なんで……なんで、こんなことが平然と出来るのよ!!」
ラシルは壊れた港から少し離れて停まっている一番艦と二番艦を見る。
「スプリ――」
と、怒りのままに今度こそ押し潰そうとした所で、背後から首を打たれてラシルは気を失った。
「かはっ……」
どさっとその場に倒れる彼女を兵士が見下ろす。
「提督に伝えろ。魔女を確保したと」
屋敷に居る可能性のある
https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16818093074095237394
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