第1話 序列50位の魔女キャス(最下位)(★)
「うーむ……うむむ……! 来た! この反応だ!」
大都市より更に森林地帯を奥に進んだ辺境の村。
そこに所属する“魔女”――キャスは鍋に煮込まれた色が想定どおり――緑色になった様子にメモを取る。
「えっと……室内の温度は28度。材料はフキミ草、マンドラゴラ、二本鷲の爪、霧の欠片っと」
そして、火を止めてお玉を入れて掬う。しかし、入れた木製のお玉は溶けて先が無くなってしまった。
「んが!? しまった……材料にお玉を追加っと……」
メモを更新する。
そして、鍋掴みで持つと近くの机の鉄板の上に中身を溢す。鍋から出てきたのは液体ではなく、ぷるんっと丸い固形物となった。
「…………えぇ……ここは液体になる筈なんだけどなぁ」
謎現象を前にとりあえず箸でツンツンして様子を見ていると、カァァァ――
「カァァァ?」
カァァァ! と光って爆発した。衝撃波はなかったものの、室内が緑色の煙で充満し一瞬で酸素が失われる。
「ゲボッ! ゲボォッ! オォェェ!!」
目にも染みる煙に蒸せながら窓を開ける。緑色の煙が煙突や扉に窓から、もうもうと立ち上がった。
「……なにやってんだい、キャス」
「ゲボッ……オォォォエエ……お、おばようございまず。イラムスざん……」
通りかかった村の肝っ玉母さんであるイラムスは窓から
魔女の国『ミステリス』。
【国母】と称される魔女の統括者によって統治されるその国では各村や街に魔女が配備されていた。
魔女のやる事はただ1つ――人々の生活を助ける事。
ソレを魔女は“使い魔”を駆使して行い、人々も彼女らの事を『魔女様』と言って慕っていた。
しかし、誰でも『魔女』になれるワケではない。
女児が生まれた際に“使い魔”と縁がある者が魔女となり、“魔法”を行使する事が出来るのである。
「まったく、一体何を作ろうとしたんだい?」
「ゲホホォォ」
緑色の煙を噴出する家から脱出したキャスは四つん這いになりながら、イラムスに呆れられる。
「最新の……腰痛薬を……」
「腰痛薬を作ったら何で激臭のする煙が出来上がるんだい? 使ってる本はナギ様から貰ったモノだったんだろ?」
レシピ通りに作れば何も問題ない。
「ケホッ……違うよ、イラムスさん! あたしは教科書通りの人生を過ごす気は無い! ナギ様のレシピは確かに優れてるけど! それを越える事がナギ様を越える事に――」
「まずはレシピ通りに作ってから言いな」
「うっ……おぇぇぇ……」
時間差で吐き気が襲ってくる。朝から何度もゲーゲー吐いているキャスにイラムスはやれやれと背中を軽く叩いてあげた。
「まったく、本当にアンタって“魔女様”らしく無いね」
その言葉にキャスはピクッと反応すると、グワッと起き上がった。
「バエル!」
キャスは“使い魔”の名前を呼ぶ。すると、家からずりずりと、スライム状の生物がキャスの元へやってきた。
抱える程の大きさで、つぶらな瞳は、呼ばれたから来た、と言いたげな表情。角のような突起が二つある可愛らしい“使い魔”である。
「あたしの素晴らしき使い魔“バエル”を見て……魔女ではないと!?」
「そのバエルもクッションとかにしかならないだろ?」
「なっ! 確かにその通りだけど! 村のお爺ちゃん達には好評なんだって! 魔女の優劣は使い魔じゃないよ!」
『キャス』
すると、空から声が聞こえると同時に、バサッと三つの眼を持つ巨大な烏が舞い降りる。
「ナギ様!」
キャスは嬉しそうに烏を見る。
それは魔女ナギの使い魔である“八咫烏”だった。定期的に地方の魔女達の様子を見る為に飛ばしているのである。
『元気そうだな。それと――』
八咫烏は一度家に向かって羽ばたくと、発生する突風が緑の煙を吹き飛ばす。
『レシピ通りに作りなさい』
ナギは緑色の煙が明らかな失敗である事を看破すると、八咫烏は再び空へ舞う。次の魔女の所へ様子を見に行った。
「あっ……もうちょっとお話したかったのに……」
「ナギ様は多忙な御方だからね。アンタと違って」
「むむむ。今はそうだけどね……いずれあたしはナギ様を越えるのサ! それくらいの器として期待されてるからね! ねー、バエル」
バエルは意味が解らずに、? と疑問詞を浮かべながら一度ポヨンと動く。
「一体、どこの誰にだい?」
「ナギ様からだよ! ふっふっふ……お墨付き!」
ナギ様……貴女様の慧眼は疑い様がありませんが、流石にキャスに関しては間違いだと思いますよ。
と、イラムスは“八咫烏”の飛んで行った彼方を遠い目で眺めた。
序列50位のキャスは魔女の中でも魔法も使い魔もロクな能力を持たないと言われている最下位の魔女だった。
https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16818093074076229701
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