第12話 よ、よよよよよ4位!!? 

 睡眠薬の効果が切れて、村中を漂うツンとした臭いにキャスは起こされた。


「うぅ……」


 地下倉庫は暗く、少しだけ頭痛がする。バエルが心配そうに寄り添ってくる。


「バエル……」


 使い魔を撫でつつ、自分が何故地下倉庫にいるのかを思い出す。


「……」


 扉に手を当てる。重くて開く気配はない。この重さはきっと……皆が――


「バエル……あたしをここから出して」


 キャスの命令にバエルは扉の向こうにある障害物を押し退ける。扉を開けて、折り重なって燃やされた人の――皆の死体を掻き分けてバエルに引っ張り上げてもらい、這いずる様に外へ出た。


「……」


 既に夜になっていた。

 しかし、燃え残る火や燻る家屋でほんのり明るい。そして、目の前には……誰が誰だかわからない程に焼け焦げた無数の死体が――


「う……うぅ」


 大好きだった。

 落ちこぼれのあたしを迎え入れてくれた皆が……

 本当の家族みたいに――


「……うぁぁぁぁああ!!」


 もう二度と彼らは声をかけてくれない。もう二度と笑い会えない。

 キャスは自分の無力感と悲しみの溢れる心を吐き出す様に声を出して泣いた。


「……貴女が……キャス?」


 そして、振り返ると四人の魔女がキャスを見つけた。






「…………」


 焚き火を囲いながら、ラシルは後悔の感情しかなかった。

 私のせいだ。私が……ブルームを取られてしまったから、そこから敵が国に雪崩れ込んだ。その結果……ミカ、リタ、キャスの大切な民たちが……


「皆、ごめんなさい。全部……私のせいよ」

「ラシルのせいじゃないよ。悪いのはアイツらだ……」


 ミカは『薬師村』の状況を自分の時と重なり怒りが湧く。


「……」


 リタは膝を抱えて焚き火を見る。これから国中がこんな事になるのか……と。


「皆、気は進まないと思うけどご飯を食べましょう」


 そこへ、唯一キャスと面識があるモナが彼女の元から戻ってきた。


「モナ、キャスは?」

「一人になりたいって」

「……」

「……皆、本当に何とか出来ると思う?」


 リタがぼそりと呟く。


「こんな状況を……たった一人の男が何とか出来るとは思えない……今からでも『宮殿』に向かって【国母】様や序列上位の魔女様に頼った方が……」


 それは、この場の皆が考えていた事だ。

 ナギ様はハンニバルと言う罪人は使い魔も魔法も持たないと言っていた。

 そんなヤツに……この絶望的な状況を何とか出来るのだろうか……


「……そうね。でも……ナギ様が私達の事を知った上で【国母】様や『宮殿』よりも、頼るように言った人物よ」


 会う価値はある。少なくとも、今の自分達の行動は無意味では無いハズだ。






「…………」


 燃え焦げた死体の山。自分の居た地下倉庫を護るように折り重なっていた。


「……最後まで何も返せなかったなぁ」


 キャスは皆を見上げて語りかける。


「ごめんね、皆……ここに居たのがナギ様だったら……きっと皆の事を護ってくれたと思う」


 バエルは心配そうにキャスに寄り添う。そんな使い魔を彼女は持ち上げた。


「大丈夫だよ、バエル。あたしは大丈夫」


“ババァになればわかるよ”


「……イラムスさん……皆。弱いあたしは皆と一緒に置いて行くよ。うんと、慰めてあげて」


 涙を払う。そして、強い瞳で改めて宣言した。


「あたしは! 序列1位になる! 皆が誇れる魔女になる! それで! お婆ちゃんになるまで生きて! それで……それで――」


 また流れそうになった涙を堪える。そして微笑みながら、


「あたしの人生録を皆のところに語りに行くから! 楽しみにしててよね!」


 この日を決して忘れず、前に進む事を大切な人達に誓った。






「あ……どうも~お待たせしました~」


 焚き火を囲いつつ、携帯材料にて簡易スープを作っている面々の所へ、キャスは顔を出した。


「あたしの名前はキャスレイ・バエル! 序列は50位です! 魔女様方! こっちは使い魔のバエル! バエル! 挨拶して!」


 キャスの言葉にバエルは軽く身体を上下させる。


「ふふ。貴女とバエルが無事で良かったわ、キャスちゃん」

「モナさんの方こそ!」

「私はミカだ。序列は13位」

「……リタよ。10位」

「わぁ! モナさんも含めて15位以上が三人も……このメンバー最強じゃない!?」


 特に序列20位以上は戦闘スキルにも長けた魔女である事は周知だった。


「【巨人】ラシルよ。序列は4位。よろしくね」

「よ、よよよよよ4位!!? は、ははぁぁぁぁ!!」


 ズザーとキャスは一番年齢の低いラシルに土下座で頭を垂れる。

 序列5位以上は本当に雲の上の存在であり、本来なら生身で歩き回る事が珍しい程の人物達である。


「この……あたくしめを、その片眼の代わりに奴隷のようにコキ使ってください……」

「キャス、顔を上げて」


 ラシルの言葉にキャスは地面に手を着いたまま顔だけを上げる。


「今の私達には序列なんて何も意味はない。皆で協力して乗り越えないといけないの。だから、貴女の力も貸してくれる?」

「も、もちろんですぅ! ラシル様!」

「ふふ。後、敬語も敬称もいいわ。ラシルって呼んで頂戴」

「え? ホント? じゃあ、ラシルちゃんって呼んじゃうよ~」


 すぐに適応したわね、この子。と、ラシルはキャスの楽天ぶりに曲者であると悟る。


「お腹空いたー。モナさん、あたしもスープ貰っていい?」

「はい、どうぞ」


 皆が空腹だった。失い続けた彼女達は僅だが、食事で心を満たす。

 そして、食事を終えた所で、ラシルが本題を切り出した。


「キャス、貴女は『時の塔』を知ってる?」

「『時の塔』?」


 ラシルの質問にキャスは即座に思い付かず首を傾げる。


「私達も形は知らないんだけど、この辺りで古くからある人工物は無いかしら?」


 この辺りでは『時の塔』と呼ばれていない可能性がある。ラシルは質問の仕方を変えて尋ねた。


「んー、あ、アレの事かな?」

「あるの?」


 皆の注目が集まる。


「うん。でも、塔だけど、塔じゃないよ?」


 キャスの返答に皆が首を傾げた。

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