第11話 あたしは魔女だ!
「未来の序列1位だって?」
「そう! それはあたしの事! 皆は安全な所に逃げてて! あたしがバエルと一緒にちゃちゃっとやっつけて来るから!」
イラムスの怪訝そうな顔に対して、自信満々に宣言するキャス。
しかし、皆を不安にさせない様に精一杯に声を張り上げている様子が分かる。
「ダン」
「ほいな」
「よーし! 行くよバエル! あたしがここに居たことを敵の最大の不運に――んぐぅ!?」
と腕まくりをして敵へ向かおうとしたキャスの口に丸められた布が押し込まれた。
「んげげ!? うぇっぷっ……ちょっと! 何するのさ!」
布を取るとイラムスに叫ぶ。すると、フラッと意識がゆらいだ。
「ちょっ……これ……なに?」
「睡眠草を液状にしたモノを染み込ませた布だよ。1分で安眠さ」
「! 何でそんなものを! これから戦うってのに!」
「馬鹿。そんな必要は無いんだよ」
バエルはフラッとつくキャスを心配そうに見上げる。イラムスはキャスの足元にある隠し地下倉庫の扉を開けた。
そこには冷暗の必要な薬を保管している。子供一人くらいなら入れるスペースがあった。
「そっか……ここに皆で隠れ――あぅ!?」
キャスはどんっ、とイラムスに押されて地下倉庫に落ちる。バエルがクッションになって受け止めた。
「ちょっ……危ないって! っ……」
意識が少しずつ微睡んで行く。ダメだ……今……意識を失ったら――
「全員、毒は持ったね?」
イラムスの言葉にキャスは地下倉庫から出ようとすると扉が閉められた。
「みんな! 何を……何をする気!?」
「奴らはまとまって死んでたら死体なんか片付けやしない。そして、その下で生きた魔女が居るなんて思いもしないよ」
「……イラムスさん……駄目だよ! それだけは駄目! あたしが……あたしが戦うから!」
「戦う? 最下位の魔女に何が出来るんだい?」
イラムスの言葉にキャスはポロポロと泣き出す。
「そうだよ……あたしは50位だ……誰よりも弱いし役立たずなんだ……だから……皆よりも……わたしが命を使わないといけないんだ」
「そうかい? 私は信じてるよ」
「え?」
扉越しの言葉にキャスは顔を上げる。
「ナギ様を越える魔女になる。あんたのその言葉を私達は一度たりとも疑った事はないよ」
この村にやってきた魔女は良く失敗するし、何かとドジを踏むし、勝手に調合を変えるし、本当に――
「良い時間を過ごさせて貰ったよ」
「あ…………あ、あたしは魔女だ! 魔女の言うことは絶対でしょ!? ここを……ここを開けなさい!!」
「それは序列1位になってから言いな」
「なんで……なんでなの! なんで……あたし……を……」
睡眠薬の効果に抗えなくなり、キャスの身体から力が抜ける。倒れる彼女をバエルは再度受け止めた。
「あんたが一番若いからだよ」
「わからない……わからないよ……」
「ババァになれば解るさ。あんたは生きな、キャスレイ――」
その言葉を深く心に刻むようにキャスの意識は暗転した。
「姫様の睨んだ通りだったな」
港街ブルームより上陸した艦隊連合とは別に1隻の船が別の沿岸に接舷。そこより展開された部隊は二つ。
一つはガイダルを頭に置く率いる遊撃中隊。
もう一つは本国将軍の直下中隊だった。
“ベラン、私はこの森が怪しいと思います。これ程広大な森林がありながら、入り口付近に村の表記が地図に無いのは少しおかしいの”
見立て通り村があった。しかも、有害な霧状のガスを使い、視界と侵攻を妨げて来たのだ。
「ベラン大佐。ガスを吸った者は大事ありません。ガスマスクを着ければ防げる程度です。可燃性の心配も無いかと」
この村はおそらく……敵の兵器研究所だろう。一缶でこちらが全滅するレベルのガス兵器を持っているのだとすれば……奇襲で叩けたのは好機だ。
「第一、第二小隊は波状に展開。第三小隊は予備役にて待機。第四小隊は周辺の警戒に当たれ。視界が悪い上での同士討ちだけに気をつけろ。敵には極力近づくな。返り血も細菌感染の可能性がある。全てが未知である以上、ワクチンは無いモノだと思え」
指揮官であるベラン大佐の指示に部隊は村へ侵攻していく。そして、程なくして――
「報告します! 村人は全滅していました! 恐らく毒を飲んだモノかと!」
「毒……自殺か?」
何かを護る為か、それとも罠……か。
「更に家屋に火がつけられています! 煙は紫や赤などの異質な色です!」
こちらに利用されない為に全て焼却処理をしたのか。そして、尋問で口を割らぬ様に自害……
「どうしますか?」
「……この地には後にアンバー博士の『科学戦隊』に調査を依頼する。死体にも全て火をつけろ。この地を離れる」
リスクを負うには早すぎる。
それに今頃は艦隊が港街を制圧している頃だろう。
「迅速に動け。魔女とやらが現れないとも限らん」
「ハッ!」
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