第25話
第三連隊と砂烏騎士団は息を吹き返した。隊列を組み直し足の止まった敵に反撃を始めた。
二番機はシカ族部隊の最後尾まで抜けると機首を上げ、敵の矢の有効射程外まで上昇した。イズミンは立ち直ろうとする敵の騎馬弓兵を狙ってなおも攻撃を続けた。離れた位置からでもイズミンの狙いは正確だった。敵にとっては地上の相手に的を合わせようとすると雷にでも撃たれるかのように空からの光の矢に射抜かれるのである。シカ族の戦士達は恐怖心を与えられ戦意を奪われていった。
イズミンは既に落ち着きを取り戻していた。標的を冷静に選び一弾一弾を確実に撃ち込んでいく。
「それで。」
「え?」
「どうなるんだ。」
射撃を続けながら彼は低い声でディグリーンに聞いた。
「イズミン、お前は本当に素晴らしい相棒だ。感謝している。」
ディグリーンは彼らしからぬ低姿勢で続けた。
「俺はこれ以上望むものはない。お前に任せる。お前が死ねというのなら死んでも構わん。」
調子のいいことを言いやがる、謙虚ぶってはいるが自分のやりたいことは全てやって後はよろしくということじゃないか、イズミンは腹立たしかったが、これがディグリーンという男だということもよく分かっていた。
「死罪かどうかは殿下がお決めになる。」
「そうか、殿下だな。
でも親には遺族年金が出るかもしれんな。」
これにはイズミンもカチンときた。
「なんで軍規違反で処刑される奴に年金が支給されるんだよ、馬鹿か!」
隊長機が見える。オズリエルはニコリともしていなかった。イズミンは憂鬱な気分を濃くした。相棒にもう喋るなと言って黙々と射撃を続けた。
イズミンの射撃によってシカ族は族長ヤバを失った。シカ族の進撃もここまでだった。後方には司令官ヘックナートの命によって追撃してきた第十一大隊も(ようやく)現れた。今度はシカ族が包囲されかかっていた。戦士達は退路を求めて逃げ惑った。最短距離で森に隠れるのは砂烏騎士団の後方を通る経路だ。
ヤバイは死んだ族長の息子として味方の撤退を助けるべく一人奮戦した。コブシシを疾走させながら彼の弓は多くの王国兵を射倒した。矢が尽きたら味方の矢筒を奪ってさらに射た。彼らの進路を阻もうとする砂烏騎士団の騎士達の何人もがヤバイの矢を浴びた。
生き延びようと足掻く者、一つでも多く戦功を重ねようとする者、敵味方の誰もが自分の欲望のまま無我夢中になっている中、味方のために弓を射るこの少年の美しさと気高さは際立った。しかしその異質さに目を留める者は誰もいなかった。一人を除いて。
酷い混乱の中、デイグカーリ侯爵だけはヤバイを目で追い続けた。そして彼は気も触れんばかりに叫んでいた。
「あの少年を捕まえろ。絶対に殺すな。生け捕りにしろ。」
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