第24話
砂烏騎士団はシカ族の弓騎兵による猛攻を受けていた。間もなく凶暴な戦士達との白兵戦に移るだろう。第三連隊の後方は既に激しく波のように押し寄せるシカ族の白刃突撃によって崩壊しかけていた。
蹂躙されながら彼らは一機の翼装が敵の上空を縦横に飛び回るのを見た。それはアサナス人を挑発しているようだったが攻撃手段を持っていないのだろう、敵の注意を地上部隊から自分達に逸らせるのがせいぜいのように見えた。地上の兵のためにわずか一機で囮になろうとしている。犠牲的な姿は頼りなくも健気に映った。その機が再び降下してきた。今度は敵の一斉射撃を真正面に受けた。地上の兵は息をのんだ。咄嗟に機体を翻しかろうじて矢の大半はかわしたものの無傷ではいられなかったようだった。落ちるぞ、誰かが叫んだように機は地面に激突するかに見えた。が、地表すれすれで何とか持ち直し、敵の隊列の先頭至近距離に回り込んだ。
「まずはこれだ!」
イズミンは瞳を燃やして叫んだ。炎を纏った無数の光の矢が二番機から敵に向けて放射状に発射された。この様子は離れた位置からは二番機の傍に火球が発生したように見え、一瞬、敵が何か爆発物を投擲したのかと思わせた。次の瞬間、シカ族の先頭集団は大混乱に陥った。
この時放った矢の一本一本に大きな殺傷力は無いが、当たった個所に酷い火傷を生じさせた。人もコブシシも広範囲に無差別に攻撃を受けた。何十頭ものコブシシが驚き、怒り狂って乗り手を放り出して逃げ出した。その混乱に後続が巻き込まれ落馬する者が多く出た。シカ族の前進は止まった。
二番機は初撃と同時に敵隊列を追い抜き、砂烏騎士団の上空まで達するとそこで反転して再びシカ族に向かって行った。兵たちは驚き歓声を上げた。
ディグリーンは人の背丈ほどの高度を飛んだ。この低空飛行によって敵の多くは二番機を見失い、見失っていない者も混乱した先頭集団が死角を作って矢を狙えなかった。この巧みな操縦は上空から見ていたカーロンを唸らせた。
二番機は敵の鼻先で槍がぎりぎり届かない程度に高度を上げ敵の真上に出た。
「喰らえ!」
イズミンは炎の矢を四方に連射した。今度の矢は同時に発射しない代わりに一本一本を強くし殺傷力を高めている。密集した敵に対して水平に放った矢は目をつぶっていても当たる程だ。ディグリーンは敵の狙いを難しくさせるため機を不規則に蛇行させながら敵部隊に対して縦進した。シカ族全体が大混乱に陥った。
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