第15話
都内に帰り普段の生活に戻った真琴は、精力的にスキルの交換に励んでいた。とりわけ最優先で欲しているスキルは《光魔法》と《鑑定》の二つだ。
光魔法は京の分として確保したいし、複数見付ける事ができればLVを上げて、より使いやすくできるかも知れないという思惑だが、これがなかなか発見できずに難航している。
鑑定も自分以外の他者(動物や昆虫等だが)が持っているのはまだ一度も見たことがないし、レアリティか何かがあって現存する数が元々少ないのでは? と最近は考え始めていた。
仮に鑑定がもう一つ手に入れば、京にもスキルを探索してもらうことができる。一人より二人、一馬力が二馬力になるのは非常に大きい。
(ぐぬぬぬ、いっつも京ちゃんばっかり楽してるからね。京ちゃんに動いてもらうためにも早急に光魔法か鑑定が必要なのに、もうっ! 何で無いのぉ?)
最近は同行してもあまり意味がないという理由で、ペットショップ周りにも付き合ってくれなくなった親友──京を想い浮かべては恨めしい気持ちを抱いてしまう真琴であった。
一方、京の日常はというと先ずは料理スキルを新しくLV2で作り直してもらい自炊にドはまりして楽しみつつも、真琴のために色々と自分なりに考えていた。
真琴がスキルを探しやすいように何か良い方法はないかと思案したり(一度の機会で多数のスキルを探れるように動物園や牧場、養鶏場、蟻の巣や養蜂の蜂の巣、小魚の大群、釣りの餌等を検討)、エステサロンの真似事を二人で始めるとしたら、どういった設備や準備が必要なのかを調べたりもしていた。
少し探せば色々と都合の良い世の中になっていて、レンタルオフィスやシェアオフィス、エステやマッサージの事業者向けのレンタルサロンなんかも普通に存在する。それもびっくりするような安価で。
(へぇ、探せば何でもあるものね便利なことに。これならすぐにでも始められそうじゃない)
京の働く業界は昔から言われている事だが、どうしても給料が低くなりがちだ。京も例外ではなくその通りなので、真琴と一緒に事業を始める事にかなり前向きな姿勢になっている。
美容業界で働いてきた京には真琴が母親達に施した内容の価値が正確に理解できている。本来であれば値段などつけようがないような、とんでもない成果であり奇跡。
あの日清佳が言った《何でも良いからすぐにお店を始めるべきね》という言葉。真に受けた訳ではないが光魔法の価値が解るだけに、期待してしまうのも無理のないことであった。
◇
「で、真琴どうするの?」
「うーん……今の仕事に拘りもないから辞めるのは問題ないんだけど、光魔法が一人だけじゃ不安というか疲れそうっていうか」
「あ、それなんだけどあたしも手伝うわよ勿論。疲れたらスキルを交換してもう一人がやれば良いじゃない」
「あ、その手があったね。でも大丈夫かな? お客さん来るのかなぁ?」
「それはまぁ、やり方次第ってところでしょうね。競合するお店は星のようにあるんだし。景気も良くないから難しい時期でもあるしね」
「かといって忙し過ぎても困るんだけどね……光魔法を繰り返すだけのロボットになるのは嫌だなぁ」
「そこは営業時間を短くするとか、何なら休みを三日くらい設定して上手くやれば大丈夫よ。あんたの目的のスローライフ出来るって」
「そんなに上手くいくのかなぁ……」
「なんならあたし主体で頑張るからさ。準備も手続きなんかも。真琴にはあたしの魔力が無くなったら出てきてもらうみたいな? それまでは好きにスキルを探したり、適当にしてて良いから」
「適当って。やるからには私も頑張るけど……」
憧れの独立開業ではあるが、普通のOLである真琴にはどうしても敷居が高く感じてしまう。いざこういう状況に直面してみれば不安しかない。
京の方は独立のために店を去っていった同僚を何人か見ているため不安は少なく、かなり前向きな姿勢だ。今の職場を辞めたい気持ちが強いし、成功を確信しているからなのだが。
そんな感じで何も決まらず、ぐだぐだと時間だけが経過していく中で、清佳から入った一本の電話。
「この前のお礼ね、皆がそれぞれ50万づつ用意して真琴と京ちゃんに100万円づつ振り込んだわよ今日」
先日帰郷した際、親達に光魔法を行使した対価。この電話により二人の独立開業が、一気に現実味を帯びて加速していく。更には、
「あ、それとは別に何かお店を始めるんなら皆して協力するつもりだから、また相談しなさいね真琴。税金のことも考えなきゃだから」
という、頼もしいお言葉も頂いた。都内で商売を始めるにあたり普通の感覚(他業種の感覚)では非常に心許ない金額ではあるが、真琴達が参入するのは少々特殊な業界だ。
マッサージや簡易的なエステサロンの施術内容なら施術台さえあれば始められるし、なんなら場所は自宅でも良い。魔法という原価0でズル全開なチート能力を扱える二人にとっては当面の経費と生活費さえ確保できていれば問題ないのだ。
こうして二人は開業に向けて舵をきり、突き進んで行くことになった。
◇
(あーダルい。早く春にならねーかな)
滋賀県の某有名寺社にて、座禅を組みながら一人の青年僧侶が心の中で悪態とも取れるような考えに囚われている。
それ系の大学を卒業して、現在はこうして修行のために地元を離れている24才。年が明けて春になれば長かった二年の修行期間を終えるため、浮わついてしまうのも無理からぬことであった。
(はぁ……俺だってスキルに目覚めて炎の魔法とかバンバン使えちゃう人生が良かった)
そして彼は魔境チャンネルの視聴者でもあった。生まれながらに人生のレールが敷かれていた彼には自分の人生が酷くつまらなく感じられて、こうして魔法やスキルに夢を抱く日々。
元々ライトノベルやアニメが好きだったこともあり、スキルという怪しげな現象の信者になるための下地は十分にあったのかも知れない 。
(ずりーよな自分達だけでスキルの情報を秘匿して。人類にプラスしかないんだからガンガン無償で広めるべきなのに)
(まぁ、あの二人は可愛いから許すけど。チャンネル登録者増えたって教える気ないだろあの様子じゃ)
(せめてヒントくらい公開してくれたらなー本当にケチ臭いよな。許すけど……)
(まぁいいや。仮にスキルに目覚めるとして、どんなスキルが良いのか妄想して時間を潰すか。今日も)
修行といってもその内容は特段キツくもなく、どちらかといえば暇と飽きを伴う。朝早くに起床して掃除と洗濯、そして朝食の用意。
日中にやることは写経と読経、他には今やっている座禅を組んで瞑想することくらいしかやることがない。それを毎日二年間(この寺の場合)若い者が色々ともて余すのも仕方のないことである。
(しかし何度考えても転移魔法が最強だよなぁ。スレの奴らは否定的だったけど、隙間時間で世界一周できたら嬉しいしかないのだが?)
(浮遊とか風魔法での移動より絶対価値があるよな。そんなん飛行機で済むだろって感じだし。人間ドローンになって嬉しいか?)
(移動中に見る景色がどうとか反論されたけど、そんなもんその場所毎に転移しても見れるじゃねーか)
(他にはアイテムボックスの類いも良いな。引っ越し一人でできちゃうの強いだろどう考えても?)
ゴチンっ!
「痛っー! え? ちょっ、あーーー!」
バゴンっ!!!
この日、真琴達の他では初めてとなるスキルの覚醒者が誕生する。座禅を組んだ姿勢で空中に浮遊した彼は、天井の梁に頭をぶつけてから直後、床の板敷きに激突した。
寺という建物の構造上、本堂に天板はなく、梁から床までの高さは相当なものがあったらしい。結果、足の骨折と引き換えにはなったが俊之は念願のスキルに目覚めたのだった。
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