第24話

開業から二週間が経過し、世間がGWゴールデンウィークに突入する頃。


真琴が新たなポーションを創り出そうと頑張っていた。今回は経口摂取ではなく、触れることで効果を表すものを目標にして。


小説の中では頭から被ることで傷が癒えたり、傷口にぶっかけて怪我が治るという描写も多く、それらを参考にした形だ。



そして気付いたポーションの真実。


(え? お玉で混ぜるまでの工程、材料も含めて全部同じじゃん!)


(あの、スープというか、色が変わる前の液体って共通だったのかー)


(じゃあ、スープ作った後は小分けにして魔力を流せば何回も試せる! 失敗しても量が少ないから痛くない!)


(毎食カレーを強制されるイベントは辛いからね。助かるぅ)


(よし、続きをやっていこう)



ポーションに組み合わせるのは《スキル覚醒LV1》 真琴の予定(妄想)では、完成したポーションを霧吹きでシュっとして人々が覚醒! どんどん人類がスキルに目覚める、といった流れ。


だったのだが……実際には非常に効率の悪いものができてしまった。


効果を出すには相当な量が必要で、最初から魔法を使った方が何倍も良く、対象が酷いレベルで濡れてしまうのも最悪だ(罰ゲームか? と疑う程に)


霧吹き等では全然追い付かず、バケツが必要な勢い。失敗を悟り、ポーション創りは行き詰まることになった。


時間も遅いため、麦茶の容器にスープを移して冷蔵庫に保管。明日に備えて寝ることにした。





「髪の毛だったらシャンプータイプにして何か出来そうよね」

「カル○スみたいに原液を作って薄めて使うとか? あ、また飲む感じに戻っちゃうか」


京と鼎から面白い案も出たが、今回に限っては今一つ、何かが足りないように思える真琴。


(でも多分、そういう方向なんだよね、きっと)


(魔力の問題と濡れちゃうことが解決すれば昨日のでも……)


(シャワーを浴びる感じなら濡れるの当たり前だから……それを循環して?)


(あれ? だったらお風呂で良いよね? 薬湯みたいな)


(でも、お風呂の量は流石に……いや、それこそ原液みたいな、入浴剤?)


(入浴剤を創って、希釈して使う……うん、これしかない! 創れるかは知らんけど)





「カ ク ク リ ン~~~」


仕事前の店内に、真琴の──何かになりきった声が響いた。とある猫型キャラを模した、真琴渾身の激アツ演出だったのだが。



「「……」」



固まる京と鼎に対して、ニコッと、薄い笑みを向ける真琴。麦茶の容器を掲げる姿は滑稽そのもの。



「「……?」」




「カ ク ク」

「「だから何じゃいそれ!」」


もう一度やろうとしたら怒られた。





カレーとホワイトシチューに化けた二回の失敗を礎にして、スキル覚醒LV1の効果を持つ入浴剤を創ることに成功した真琴。


希釈の割合は1/500、3時間に限り効果を現す。某有名な入浴剤の名称と覚醒の覚の字を混ぜ合わせて、カク何ちゃらという商品名が決められたらしい(高度なク○知識)


霧吹きポーションと違い、魔力効率も悪くならずに済んだ。何しろ風呂に溶かし、湯として利用するため、継続して使用できる。効果が出ている時間内なら何人でも。



「「おおー」」


説明を聞いて素直に称賛する二人。


「鑑定で効果は確認済みなんだけど、実際に使って実験? ちゃんとスキルが覚醒するのか、確かめたいんだよねぇ」

「うちのお母さんで良ければ差し出すけど?」

「お母さん助かる! じゃあ、鼎ちゃんお願いします」


検索した結果、一般的な湯船の容量は250リットル程度と判明した。麦茶の容器は2リットルなので、そのまま鼎に持たせて適量を使用してもらうことに。


翌朝には鼎が瑠美を連れて出勤し、鑑定した結果 《二重思考LV1》 というスキルに覚醒していた(鑑定時、スキルの表示色でわかる)


覚醒して以降、数回試して『使うと気持ち悪くなる 』と言う瑠美を案じて、料理スキルと交換することになった(本人が希望)


そして後日、真琴から渡された《料理LV2》の効果に驚愕し、満面の笑みになる瑠美なのであった(鼎もガッツリ恩恵を受けた)



「で、これからどうするの?」

「うん、戦国さんにお願いできないかなって」

「戦国さん?」



戦国温泉物語──言わずと知れた巨大なスーパー銭湯で、都内に3店舗、他に全国展開もされている(鼎だけは馴染みがないようだが)


広大な敷地面積と多種多様な施設に風呂。その名の通り、各所に戦国時代の雰囲気を感じさせる造り。刀剣や鎧兜の展示数も相当なもので半端ない。


元々風呂好きなことや、昨今のサウナブームに乗ったりして、真琴と京が利用している馴染みの店というかお風呂。


カククリンを生み出したからには有効に活用したいと考えて、パッと思いついた真琴だった。


「勝手に持ち込んで、いいの?」

「駄目だと思うよ京ちゃん。あ、皆で行こう? 偵察も兼ねて」

「おおー」

「たまにはいいわね! お店やってから行ってないし」

「鼎ちゃんも戦国デビューだよぉ」

「他所のお風呂入る機会、ないからね私。オラわくわくしてきたぞ」


仕事の後の楽しみと、真琴曰く 偵察 の意味を含んだ、謎の活動が決定された(スーパー銭湯で風呂に入るだけなのだが)





「はあーーー戦国、最高っ!」


ハンドルを握って声をあげたのは鼎。三人の住居と件の施設は、各々の距離が微妙に開いていたため、急遽親の車を持ち出してくれた。


人生初となるスーパー銭湯に気を良くして、すっかり上機嫌になっている。無事にサウナーに育ったようで、真琴と京も連れて来た甲斐が大いにあった。


「真琴、偵察の成果あったの?」

「うん? 気持ちよくてサッパリしたことかな?」

「あんた……」

「結局、真琴ちゃん的にはどうなればいいの?」

「うーん、戦国さんで皆がスキルに覚醒できれば、どんどん覚醒者が増えて……」

「それから?」

「そしたらスキルあるのが当たり前になって、私がどんなスキルを使おうと不自然じゃない、普通だ! みたいな?」

「絶対に普通ではない」

「そして将来はスキルの交換で悪どくお金を稼ぐんだ私」

「……」

「……」

「あれ?」

「最後のはアレとして、先ずは戦国さんに協力を要請? 打診する、だね」

「大事になってきたわね……」

「相手にしてもらえるかなぁ」

「私に任せてよ真琴ちゃん。ちょっと色々と動いてみるから」


真琴の望む将来へ向けて、鼎が色々と引き受けることになった。


鼎の行動原理は極めて単純で、自分が気に入った面白い奴ら(真琴と京)を支えるようにサポートすれば、更に面白いことが続いていくんじゃね?


という、自分の利にも基づいたものだ。二人に足りない部分を補足したり、手伝うだけでいい。変な行動や結果もひっくるめて、総じて面白いことになりそうだから。





数日後。


「今日はお会いして頂き、有り難うございます」


件のスーパー銭湯。その巨大な施設の一角──支配人室に於いて、鼎が深々と頭を下げた。


「支配人の竹島 美生みきです。あんまり畏まらないで頂戴? お互い気楽にいきましょう? 青木 鼎さん、ね。どうぞ座って」


訪問に際し用意された鼎の名刺を確認して、立場と氏名が告げられた。アポイントを取るにあたり、簡単な訪問理由は伝えてある。


「何らかの、協力に関しての打診と伺ってますけど、間違いないかしら?」

「はい。内容につきましては、これよりご説明させていただこうと、考えております」

「協力します」

「はい、ですからごっ? 説明? を?」

「ふふふ、本当に楽にして? ほら、肩の力を抜いて、もっと」

「はぁ……」

「そうそう、リラックス。いいわね、そんな感じ」

「……」

「前提として言うけど、リェチーチの者を前にして歓迎しない女なんか、この都内に存在しないわ」

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