第23話
光魔法が一つしかないため、その移動に煩わしさを感じるものの、それ以外には特段不便もなく店の営業は安定して営むことができている。
日々の予約だけでデイタイムのスケジュールは埋まっているし(予約は一ヶ月先までと設定してある)、選ばれる施術の内容もパターン化してきたことで、必要な魔力量と売上の予測もつくようになった。
具体的には限度(施術単位の)のある施術を2単位と、加えてリフトアップが1~2回チョイスされる、という感じで。
ポーションで魔力量を増やせる今は、京と鼎だけで予約客の全てに施術を行えるようにもなった。
そして、その日最後の予約客を施術した後に始まる、飛び込み一般客の対応。ここだけはバラつきもあるので予測が難しいものの、魔力が尽きたら終了、というスタイルも徐々に定着しつつある。
真琴の魔力量から施術可能な人数を割り出して○○人まで! とか、前以て告知もできそうだったが、そうはせずに既存の方法で対処していた(出たとこ勝負)
一度に纏めての施術(高額になるような)を求める声もあるが、それは丁重に断っている。懸念があるとすれば、そうした要望に応えることができない点、になるだろうか。
◇
「「掲示板?」」
「うん、掲示板。二人は見たことある? これ」
予約の合間に鼎から、とある掲示板についてレクチャーを受ける、真琴と京。
自分達の動画チャンネルすら放置していた二人には知る由もない、名の知れた巨大掲示板。それが枝分かれして、細分化した先にある一つのスレッド。
その
「これ全部、あたし達のことを書き込まれてるの?」
「ほぇ」
「そうそう」
鼎が二人に出会う際、大いに役立った書き込みの数々。遡って最初から閲覧したのも、つい最近のことだ。
という背景があり、スレの流れや風潮的なものを、結構な確度で把握している鼎。
「最初期から二人に注目していた勢力、というか人達だよ。一番初めの告知動画からずっと」
二人の間に加わることができた《幸運な自分》とは違い、スレの住人は正直言って不憫だなと、考えてしまう鼎。
必要な情報はアップされず、覚醒という人参をぶら下げられたまま、何時までも放置されているような状態。
何かを誤魔化すように、僧侶に便乗する形で上げた動画などは、ブラフのように扱われている。
「「あぅ……」」
それを二人も理解できているからこそ、罪悪感を覚えているのだが。現在進行形で。
件の掲示板にしても、元を辿れば発端は自分達の動画なのだ。もう少し、責任感を持つべきだったのかも知れない。
「あ、とは言っても、まだまだ挽回できるからね? そんな焦る時間じゃないよ。少しだけ配信にも気を回そう? ていう提案がしたかっただけで」
コクコクコクコクコクコク
高速で首肯を繰り返す、真琴と京であった。
三人で話し合った結果、配信に関しては鼎が先導して行うことになった。
京は店の経理を担っているし、真琴にはスキルの件があって、それなりに忙しかったりする。平等に仕事を振り分けた結果、そういうことで話がついた。当然、真琴と京も可能な限り協力をする、という約束を交わした上で。
数日後。善は急げということで、早々に新しい動画が配信された。先ずは鼎の紹介から始まり、次に覚醒方法の暴露を行って、最後は三人でわちゃわちゃと魔法を行使するという、何とも適当な感じに纏まった。
◇
ある日の一コマ。出勤前の真琴。
(よし! 二つ目の水槽、設置完了!)
思い通りに作業を終えて、真琴が鼻息を荒ぶらせた。
現在、真琴の部屋には二つ目となる、貝を飼育するための水槽が設置されたばかりで、電動ポンプの作動音が僅かに鳴り響いている。
最初はザリガニとタニシの水槽だったものが今や一新されて、巻き貝の一種が飼育されるものへと変わっていた。
変更理由は、ザリガニがタニシを食べようとして、襲っている現場を目撃したため。
釣り好きの店長にザリガニとタニシを引き取ってもらい(魚の餌として?)、新たに巻き貝の飼育を始めたのだった。
今は指の爪程のサイズ、成長しても3センチが最大という話だから省スペース。長命な生態も気に入って、スキル倉庫として採用が決定。
交換の《弾》になる料理スキルは間違いなく優秀なのだが、用意ができないこともある。料理の時間がとれなかったり、連続で交換する際には特に。
そうした場合に備えて生物を飼育し、スキルを預かってもらったり、借りたり(奪ったり)するためのサポートメンバーだ。
出先で必要になることもあるので、スキルの探索時にはタッパーに入れて持ち歩いている真琴だった。
(一つの水槽に15匹づつで総勢、30匹だね。よーしよーし)
命ある生物を倉庫扱いし、
◇
「京ちゃん、ちょっとこれ見てくれるかな?」
「ん? カナさん、どうしたんですか?」
パソコンの画面を京の方に向けて、鼎が確認を促した。
「今帰ったばかりのお客さんなんだけど、何故か気になっちゃって。で、数日間の予約履歴を見てみたらコレ」
「えーと、何かおかしい所、あります?」
「この人、二回来店してるんだよね。一昨日と今日に」
「それって……同じお客さんに施術なんてしましたっけ?」
「してないよね? 予約は私達二人で全員に対応しているけど、そんな記憶ないよ」
「どういう……」
「不正に予約のシステムが使われてるかも知れないってこと。恐らく転売で」
「え?」
「私達も
「どうしよう?」
「まだお客さんの顔を覚える程、営業してないからねお店。気付けないのも仕方ないよ。一度ブラックリストに入れて、様子見よっか」
多くの人にスキルの効力を、リーズナブルに提供したい、という想いで料金の設定がされているのに、転売されては堪ったものではない。
需要と供給が釣り合うことで、転売が成り立っているとしても、商売をする者にとっては許容できない問題だ。
転売を目的にした予約のせいで、他の予約客が迷惑を被るし、第一そういうやり方で利益を享受する者を、京と鼎には許すことができない。
とはいえ取れる手段も限られるため、今は予防的な対策をたてることしかできないのだった。
「えぇ?」
問題が共有されて、驚く真琴。
「大して得できなそうだけど、本当にそこまでする?」
「わからないよ真琴ちゃん。5万円で転売されてるかも」
「そんなぁ……」
しかも、放っておくとワラワラと模倣する者が現れて、とんでもない大事に発展することもあるのだ。
「あ、鑑定でお客さん、チェックしようか私?」
「大丈夫だよ真琴ちゃん。そこまでしなくても」
「掲示物で注意を促して、怪しいアカウントを警戒するくらいね。今のところは」
色々と調べた上で証拠になるような、決定的な情報は見当たらず《そういう疑いがある》というだけの、確信には至らない微妙な現状。
「「「はぁ……」」」
憂鬱な問題に直面して、ため息を吐く三人であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます