第3話

それから二人は連れだって河川敷にある公園に足を運んだ。

手にするのは自販機で購入したペットボトルのお茶。


飲み物と座る場所さえあれば二人は何処でだって半永久的にダベることができるのだ、昔から。


「しかし本当にスキルなんてものがこの世界にあったとは…場所を変えて改めて考えると…凄いね真琴」

「他にも気付いて使ってる人とかいるのかな?」

「どうだろ? 世界は広いからなぁー。80億だっけ? 地球の人口」

「スケールが大き過ぎて全くピンとこない数字だよね」

「表に現れない感じ? 皆、秘密主義を貫いてるのかしら?」

「当面は私達も二人の間だけで色々と試してみよう」

「そうだね。あ、あそこ土竜!」

「え? どこ? あ、可愛い!」

「人間以外にもスキルあるのかな? 鑑定できる?」

「少し回復したから大丈夫、えいっ」



■土竜(もぐら)

3才 ♂


■スキル

性力増強LV2


(え? 怖っ! しかも2…)


可愛いらしい見た目に反して所持するスキルが不穏なものだったため、真琴がドン引いた。


中年のおじ様達に需要が見込めそうなスキルではあった。

具体的にどう必要で、どんな形で役立つのかは恋愛経験皆無の真琴には知るよしもなかったが。


真琴から鑑定結果を聞いた京もドン引いた。

真琴よりはいくぶん社交的で、職業柄にも異性と接する機会の多くある彼女でも。


「え? キモっ!」


彼女も恋愛経験は皆無だった。

当たり前だが土竜側には全く非がなく、酷い言われようだった。


「でもこれで人間じゃなくてもスキルを持っているのが確認できたね」

「そうだね。それこそ動物達が魔法なんて使った日には大騒ぎになりそうだけど」

「カオス過ぎて笑えないわね…」

「確かに…」


土竜のついでにその辺に生えてる植物にも鑑定をした結果、目につく範囲ではあるものの植物でスキルを持つものは確認できなかった。


「ペットショップなら動物のスキル、観察し放題じゃない? なんならスキル貰ったり。動物ならまぁ良いでしょ? 動物が魔法とか使ったら危ないし」

「世の中のため、みたいな感じで?」

「そうそう、悲しい事故を未然に防ぐみたいな意味合いで」

「おおお、流石は京ちゃんです」

「検索で調べて行ってみましょ」

「はあい」


電車で二駅の移動を経て訪れたペットショップには、正に壮観な景色が広がっていた。

スキルの品揃え的な意味で。


効果は意味不明だったりショボかったり、技術的なものや精神的なもの、概念的なものまであって、数だけは選り取り見取りだ。


「うーん。お宝の山を目の前にして、これは困ったわねー」

「交換だからね…」

「鑑定と交換は絶対に手放せないもんね。私の水魔法と真琴の料理を差し出しても得られるスキルは二つだけかぁ」

「あ、動物を沢山飼ってスキル倉庫になってもらうとか?」

「お世話するの大変じゃない、自分のことでもいっぱいいっぱいなのに」

「確かに。猫ちゃん一匹くらいならいけるんだけどねえ…」

「でも次善策ではあるわね。もう少し考えてみましょ。急ぐ必要もないんだし」


それから二人は爬虫類と昆虫、魚の類いと両生類、亀等にもちゃんとスキルが備わっていることを確認して店を後にした。


まだまだ議論の余地があるため、真琴は京のアパートに泊まることにした。


一度自分のアパートに立ち寄ってから替えの下着とパジャマ、明日着ていく制服等を小型のスーツケースに詰め込んで、次はスーパーに寄って食材を仕入れた。


自炊という節約術、ではなくて単に鍋を食べたくなったから。

買い物を済ませると時刻は17時。


「そういえば何で真琴だけ料理スキル持ってるんだろ? あたしだって毎日のように自炊くらいするのに」

「そうだよね? あ、そういえばスキルに目覚めてから初だ、料理するの」

「ふふふ、見せて貰おうかスキル持ちの料理とやらを」

「え? 京ちゃんちなんだから京ちゃんしてよぉ」


暗黙の了解でお互いの家に寝泊まりする際には、家主が炊事をすることになっていた。


その流れでいくと当然今日は家主である京が腕を振るう番であり、真琴も甘える気満々であった。


「せっかくスキル使えるんだから勿体無いじゃない! しかもLV2だし!」

「それもそうなのかな…?」

「野菜洗うのとか食器出すのとかアシスタントはするからさっ! 頑張って」

「京ちゃんも早く使えるようになってよスキル」

「はいはい、なるなる」


そうして真琴が作った料理(適当な野菜と豚肉の豆乳鍋)は、二人に感動をもたらした。


「え? ただの鍋なのにめちゃうまっ!?」

「本当だ! 鍋なのに凄く美味しい! いや鍋を貶めるつもりはないけど」

「食材カットして市販のスープで炊くだけだから、作り手でこんなに差が出るのおかしいよね?」

「うん、同意。我ながらそう思うよ」

「あ? 米もめちゃうまっ!?」

「それは流石にないでしょ? え? うまっ!」

「ご飯単体でこんな美味しいの意味不明なんですけど?」

「うんうん、訳がわからないよね、てかうまっ!」

「スキル先輩のパワースゲー」

「四人前かそれ以上の量がありそうなのに、全部二人で食べきりそうなのヤバい」


明日の仕事を鑑みて飲酒を控えたからなのか、とにかく大量の食事を胃に納めてしまった。


後片付けもできないままで腹を膨らませた状態の女が二名、部屋に転がっている。

その絵面はまるでアザラシのよう。


「「はぁぁぁあ、美味しかったぁぁぁ」」


それでも二人は自分達の行いを一切悔いることはなく、大満足で寝落ちしそう、というかウトウトしている。


食後の反省会やお喋りに費やす余力は残っていなかったようだ。





「ふぁぁぁ」


出勤したばかりの真琴が欠伸をしていた。

ポットに水を入れたり、コーヒーや紅茶にお茶といったインスタントな飲み物の残量を確認するという、毎朝のルーチンをこなしていく。


夜明け前に起床した真琴はシャワーを浴びて身支度を整えると、京の分の朝食(スクランブルエッグのみ、パンは自分で焼いてねスタイル)を用意して早々に会社に向かった。


朝の混雑が苦手な、真琴のいつもの時間だった。

26という年齢もあって後輩の女子社員も複数在籍するが、真琴が好きでやっている朝の作業。


商社の総務という、いわば何でも屋。

身長155センチの彼女がまだ誰も出社していないオフィスの中をちょこまかと移動していた。


(そういえば料理のスキルを京ちゃんに渡しても私って料理できるのかな? スキルのない京ちゃんやスキルの存在すら知らない世のお母さん達がしてるんだからできるのか)


(スキル有りとなしで味にどのくらい違いがあるんだろ? 帰ったら検証だなぁ。一人でできるし)


(あとはどうにかして沢山スキルを所持する方法を見つけたいなぁ…動物や昆虫の使われることのないだろうスキル群が勿体無さ過ぎるよぉ)


(スキルの所持数を増やすスキルとかがあれば…それこそ京ちゃんにも沢山スキルを持ってもらって)


(ああ、未来に向けて夢が広がるなぁ。光魔法で医療では治せない病気や怪我を回復させることができたら、とか)


(いや、待てよ? 医療関係は組織と利権が大き過ぎて危ない、近寄ると良くない気がする…ラノベ的に)


(LVをじゃんじゃん上げることさえできたら飲食店やるだけで成功確定? まぁLVを上げる方法なんて全然思い付かないけど)


(それと配信はどうだろ? 見た目が派手な魔法を使って集客できないかな? 動画だと加工を疑われてキツいのかな? 京ちゃんにも聞いてみよう…)


等と、まぁまぁ理解可能な供述をしながら、自分のオフィスチェアに座って妄想を繰り広げる真琴だった。

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