第4話
就業後、会社からの帰り道に真琴は昨日とは違うペットショップを訪れていた。
見るだけならタダだし、もしかしたら凄いスキルを発見できるかも知れないと考えて。
勿論、少ない小遣いの中から購入資金を捻出するために、何でも買えるというわけでもない。
高級な犬や猫は真琴の月収を軽く越える。
理想はハムスターとかヒヨコとか、グロくなくて触る際に抵抗のないもの。
可愛いかったなら最高で、魚は水から出す手間を考えると遠慮したいところだった。
爬虫類と昆虫なんかもNGでお願いしたい。
という都合の良い考えで陳列されたペット達を観察していく。
極端な話、交換の練習用なら相手のスキルは何だって良く、交換を繰り返すことでLVが上がるのかは未知の領域だが、試してみる価値はあると思っていた。
LV3までなら才能とか努力次第で上がるかも知れないと。
(うーん、ペットはどの子もスキルを必ず一つだけ持っているけど、正直ハズレみたいのが多いねぇ)
(このワンちゃんなんて《遠吠え》だからなぁ…効果は狼に似た遠吠えができる、とか誰が得するの?)
(こっちのワンちゃんは《毛繕い》だし、この猫ちゃんは《早食い》だもんなぁ…)
(この前は良く考えずにお宝の山だなんて言って京ちゃんと騒いだけど、良く考えてみるとそうでもないんだよね)
(まあ簡単にレアで希少なものは見付からないか。当分の間はペットショップ巡りを趣味にするのも良いかも)
(近くにもう一件ペットショップあるみたいだから、そっちも寄って行こう。調べたら都内に670件とかあるみたいだしねペットショップ…あり過ぎだよっ!)
この後ハシゴした店にて《毒耐性LV1》を持ったザリガニ(150円)と、飼育に必要な小さな水槽を購入して帰宅の途に着いた。
(よーし、じゃあザリガニに触るぞぉ…大丈夫! キモくないキモくない)
(そんでもってスキル交換! からのザリガニ鑑定)
■ザリガニ
1、6才 ♂
■スキル
料理LV2
(よし! 無事に交換完了。ついでに私の方も晩ごはんを作って料理スキルがなくなったことで何がどう変わってるのか調べてみよう)
それから夕飯の支度を始めた真琴は、料理スキルがなくなったことによる弊害を特に感じることなく料理を完成させた。
(冷凍の春巻と茹で玉子、シーザーサラダにご飯と味噌汁って内容だから弊害も何もないか?)
(うん、普通に美味しい。昨日の鍋のような謎の感動は確かにないけど。作る過程で困ることもなかったし…うーん解らない)
(スキルがあると感動するくらい料理が美味しくなる、とだけ覚えておこうかな。あ、一応私の方も鑑定しておこう)
■五十嵐 真琴(いからし まこと)
会社員 26才 ♀
■スキル
スキル交換 LV1
鑑定LV1
毒耐性LV1
料理LV1
(え?)
(どうして料理スキルあるの? しかもLV1で?)
(取り敢えず京ちゃんに連絡しておこう…)
翌日。
京の仕事が終わり次第、落ち合う約束を交わしている真琴はペットショップを二店舗回ってから京と合流した。
この日の成果はやたら水棲生物の取り扱いの多い店で購入したタニシ(30円)、所持スキルは《格闘技LV1》だった。
出勤用のバッグにビニール袋に入ったタニシが潜んでいると思うと何とも微妙な気持ちになる真琴だったが、昆虫よりは幾分マシかと自分に言い聞かせて我慢している。
「タニシがどうやって格闘技するのよ!」
「私に言われても困るよ!」
京と連れだって入ったファミレス。
腰を下ろして今日の成果をドヤ顔ぎみで報告した際の、彼女の第一声がこれだった。
「もう、良くわからないことばかりね本当。で、料理スキルだっけ?」
「うん、勝手に生えてきたんだよね料理」
「まあ、増える分には良いじゃない。てことは繰り返し料理が生えてくるなら真琴に関しては、ほぼ無制限でスキルの数を増やせるってことだよねっ! 真琴スゲー」
「そうなるのかな? タニシ君でまた試してみるよ」
「りょーかい。あたしの方も来週には無理矢理にだけど三連休を取れたから期待しといて」
「おお、凄い。手伝えることがあったら言ってね?」
「うん解った。でもひたすら睡魔との戦いになりそうだからなー。あんたも仕事だしコッチはコッチで頑張るつもり」
「私も良いスキルを発見できるようにお店回り、頑張るね」
時間が遅いため普段より軽い内容の夕食をとって、小一時間程で店を出た。
帰宅してすぐにタニシの格闘技LV1と真琴の料理LV1を交換。
鑑定で確認したが料理は生えていなかった。
(スキル無限獲得作戦が…昨日と何が違うんだろ? 料理スキルのない状態で料理を作るとか?)
(ご飯済ませちゃったから明日の朝にでも試してみようかな)
用済みになったタニシ君(酷い)をザリガニ水槽に入れて、この日は就寝した。
翌朝、朝から少し手の込んだ朝食(ご飯、味噌汁、だし巻き玉子、シャケの切り身を焼いたもの、胡瓜の浅漬け)を用意したら、ひょこっと料理スキルが生えていた。
■五十嵐 真琴(いからし まこと)
会社員 26才 ♀
■スキル
スキル交換 LV1
鑑定LV1
毒耐性LV1
格闘技LV1
料理LV1
(おおぉぉぉ、凄い順調だあ。計画通りにスキル増えてて偉い)
ちゃんとした? 朝ご飯を食べて更に機嫌を良くした状態の真琴は、今日も元気に出勤して行った。
そして何事もなく平和に仕事を終えてから、今日も懲りずにペットショップへと赴く。
何せ670店舗以上が都内にひしめいているのだ。
無休で毎日二軒を回っても一年近くかかる計算になり、休んでいる暇はなかった。
そして足を運んだ今日の一軒目。
(あれ? このハムスターちゃん、毒耐性LV1がある!)
(でもハムスターかぁ。今までの水槽メンバーと違って少し手がかかりそうだよね…)
(でも同じスキルを取得したらどんな感じになるのか、気になるぅぅぅ)
ハムスターのケージに顔を近付けて観察していたら、人懐こい個体なのか此方に寄って来てケージの隙間から鼻を出している。
それを見て真琴は咄嗟にその鼻に触れて交換を発動していた。
普通にスキル泥棒である。現状、真琴を検挙できるような法も何もあったもんじゃないが。
■五十嵐 真琴(いからし まこと)
会社員 26才 ♀
■スキル
スキル交換 LV1
鑑定LV1
毒耐性LV2
格闘技LV1
(えーと、ハムちゃんごめんね? スキルは有効に使わせて貰うからね? 許してね? ごめんなさい)
(しかし…ははーん。こうやってスキルのLVを上げることができるのかぁ)
(単に同じ名称のものどうしで上がるのか、LVも同じ必要があるのか、その辺は今はわからないけど、その内にわかりそうだね)
(それと確認とかなくて自動的に融合される仕様? も気を付けなきゃ。LVが上がるより京ちゃんに使ってもらった方が良い場合もあるよねきっと…)
(よし、LVの上がる手段を一つ得たから収穫的には大満足。次いこ次)
ハムスターに感謝をしつつ次の店に向かった真琴は──待望の能力を持つ者と邂逅を果たす。
取り敢えず300円のそれを入れ物と共に確保して、様々な感情が絡み合った複雑な心持ちで自宅へと急いだ。
出先で料理スキルという交換に必要な《弾》を消費したために、先ずは夕飯を自炊してそれの補充を済ませた。
折角の料理スキルだが、料理スキルのない状態で料理をする必要があるために、その恩恵に与る機会は鍋以降ないままだ。
それはそうと真琴の挙動が非常に怪しい。見るからに挙動不審でソワソワしている。
そんな状態の彼女が思い詰めたようにキッチンから割り箸を持ってくると、買ったばかりの入れ物の前に陣取ってそれの上蓋を開けた。
割り箸を持つ手が震えている。
呼吸も浅く、過呼吸にでもなってしまいそうな勢いがある。
その原因は勿論、鑑定によってもたらされていた。
■幼虫(カブトムシ)
0、8才 ♂
■スキル
光魔法LV1
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