第5話

人生に於てかなり上位になるであろう勇気を振り絞った結果としては、まずまずの成果。


光魔法LV1という可能性に満ちた能力を手に入れた真琴はというと、ガッツリと精神的に何かを削られてぼんやりとしていた。



■五十嵐 真琴(いからし まこと)

会社員 26才 ♀


■スキル

スキル交換 LV1

鑑定LV1

毒耐性LV2

格闘技LV1

光魔法LV1


(あ、普通にヒールが使えるっぽい。今は怪我もしてないし使う必要はないかな)


ファンタジーには必ずと言っていい程に登場する、お約束な能力である癒し系。


真琴は予てよりこうした《力》を手に入れた場合に備えて、どういう風に活用すれば良いのかを考えていた(妄想していた)


それは人類が未だに克服できていない悩ましい問題──毛根の再生。

正確にはそういう方向で金儲けがしたいだけなのだが。


光魔法を得た今、現在のLVではそこまでの効果は期待できないと理解できた。


しかしLVを上げる手段は判明していて、僅か数日探しただけで光魔法を見つけたのだ。ならば時間の問題でしかないと考えている。


(何回も妄想、いや、シミュレーションした毛根再生に特化した企業の設立も現実味を帯びてきたっ!)


(そしたら会社を辞めて少しだけ働いて、好きなことして生きるんだ私。あれ? 何だかフラグっぽい?)


(ま、いっか。取り敢えず京ちゃんに報告しておこう)


SNSで今日あった出来事をざっくりと伝えて一日を終える。

件の幼虫は蓋をしっかり取り付けて、クローゼットの奥に隠しておいた。


次の日も朝の料理でスキルを生やして退社と同時にペットショップを回る。

この日は《気配察知LV1》と《会話術LV1》の二つを獲得。


更に次の日には《体力増強LV1》といったように、コツコツとだが着実にスキルの数を増やしていった。


同じように一連の行動を繰り返して、真琴のスキル群はどんどん豪華になっていき、とどまることを知らない。



■五十嵐 真琴(いからし まこと)

会社員 26才 ♀


■スキル

スキル交換 LV1

鑑定LV1

毒耐性LV2

格闘技LV1

光魔法LV1

気配察知LV2

会話術LV1

体力増強LV1

運気上昇LV1

剣術LV1

投擲LV1

精神力強化LV1


(ふ、増えたぁぁぁ)


(都内のペットショップ、制覇する頃にはとんでもないことになりそうだね…はは)


達成感と呆れの混じった気持ち。我ながら凄い勢いで増えていくスキルの数々に苦笑してしまう。


ペットショップだけでこの勢いなのだ。

野に存在する動物や昆虫までを範囲として考えた場合、可能性を考えだけで身震いしてしまう。


勿論、スキルの所持数に制限があったり、価値のあるスキルを探せなかったらという懸念もあるが。


(まだ私のスキル生活は始まったばかりだからね。今はひたすらできることを頑張っていこう)


(じゃあ今日もスキルの確認というか試運転というか、やっていくぞぉ)


(気配察知! ふむふむ? クローゼットのはあれだね。あとは…ぎゃっ! あんなところに蜘蛛がいる)


室内の壁にとまっている蜘蛛の気配を察知して、目視でも確認できた。

益虫といわれても、こういうものが苦手なことに変わりはない。


それでも最近の癖で、ついでとばかりに鑑定してみた。



■蜘蛛(チャスジハエトリクモ)

0、9才 ♀


■スキル

強制覚醒(スキル)LV1


(あへ?)


(つ、つ、捕まえなきゃ捕まえなきゃ! 絶対に捕まえなきゃ駄目なやつだよあれ)


考えた末、タッパーの縁を壁にピタッと着けるようにして身動きを制限。

タッパーを上下にスライドすると呆気なく内側の側面に蜘蛛が落ちて蓋をすることができた。


( ここまで成功よしっ! 逃がさないで触れられるかな? あ、先に料理スキル生やさなきゃだ)


蜘蛛は一先ずおいておいて交換用の《弾》である料理スキルを補充してから、再度蜘蛛と向き合った。


タッパーの蓋を開けた瞬間に逃げてしまう恐れがある。

反射神経に特段自信があるわけでもないし素早さにしても同じだ。


(あ、タッパーごと大きい袋に入れてから蓋を開けよう。袋は…プラゴミを捨てる時用の大きいのにしようかな)


(これならタッパーから出ても袋に閉じ込めた状態だから簡単には逃げられないよね。あ、意外と動かない? えいっ)



■強制覚醒(スキル)LV1

対象者のスキルを強制的に目覚めさせる。


無事にスキルを取得(泥棒)した真琴は早速このスキルの効果を確認して、自分の思った通りの内容に笑みをこぼした。


(やった! これで京ちゃんも直ぐにスキル使用者になれる! 30時間のアレは正直なところ確実性とか怪しいからなぁ)


たまたま自分が成功したあの方法を真琴は疑っていた。

試行回数一回の、寝落ちしながら行ったものを自信を持って友人に勧められる程、無責任ではなかった。


(30時間も費やして空振りになったら申し訳なさ過ぎるからねぇ…これで安心できる。早速京ちゃんに報告しておこう)



それから三日後、真琴の仕事終わりに合わせて京と合流。

何故かリクエストされるままにスーパーに寄って食材を購入した。


スキルを用いた手料理が相当お気に召したらしい。

反対する理由も特にないため、ハンバーグに必要なものを買って真琴の家に向かった。


「じゃあ取り敢えず京ちゃんのスキル、さくっと覚醒させるね」

「お願いね。これで使えなかったら怒ります」

「ひえっ」


真琴が初の試みとなる強制覚醒(スキル)LV1を行使した。


「京ちゃんもスキルに目覚めたはずだよ。水魔法、使ってみて?」

「え、もう? わかった! 頑張ってみる!」


京には鑑定スキルがないため真琴のように自分の情報を文字によって視認することはできない。


しかし今は友人を信じて水の魔法を所持している体で(実際に所持はしているが)スキルを念じてみた。


すると自分のスキルに係わることが何となく理解できた。現状使える魔法の姿と使い方。

両手を水を掬うように構えたその上に、水の球が発生した。


「や、やった真琴! 見て、見て!」

「うんうん、良かったね京ちゃん」


こうして新たな魔法使いが世界に誕生した(結構簡単に)


「これで水に困った時でも大丈夫ね!」

「日本に住んでてそんなシチュエーションあるのかなぁ?」

「ウォーターボールで敵を叩きのめしたりね!」

「敵なんていないでしょ京ちゃんに。あとはご飯食べながら話そうよ」

「そうねシェフ、今日も宜しくお願いします! あ、アシスタントは任せてね」


数十分後、テーブルの上に並ぶのはご飯に味噌汁、ポテトサラダと大判のハンバーグといった献立。

二人は手を合わせてから箸をつけた。


結局食べることに夢中になって会話等は一切なく、食後の二人が苦しそうに腹を擦っている。


「あー食べ過ぎたー、く、苦しい、うくぅ」

「私も…限界を越えて食べ過ぎてしまったぁ…もう何もしたくない…」


その後、食事の片付けをしてからお茶を飲んで一息着けるまでに一時間を費やした。


食後の雑談に織り混ぜるようにして、真琴が自分の『これからやりたいこと』を打ち明けていく。


スキルを上手く活用して商売を始めたいこと、可能なら会社も辞めたいこと、毎日好きな事をしてのんびり暮らしたいこと。


それでいて世の中のためになったり、誰かに喜んでもらえるような仕事ができたなら最高だ、と真琴は考えていた。


「いざ魔法が使えるようになっても簡単に思い付かないもんだね、お金儲けって。それでも概ねあんたの考えには賛成だから、あたしも考えてみるよ」


友人と同じ方向を見ていることが確認できて満足する真琴。

具体的に動き出す日に向けて、更なるスキルの収集に意欲を高めた。

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