第14話

「何であんた、そういう大事なことを黙ってるの! スキルね、お母さん分かった。何でもいいいからすぐにお店を始めるべきね。勿論、お母さんにもただちにそれやってもらって効果を確認してからだけどね!」

と清佳。


「うっかりさんね真琴ちゃん。でもそうねぇ、そういうことなら私も全力で応援してもいいかなぁ……ね? あなた? あ、勿論私もスキルの実力とやらを見せてもらってからになるけどね?」

と、旦那さんにも同意を求めたのは秋葉。


「魔法でもスキルでも、もし本当に毛根を瞬時に再生できるなんて事になったら、ノーベル賞を受賞するくらいの偉業だよ真琴ちゃん。その問題で悩んでる男性は多いからね。さ、早く試そう、今すぐ試そう」

今日一番の笑顔を見せた文太。笑顔も眩しいがスキンヘッドも眩しい。


「へへ、父さんな、皆には黙ってたけど、これまで色々な治療方法を試しては全滅してきた経験があるから審査の目は厳しいぞぉ? でもそういうことなら真琴のために一肌脱ごうじゃないか。思う存分やってみろ、へへへ」

で、何故かヘラヘラした感じの元樹。


(うん、うちのお父さんもパッと見て六割くらいの毛根が行方不明だもんね。近い将来お侍さんみたいな月代さかやき? になると思ってたし)


(それはさておき、検証もしてないから黙ってたのに、こっち分野に対しての親達の食い付きがエグいことになっちゃってる。引っ込みつかないよねこれ? はぁ……)


「お母さん達、京ちゃんが言ったのはまだまだ検証とか全然してないんだからね? ぶっつけ本番だから効果は約束できないし! まぁ、駄目でも身体に害がないことくらいなら保証するけど」

「やっちゃえ真琴!」

「もう、京ちゃんも軽く言ってくれちゃって。期待させといて駄目だったらどうするの……」


(ああ! もうやるしかないか。知らないからね私、どうなっても!)


「じゃあ、お母さん達二人は先に化粧落としてきてよ。その間にお父さん達の頭やっちゃうから」

「分かりました先生! ふふっ」


スチャっと敬礼ポーズをとった清佳が軽口を叩いて秋葉と一緒に洗面台に向かった。結構な量のビールを飲んでいたはずだが、キビキビとした動きで。


タオルをお湯で濡らして絞り、簡易的なホットタオルにして元樹と文太に手渡す。自分達で頭を拭いてもらってから、元樹の頭から始めることにした。


後に化粧や髪の汚れは《ピュリフィケーション》で綺麗サッパリにできることに気付くのだが、それはまた別のお話し。


父親の背後に膝立ちになり、指先で頭皮に触れてイメージを固めるべく、眼を閉じて瞑想を始めた。


(治すべきところは毛穴、毛根を生み出す場所と機能。フサフサなお父さんを見たことはないけど……きっと二十歳頃なら元気な毛根で満たされていたはず。フサフサな若い時のお父さんの頭、毛穴と毛根をイメージしてイメージしてイメージして、ヒール!)


(あ、手応えがハッキリ分かる! 完治にはまだまだ治癒が足りてないってことも! そっか……治癒の魔法はこういう感じなんだぁ。じゃ、もう一回イメージしてイメージしてイメージして、黒くてフサフサなお父さんをイメージして、ヒール!)


(魔力を沢山持っていかれた気がするけど、その甲斐あって三回目は必要なさそうかな。よしオッケー!)


「ふぅ……て、京ちゃん? おじさんもどうしたの?」


真琴が眼を開くと、京と文太が真琴を挟むように位置を変えていて、元樹の頭頂部をガン見していた。微動だにせず。


ゴクリっ……


文太の方から喉を鳴らす音が聞こえる。


「真琴、終わったのかな?」

「うん、終わったよお父さん。といっても今日したのはあくまでも毛穴というか、毛根を生み出す部分を正常な状態になるように処置しただけだから、髪が生えてくるまで何日か必要だからね? 直ぐにニョキニョキって生えるんじゃないんだよ?」

「おお、そうかそうか分かったよ真琴。後のお楽しみだな、ははは」

「元樹さん、し、白髪が、白髪が無くなってますよ?!」

「あへぇ?」


最近は染めるのも面倒になって、全体の三割程ある白髪をそのままにしていた元樹。目敏く気付いた文太が指摘すると、威厳の欠片もない声を発した後、ドタバタと部屋の外に出て行ってしまった。


「ま、真琴、ヒールをかけたタイミングだと思うけど、おじさんの頭が二回、こう、ポワーって光ってたわよ?」

「え? ヒールすると光るの? 直ぐバレちゃうねぇ。私は眼を瞑ってたからわからなかったよ」

「いやぁー今日は良い体験をさせて貰ったなーおじさん。スキルっていうのは凄いもんなだねー真琴ちゃん?」


真琴と京の会話に文太がカットインしてくる。さっきから高速で頭をタオルで拭いており、落ち着きがない。真琴に意味ありげな視線をチラチラと送ってきてもいる。


「真琴、ごめん。うちのお父さんも早いとこお願い。ちょっとウザい感じになっちゃってるからやっちゃって」

「あははは……」


苦笑しつつ、次はスキンヘッドという大物を処理するために真琴が腰を上げた。





「いやぁーしかし今回の里帰りは疲れたぁ……」


三連休の最終日。帰りの新幹線の座席にもたれて真琴が呟いた。ちなみに京は隣の座席ですっかり熟睡モードだ。


あれから5回のヒールを繰り返し発動させてスキンヘッドをやっつけた真琴は、相手を母親達に変えての連戦に突入した。


女性陣はやること(無茶ぶり)が多く、小皺とりとシミソバカスの除去(可能なら)、重力に負けている表情筋の若返り(可能なら)、それに加えて頭髪も白髪を無くし、艶と張りが出るようにまで要求された。


今更できないとも言えないので、初の試みを試行錯誤で頑張った真琴だったが、二人の皺とりを終えた段階で魔力が枯渇。その日はお開きにして、相沢家は運転代行を呼んで帰って行った(飲酒していたため)


そして翌日の連休二日目も途中で魔力が無くなり、三日目の午前中までを費やして、よくやく清佳と秋葉の要望に全て応えてみせたのだった。


苦労しただけあり真琴がもたらした効果は絶大で、家族の者達いわく──10~15才は若返ったのでは? というものになった(冗談抜きに)


女親二人はあまりの効果にそれはもう大喜びをして大はしゃぎだし、その効果を見せ付けられた男親達も数日後に確認できるであろう、自分達の効果に想いを馳せて(既に元樹の白髪は無くなっているが)、期待感で胸が膨らみまくっていた。つまり親達全員ニコニコである。


そんな訳で最後に全員で繁華街に繰り出し、祭日でも営業していた少しお高目なすき焼き店にて暴飲暴食(勿論親達の奢り)、その足で真琴と京は新幹線に乗り込んで今に至る、という状況だ。


(うぅ、体力的にはどうってことないけど、やっぱり魔力が少なくなってきた時の精神的な辛さは何とかしないとだよねぇ、これを仕事に繋げるなら……)


(まぁ、今回は効果に上限を設けずに際限なく魔力を注ぎ込んだから、仕方がないのかも知れないけど……)


(仮に仕事として一日に何人も見るとなると、効果を減らすか魔力の量を劇的に増やさないと厳しいよねぇ。魔力増幅LV1があっても全然足りないみたいだし)


(あとは……もう一つ、何とか光魔法を見付けて京ちゃんにも同じ苦しみを分かち合ってもらわないとだし。いや、人員的にも私一人じゃ何かと不便だからね。もしくはもっと沢山見付けてLVを上げて効率化を狙うとか?)


(何にしてもまた暫くはペットショップを巡って有用なスキルを見付けていかなきゃ。よし、明日からまた頑張ろう! 久しぶりにすき焼き食べてモチベ上がったし)


みなみに今回の件を踏まえて、親達は惜しみ無い協力を約束してくれたが、それをどういった形にするかは親側も良く考える必要があるため、具体的な内容については保留となった。

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