第39話
side ???
(え? うそ? 予約取れてる! は、初めて予約取れちゃった私! やった! 予約取ったー!)
新店舗の予約はオープン予定日の10日前から受付が始まった。前以て予約サービスに表示されたお知らせを見てそのことを知り、恒例となった駄目元参戦を決意した私だったが……
普段からそうなんだけど、とにかくあの店の予約は取れない。何回チャレンジしてもダメダメで、店の存在も予約にしても『本当にこんな店が存在するのか? 何かのデータ収集とか個人情報抜かれたりしてないよね?』と、疑っちゃうくらいに取れない。それが今回は取れてしまった。怪しんでごめんなさい。
殺到した予約希望者のアクセスで一度落ちてしまったサーバー。そして復旧後に飛んで来た、予約ゲットの確認メール。奇跡あった。
お盆の連休が明けた後だから、有休使うのに少し抵抗はあるけど……今はそんなこと考えてる場合じゃない! この日のために覚醒もちゃんと済ませてあるし。ネタスキルだったけどね。素っぴんは……うん、普通に無理、許して。
とにかく上司に有休を認めさせて、いよいよ当日を迎えた。興奮して殆んど寝れなかったから体調が良くない。しかも10時に開店の店なのに30分も前に到着して焦る。
(そもそもオープンの花とか出てないけど、場所合ってるよね? あ、リェチーチの名前あった)
ビルの外観が黒っぽい上に、屋号の表示? 壁に付いたリェチーチという凸の文字も黒で非常に分かり難い。
(流石にまだ早いよね、どうしよう。いや待つしかないか。眠気覚ましにコーヒーでも買って来れば良かったな……)
「おはようございます。予約のお客様でしょうか?」
「あ、はい、おはようございます。そうです予約していた者です」
「いらっしゃいませ。どうぞお入り下さい」
入り口が開いたと思ったら、スタッフの方が中に入れてくれた。絶妙なタイミング助かる。
(あ、店の中にお祝いのお花飾ったんだねー。考えてみたら今さら宣伝とか、目立つ必要ないよねこの店)
「では、お時間まで暫くお待ち下さい」
「あ、すみません。待ってる間にお店の中、見て回ってもいいですか?」
「大丈夫ですよ。また後程お声掛けを致しますね」
ソファーに案内されて何点か確認をされた後、店の中を探索することにした。ボケっと待つのも勿体ない。次はいつ来れるか分からないしね。記念に撮影もしちゃお。
(店がキレイなのはいいとして……あのカフェみたいなの何だろう? コーヒーの良い匂いがする。凄い良い香り)
引き寄せられるようにして、カフェ? のカウンターの前に立ってしまった。パンか何かをラップに巻く作業をしていたスタッフさんが手を止めて、顔を上げて挨拶してくれた。柔らかい笑顔で。
(え? 何歳か分からないけど、可愛いっていうか肌キレイ? 素っぴんに近いよね? たぶんさっきの人も。異世界か?)
「お、おはようございます。あの、コーヒーを、もらえますか? 一番小さいサイズで」
「はい、少々お待ち下さいね」
ちょっと我慢できない類いの、凄く良い香りだったから……まだ時間はあるし飲んでみることにした。
(あ、失敗した。良く見たらサンドイッチとセットなら700円じゃん)
「サンドイッチとセットにしますか?」
私の考えに気付くスタッフさん有能で助かる。見た目の好みでサーモンの方をお願いした。コーヒーと一緒にトレーに乗せてテーブルに移動していく。
(単品だとどっちも450円だからね。助かるー。先ずはラップを外して……ああ、いい匂い)
普段からブラック派の私は取り敢えず一口と思い、そのままカップに口をつけた。
(っ!……)
(えーとっ……信じらんないくらい美味しいんだが? たぶん過去イチだよこれ)
コーヒーの味に驚いた私は、キョドりぎみに周囲を見渡してしまった。どうしてそうしたのかは自分でも分からない。ちょっと落ち着かなきゃ。
(サンドイッチは四つ切りサイズが3つなんだねー可愛い。でも凄い具の量、こっちも期待できそう)
(ぅ~~~! おかしいでしょおかしいでしょこれ! お、美味し過ぎるうぅぅううう)
(油断すると涙とか鼻水出るくらい激ウマなのなんなん? 言っちゃあれだけど、こういう片手間みたいに出てきちゃダメでしょこのレベルは!)
(完全に眼が覚めたあ……700円の満足度じゃないよこれえ。取り敢えず残りも食べちゃわないと)
取り乱しつつも改めてカフェの方に視線を向けてみた。カウンターの上には食べ物を入れるケースとか、コーヒーのサーバーがあったり、他にも水草が揺らめく水槽があったりして、結構乱雑。
良く見るとカウンターの上には小さな黒板もあって、眼を凝らすと……
(うん? りぇちカフェっていうのここ。本日のおすすめは……料理スキルLV1? 限定5名様までって何だろう?)
その後すぐ、スタッフさんに声を掛けられた私は、念願の施術を施してもらうことができた。
◇
side ???
仕事の関係上、どうしても日中に予約を取ることができない私は、それでもワンチャン狙って新店舗を訪ねてみた。見とくだけでも構わないしね。
予約に頼れない、私みたいのは夕方から始まる飛び込み客の枠に何とか引っ掛かって施術してもらうしかない。普段通りなら火曜の今日は小学生の日、なんだけど。
小学生はまだ《そういう意識》が低いのか、定員の30人に満たない日がそこそこある。そんな時には私達も施術をしてもらえるんだよね。だから火曜は激アツで。
美容師の私が同僚に無理を言って早退、どんなに急いでもこの時間で、夕方の5時半くらいになっちゃう。取り敢えず行列はないみたいだし……入ってみるか。
(あれ? どうして真琴神、カフェの店員さんなんてしてるの?)
ク◯綺麗な店内に感心しつつ、ちょっと探険してみたら、すぐに真琴神を発見した。私の中では断トツでヤバいからねあの娘。15人を纏めて一発施術とか意味不明で伝説過ぎるから。
(取り敢えずコーヒー頼んで色々聞いてみよう。あの娘が淹れるコーヒーとか興味しかない)
あっちも憶えていてくれたみたいで、色々と教えてもらえた。まあ3回も施術受けてるからね私。トップクラスじゃないかな? 回数だけなら。
カフェは18時で閉店して、それから真琴神自ら飛び込み客を捌いていくんだって。勿論、小学生には整理券を日中のうちに配ってあるって話し。
そして! 今日は特別に移転の記念として、初期メン3人で限界まで施術に応じるらしい! 手書きの整理券もくれた33番! また勝ってしまったか……取り敢えずコーヒー飲も。
(……)
(……)
(いや、おかしいでしょ真琴神さあ? 何で作り置きのコーヒーがこういう風味になるんですかぁああ?)
うん、これは突っ込んだらダメなタイプの案件だよねきっと。そして……頭おか◯い感じのコーヒー飲んだら、次は頭お◯しい感じの黒板が目に入った。
(料理スキルLV1限定5個? スキルの交換、相談承ります?)
(えーと、もしもし? どう、どういうことなの? 料金書いてないのも怪しいけど先ず内容、内容がおかしいから!)
「あ、このスキルの交換ていうのは私でも、その、できるっていうか、売ってもらえるんですか? 料理のスキルを?」
「はい、そうですよ。お持ちのスキルと料理スキルLV1を交換できますよ、今すぐにでも。ただ、交換でこちらに渡るスキルはお返しできませんので、そこだけご了承下さい」
「りょ、料金、は?」
「交換手数料も込みで、料理スキルのLV1なら3万円です」
「か、買います、買います料理スキル!」
(やったぜ! これで意味不明だったスキルとおさらばできる! 真琴神スゲー! どうやるのか知らんけどスゲー!)
こうして私は幾つもの履き物を駄目にした《足が1センチ大きくなるだけ》の、しょぼスキルから卒業できたのだった。
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