第7話

スキルをどんどん増やした真琴、水魔法の習熟度合いをそこそこ高めた京の二人は金儲けの第一歩、その前段階である配信界へと進出──は大げさだが、手を伸ばすことにした。


7月の頭、告知のためにアップした動画は5日で2千回以上の視聴がされている。

その回数が多いのか少ないのか、二人には判断できないのだが。


「ああっ、緊張してきたよぉぉぉお」

「大丈夫だって真琴。あんたスキルで会話術あるんだから余裕でしょ! あたしなんか素の状態で告知動画やったんだからね」

「でもでもでもぅ」

「カメラというただの撮影機材に向かって話すだけだから問題ないって。視聴者なんて一人か二人でしょ」

「ふぐぅぅぅ」


告知動画と違い本番である今回は、真琴が喋る予定になっているし、コメントも拾いながら配信しなければならない。


リアルタイムでテロップを出す技術も設備もなく、使えるものは己だけ。

京の手助けも期待できない今、どう考えてもこの役割は真琴の苦手分野だった。


「喋りがヘタでも失敗しても良いのよ。大切なのは魔法をバンバン見せ付けて魔法の存在を認知させること、信用させることなんだからね」


今回はカメラマン役に回る京からの励ましが続く。


「うぅぅぅ」

「ほらほら時間だよ真琴、3、2、1、キュー」


番組ディレクターになりきった京が、配信開始の合図と共に手に持つカメラを操作した。



「は、はじ、は、はじ、初めますて!」


>いや草

>ナマステ~

>初めますて!

>ターンテーブルかな?w

>もちつけ

>この前の黒髪ポニテ姉さんじゃない、だと?

>始めまして! 先ずは落ち着いて下さい!

>東北の方?


極度の緊張状態から繰り出された、とっ散らかった真琴の挨拶。

思いの外視聴する者がおり、その数は10人と少し。



「すすすみません、す、凄く、私、緊張してまして…」


>知ってた!

>むしろそれ以外ある?w

>深呼吸しよ?

>ニートが少し見てるだけだから大丈夫だぞ

>今回は栗毛ボブちゃん(マスク着き)ですか。良いですよ

>初々しくて助かる

>今回は室内じゃないのね


今回は配信を行うにあたり場所を屋外である公園に変えていた。

7月の今は19時を過ぎても明るいし、暗くなっても多数の照明が光度を保つ。


魔法の影響を考えるとどうしてもアパート等の室内では手狭だし、ミスった時の被害が心配だった。



「な、何を話せば良いのか、どわ、忘れちゃったどうしよう京ちゃん」


>忘れちゃったかーw

>本名ぽいの暴露でくさあ

>京ちゃん! 出番です!

>魔法の話やないの? 魔法配信ていうくらいやし

>落ち着いて思い出すといいよ

>焦る必要ないしな

>チャンネル名の魔境とは何ですか?


思い切り流れ弾を喰らった形の京が、頭を抱えて絶句している。

それでも身ぶり手振りで真琴のポケットを指差して、カンペの存在をアピールした。

カメラの保持もこなしながら。



「あ、カンペあったんでした、す、すみませんけどこれ見て、は、お話します」


「先ず、信じて貰うのは難しいかも知れませんが私達二人、あ、私とカメラマン役の二人ですが」


「私達はこの世界に《元々》存在する、スキルに目覚めました。そのスキルを広めることを目標にして、このチャンネルを立ち上げた次第です」


>なるほど?

>設定はわかりましたよ

>カメラマンは京ちゃん!

>それでそれで

>広めるとは?

>うちら魔法使えないモブなんで…

>カンペあったら流暢やなw



「今日は最初の生中継…じゃなくて配信なので、コメント欄から希望を聞いたりしながら魔法をバンバン使ってみようと思っています!ご期待下さい」


「因みに私が使える魔法は火魔法LV2と光魔法LV2の二種類になります。現状使えるものとして、火魔法がファイヤーとファイヤーボール、あとファイヤーウォール。光魔法の方がライトボールとヒール、ピュリフィケーションになります」


「それともう一つ、先程コメントにあったチャンネル名の《魔境》ですが、二人の本名を足して二で割って当て字にしたもの、それを採用してこのチャンネルは《魔境チャンネル》と名乗らせて頂きました」


>情報多かったなw

>よっしゃ! 待ってたぜこういう展開をよぉ!

>取り敢えず一個づつ魔法を使ってみて欲しい

>魔境の境は京ちゃんの境やな

>水魔法じゃない上に複数の系統、だと…?

>どんどんやっていこー

>魔法の内訳が定番過ぎるラインナップで草なんよ


会話術LV1の恩恵だろうか。

落ち着きを取り戻した真琴が、苦手なはずの進行役を上手く回し始めた。



「呪文を詠唱する必要もないですし、魔法名を叫んだり、必ず声に出して発動するみたいな決まりもありません。なので皆さんの目には、いきなり炎が出現したように映ると思います。じゃあ先ずはファイヤーボールを使っていきますね!」


水平に突き出した右手。

前方10メートルの地面に狙いをつけると、前触れもなく炎の球が現れて射出された。


一直線に進む炎の球のスピードは、プロ野球選手が投げるボールに近い。

あっという間に地面に当たった炎が、音もなく霧散する。



「こんな感じで私の使うファイヤーボールは質量がないからなのか、威力がとても弱そうなんですよね、恥ずかしいことに」


>お、おう…

>すげー自然な感じの炎だったな。しかし質量かー爆裂魔法なら良かったのか? 威力的に

>良く考えたら炎そのものを投げたって、ちょっと熱いくらいで終わりそうだよなw

>次は自分の周りを炎に3周させてから同じ場所に着弾させてみて下さい!

>何か可燃物に着弾させて、それに火を着けて見せて下さい!

>山なりの軌道で同じ場所を狙ってみて

>青い炎に変化させれますか?

>いや恥ずかしくはない、むしろ誇らしい



「ううん? コメントの方法、全部できそうなので順番にやっていこうと思います」


コメントを拾うというか同時に接続をしている人数が少数であるため、全ての要望を叶えるべく魔法を行使していく。


ある程度は視聴者のコメントを予測して、金属のバケツと紙の束まで用意してある。

可燃物に着火するという要望もクリアできそうだし、精神力強化のお陰で回数的にも余裕だ。


>うそーん、青くしたと思ったら山なりに飛んでった…

>一石二鳥が決まったな!w

>あ、ふよふよと自分の周りを周回し始めたぞっ!

>そしてスパーンとぶっ飛んでったなw

>これはかなり凄いことなんでは?

>でも威力は弱そうだし…

>どうなってるんですか? 映像的に?


人の往来がほぼない、公園の片隅だからこそ騒ぎになったりしていないが、見た目がド派手なファイヤーウォールなんかは内心自重したいところだ。


(そろそろ私達に対する信憑性、上がってぇ?)



「私の火魔法はどうでしょうか? スキルは生まれつき誰もが持っていると私達は考えている訳ですが、皆さんも使ってみたくはありませんか?」


>そりゃ使いたいに決まってる

>どうやるんですか?

>ここからは有料になります

>でも、お高いんでしょ?

>誰もがとは大きく出たな!



「今のところ自分の能力に目覚めるための方法は、ゆくゆく配信にて皆さんに知って貰うつもりではあります」


>目覚める必要があるんやね

>魔法を念じても変顔になるだけでした

>ゆくゆくとはいつ? 何時何分何曜日?

>それ聞けば確実に魔法使えるのん?

>俺の魔法が火を吹く時がきたか!

>俺、スキルに目覚めたら収納魔法使うんだ…



「期日については、もっとチャンネル登録者数が増えたらと考えています。具体的には決まっていませんが」


「確実に魔法が使えるかどうかは初の試みになりますし、今の段階ではお答えできません。すみません」


「でも私を始め鑑定のスキルを持つ者は一定数いるはずなので、自分のスキルを確認するだけなら誰もができるようになる、かも知れませんね」

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スキルの交換屋さん ぷりぷりのぶり @puripurinoburi

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