freedom編
第41話
「あ、料理スキル、確認できました」
新店舗での営業2日目。また1人、料理スキルを求める客が現れて、新しくなった自分のスキルを鑑定グラスで確かめて、それを認めた。
今回真琴に渡って来たのは 《性力増強LV1》
(やっぱり外聞というか世間体というか、女子が持ってたら困るよねぇ……これ)
(私も怖いから絶対に発動しないけど。取り敢えず水槽に保管しとこう)
この日はもう1つ 《性力増強》 を引き取って終わった。販売と名乗ってはいるものの、その実は交換をしているだけなので、勝手にスキルが転がり込んで来る。モノの良し悪しは別にして、なのだが。
毎日1~3個の料理スキルが売れた結果、一週間が経過する頃には結構な量をストックすることになった。
カウンター上の水草水槽は店でのスキル倉庫になっていて、その中では20匹のテナガエビ達が料理スキルを与えられて出番を待っている。
初日 → 《成長促進LV1》
2日目 → 《性力増強LV1》×2
3日目 → 《性力増強LV1》
4日目 → 《念話LV1》《気勢LV1》
5日目 → 《忍耐LV1》
6日目 → 《性力増強LV1》
7日目 → 《融合LV1》《盾術LV1》《性力増強LV1》
(うーん。アレが多い……)
(でも面白そうなのも幾つかあるね、やった! スキル探しに行く時間がなかなか取れないから、この展開は助かるぅ)
鑑定グラスを作って『これからは皆でスキルを探せる!』と息込んでいたところに移転だの何だのと重なった結果、スキルの探索に割く時間がなくなっていた。
ところがスキルを販売することで状況が一転し、今は勝手に持ち込まれるのだから真琴は非常に助かる。料理スキルと比べて必要ないと判断されたものばかりになるだろうが、チラホラと良さげなスキルも混ざっている。
■成長促進LV1
未成熟な肉体を想定される成熟期に引き上げる。効果時間は魔力に依存(成熟した者が行使した場合、身体の一部が肥大することがある)
(初日の 足が大きくなる のは成長促進だったけど、私達には意味がないよねぇ。赤ちゃんが使ったらいきなり成人女性になっちゃうみたいな?)
(念話はイメージしたまんまだし、気勢のスキルはやる気が出るとか、モチベが上がるみたいのだから使い道はありそう)
(忍耐と盾術も思いつく内容と違いはないねぇ……日常生活には必要ないから倉庫行きだけどね)
■融合(スキル)LV1
所持するスキルを融合して新たなスキルを生み出す。一度に融合できる数は2~10。生み出されるスキルは元になるスキルに依存しない。
(そして面白そうなの、きたー! こういうのを待ち望んでたんだよね! ゲームでも似たようなのあったし)
(これは色々と助かるぞぉ……増え続ける不穏なスキルとか、どう考えても意味不明なのとかも纏めて処分できる!)
(元になるスキルに依存しないってことは本当に何が出るのか分からない、ガチャみたいなもの、なのかな?)
(家の水槽にも色々あるからね、要らないスキル。帰ったら実験してみよう)
こんなことを営業中に考えながらもポツポツと客が訪れて、コーヒーや軽食を購入していく。店内で飲食する者や持ち帰る者など様々な客達。
りぇちカフェ側にはこの一週間の間に革張りのベンチも追加で設置された。なるべく座れるようにと配慮されて数ヶ所に。
◇
{初めまして、かな? へへ。私のことは
「……」
「……」
営業前の店内にて。文字通り頭の中が空白状態になり、思考する機能を失ったかのような京と鼎。良くある光景といえばそうなのだが、今日はまた一味違った。
真琴が 《融合LV1》 を使った実験の果てに辿り着いたというか、やらかした結果を目の当たりにして、過去最高に固まっている。尤も今回に限っては、意識を失わないでいられるだけ立派なのかも知れないが。
{うん? どうしたの固まっちゃって。やっぱり名前付けるの、下手だった?}
「……」
「……」
普段なら『そういう問題じゃない!』と、即座に突っ込みが入りそうなものだが、まだ2人は動けないらしい。カウンターの上をちょこちょこと歩き回る
「「「……」」」
気付けば早番の従業員達も同じように固まっていた。異変を察知した彼女達もカフェに近寄ってしまい、見てしまったからだ。カウンターの上でチョロチョロと動き回る、15センチ程の人型のナニかを……
前日の夜。仕事から帰った真琴は早速、面白そうなスキル 《融合LV1》 を行使した。材料は不穏なスキルを始め不要なものが沢山あったし、色々と整理したかったこともあってノリノリで。
自分なりに考えて(欲を出して)10個のスキルを費やして、それを3回試してみた。
一回目 《水泳LV2》
二回目 《無呼吸LV1》
三回目 《複製(魔力体)LV1》
■複製(魔力体)LV1
行使した者の複製(魔力体)を生み出す。存在の維持に魔力を消費。大きさはLVに依存。
当然こんなもの(複製)を真琴が放っておく訳がなく、すぐに使用して1/10サイズの真琴? が爆誕した。真っ裸の。
それから急いでミニチュアサイズのワンピースを2人で作り、二時間だけ睡眠して出勤。今に至っている。
頑張って大きな声を出しているようだがサイズのせいなのか非常に頼りない声量。元凶の真琴本人はというと、カウンターの中で気まずそうに京と鼎の動向を窺っていた。
{そんなに見詰められると困るというか?}
「……」
「……」
「「「……」」」
スキルというものが当たり前になりつつある世界だとしても 《15センチの自我を持った人型のナニか》 を目の当たりにして、冷静にそれを受け止める事ができるだろうか? リェチーチの従業員達に関しては──否。であった。
「どうしよう……取り敢えず小マちゃん、エプロンのポケットに入って?」
{はあい}
自称、小マコとやらが真琴の着用するエプロンのポケットに、自ら入って行った。京達も視界から
・
・
・
・
・
「「なんじゃいそりゃあああぁぁああああああああああ?!!」」
「「「なんですかそれわあああぁぁぁああああああああ?!!」」」
(やっぱりこうなったかぁ……)
店の開店時間が近いため悠長に説明をしている暇はなかったが、真琴は可能な限り丁寧に一から成り行きを説明した。
結果、あまりにも見た者に与える衝撃が大きい、大き過ぎるため、ポケットから出るの禁止令が全員から出された。客の目に留まらない様に。今日のところは……
(時間の経過で少しずつ皆も慣れてくれたらいいけど……私だって小マちゃんのこと、良くは知らないからねぇ)
(ご飯食べるのかとか、魔力がなくなったらどうなるのかも知らないし?)
(あれ? もう一度同じことしたら更に増やせるのかな? これも分からないや)
(まだ生まれたばかりだからね。これから分かっていけばいいか)
{ポケットの中、意外と居心地が悪いんだねぇ……動かれると揺れて酔いそう}
{間に合わで作ったワンピースしか着てないから、あちこちスースーするし落ち着かない……下着とかも買ってもらわなきゃ}
{こんなことなら家に残れば良かったなぁ……うぅ}
こうして新たな人員? を追加補充することになったリェチーチ、というか真琴達。小マコの存在が普通に人々に受け入れられる。そんな未来が訪れるのか否かは、まだ誰にも予測がつかない。
スキルの交換屋さん ぷりぷりのぶり @puripurinoburi
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