第28話

スキルの効果を見てもらい、満足した様子の双子がトタタタっと、真琴の隣に寄ってきて座った。


「す、凄かったね晶ちゃんと水こちゃんのスキル」

「「疲れた」」

「そうだね、頑張ったもんね?」

「ねぇ、わたしと水こ、魔法使えないの?」

「魔法ほしい」

「え……」

「マコちゃんみたいに大きい魔法つかいたい」

「どうすればいいの?」

「ううん……」



どう答えたものか、真琴が言葉に詰まる。交換を用いれば双子の望みを叶えることは可能だが、この場で安易に特別扱いはしたくない。


そもそも双子のスキルは何なのかと、気になった真琴は鑑定してみることにした。



───────────────


天川てんかわ あきら

学生 9才 ♀


■スキル

柔軟性LV1

闇魔法LV1


───────────────


天川てんかわ

学生 9才 ♀


■スキル

健康(内臓)LV1

光魔法LV1


───────────────



(っっっ!)


自分の口に手をあてて、咄嗟に出そうになった声を押し殺した。


どういう訳か双子の魔法は覚醒状態になっておらず、グレーアウトしたままだった。柔軟性と健康は覚醒しているにも関わらず。


半ばスキルコレクターと化している真琴ですら初めて目にする闇魔法。自分以外、いや、人間に光魔法が備わっているのも初めて見る光景だ。


他の参加者達は僅かな音すらたてずに、こちらを注視している。



「マコちゃん大丈夫?」

「お腹いたいの?」


考えあぐねる真琴を見て心配になる双子。



「鑑定で確認したところ、晶ちゃん と 水こ ちゃんには、まだ覚醒されていないスキルが各々にあります」


母親と双子に向けた言葉だったが当然回りにも聞こえている。子供達には『魔法つかえるよ晶ちゃんも、水こちゃんも』と、こっそり耳打で教えた。


「ほんとう? やった! 魔法やった!」

「魔法なに? わたしの魔法なに? ねぇ」


真琴の気遣いが秒で無駄になった。この調子なら伏せる意味は然程ないかと、真琴がそのスキル名を告げる。


「やみ魔法?」

「ひかり魔法しってる! マコちゃんと同じだ! やった!」





「マジで二皇星じゃん……」


誰かがポツリと呟いた。


「二皇星が二皇星だった件……」


また誰かが呟いた。


「2つの星が煌めいて……」


そして呟きが伝播されていく。


「二皇星に隠された、本当の、意味……」


「闇が光を包んで……光もまた闇を照らす……」


「二皇星すげー! 魔法使えるのすげー!」


「ダブルキャスト? いや、デュオ?」


「「「「「「二皇星すげー」」」」」」


「「「「「「そして可愛い」」」」」」


「「「「「「間違いない!」」」」」」


「「「「「「うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ!」」」」」」


「「「「「「うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ! うぉっ!」」」」」」



(((えーーー?)))


真琴達がドン引きしていた。


しかし、双子の魔法が現状では覚醒できない──使用できないことが発覚して、一行は大いに盛り下がることになる。


スキル強制覚醒LV1を使用しても覚醒できず、より詳しく鑑定をした結果 《まだ幼い身体は魔法を行使する段階にない》 という理由で。


「「えーーー!」」


双子には可哀想だが、こればかりは仕方がない。成長することで覚醒すると思われるが、それが何時なのかはまでは鑑定でも分からないのだ。


尤も、母親や京などは子供が魔法を使うことの危険性を危惧していたので、むしろ安心している。


愚図る双子を母親が嗜めて、双子を根源とした騒動は幕を閉じた。


「えっと、お母様はいいんですか? 鑑定」

「あら? そんなつもりなかったんだけど折角だからお願いします……」


そして、真琴は誰にも見られないように注意を払い内容を書き記して、そっと母親にメモ用紙を手渡した。


「なるべく帰ってから目を通して、覚醒するかどうかをご家族で相談して下さい」


河川敷で見たモグラ君と同じ、少々不穏なスキル名だったからこういう対応に。


子供は母親のスキルを知りたがり、本人も訝しげにしていたが、仕方がない(真琴にこれ以上は無理です)



こうして再度、残る人達に対して鑑定を行っていった。


ペットショップで見掛けるような、変なものや意味不明なものは1つもなく、全員が用途のありそうなスキルだったことに真琴も胸を撫で下ろす。


広島弁のお兄さんが風魔法を持っていたのが、唯一の魔法(双子は除く)という結果だった(真琴のお気に入りは 旅 )





2時間ちょっとで掲示板の集まりはお開きになり、休憩を挟んで支配人室に足を運ぶ真琴達。


「「「お疲れ様でーす」」」


「待ってたわよ! 皆さんもお疲れ様でした」


部屋に入ると支配人である美生が、満面の笑みで3人を出迎えた。他には女性従業員の方が5人。全員が軽く頭を下げての、明らかな歓迎ムード。


これからこの部屋を使い、従業員の方々に対してリェチーチの施術を行うのだから、然もありなんという対応ではある。


行動理由は普通に真琴達からの《お礼》で。とは言え施設側からは、そうしたお願いや強要は一切なく、懐柔されたり誘惑されるような出来事もなかった。


そういう所を気に入って、リェチーチ側から申し出ることにした。そうでなくても超がつく優遇を受けて、気も遣わせて、申し訳ないというか、何というか……


日曜の度に赴いてカククリンを創る必要があるため、しばらく続く協力関係で、お得意さんでもある。ウィンウィンな関係でもいたいので、まあいっか。と思う真琴だった。


内容としては、先ず全員に対して1回の無料サービス。施術の種類を選んでもらう形で。他には希望者に対して有料のものを順次、行う予定になっている。


他の施設から来ている応援も含めると相当な人数がいそうだが、魔力の許す限りやっていくしかない。従業員の皆さんは5人づつの交代で支配人室を訪れることになっている(支配人室の威厳……)





「ふーーー」


血塗れ風呂(ワインで着色)に浸かる真琴が息を大きく吐き出した。京と鼎はサウナに籠っている。


朝から魔力を大量消費したものの、施術を始める午後の3時には結構な量の魔力を回復できていた。


そういう事情もあり、初回のサービス分は全て施すことができた(全てリフトアップだった)次の日曜からは有料になるので、人数も落ち着くかも知れない。


足を伸ばしながら、浴場内を見渡してみる。


混雑するヵ所はあくまでも 覚醒風呂 だけであって、関係のない普通の風呂やサウナ室なんかは案外と客が少なく、こうしてゆったりとできている。


(んー。のんびりしたい人やスキルに興味ない人とか、既に覚醒してる人なんかは違う施設に行っちゃうのかな?)


(それでも竹島さんが言うには相当な売上アップらしいけど……難しいものだねぇ)


(駐車場とか工夫して、覚醒専用のお風呂が造れたら良いのに。そんな簡単じゃないか)


(行列のせいで空いてるスペースとか、殆どなくなっちゃってるから……人混み苦手な人はキツいよねぇ)


(私が考えることじゃないか。少し休んでサウナに行こうっと)



真琴達は見て見ぬふりをしていたが、応援の人員がいても尚、従業員達の負担は大きかった(5人づつ消えたらそりゃあ……)



しばらく後に覚醒風呂の開放時間は日に一度に減らされることに。代わりに都内の他の施設でも覚醒風呂が導入されることになる。

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