スキルの交換屋さん

ぷりぷりのぶり

独立編

第1話

『人間が想像できることは全て現実になる/成せる』


そんなような内容のことを以前、目にしたことがあった。

であれば、我々人類は魔法やスキルに代表されるファンタジー的な力に目覚めてもおかしくないのではないか?


それが目覚めるものなのか、生まれながらに備わっているのか等の些細なことは一先ず置いておいて。


そんな風に考えて、人知れず様々なことに挑戦し続ける頭のOKASHII女がいた。


(お昼ごはんヨシ! 睡眠ヨシ! スマホ電源オフもヨシ! よーし、今日はぶっ続けで48時間の瞑想にチャレンジするぞお)


日曜と月曜の連休に有給を加えて生み出した三連休、独り暮らしの狭いアパートで連休の初日である日曜昼過ぎから鼻息を荒ぶらせる。


日本人なら人口の3ぶんの1は唱えているであろう『ステータスオープン』という呪文(そうに違いないと思っている)を彼女も唱えたが、何の効果も異変も起こることはなかった。


それでも諦めることはなく、以降様々な方法を思い付いては《力》を得るために行動してきた。


スーパー銭湯のサウナで発汗しながら水魔法の修行をしたり(本人的には水を発生させていた)、グラスに注いだ水に葉っぱを浮かせて手をかざしては、怪しい儀式のようなことを繰り返したり(見えざる手による水への干渉と、属性? を確認したかったらしい)


魔力を意識して(魔力等は全く知覚できないが)肉体強化を念じながらジョギングをしたこともある。


眼球に魔力を集中させて(魔力等は全く知覚できないが)道行く人々を凝視し続けた日もあった、二回。


そして今日は48時間ぶっ続けでの瞑想とやらに挑戦しようとしていて、そのために確保された三連休であった。


(前に24時間やった時は後半に何かしら起こりそうな気配はあったんだ。今日こそは何か起こって!)


等と供述しており、誰が聞いても無駄に終わりそうな長い時間が始まろうとしている。


(よーし集中集中。目を閉じて暗闇の中で何かを感じるんだ。私に備わっているであろう力を、 これから目覚めるかも知れないパワーを……下さい!)


1Kの八畳に置かれたシングルベットの側面に背中を預けて脚を伸ばし、楽な姿勢で瞼を閉じる。

何かを探すように、感知できるように集中力を高めていく。


(そもそも私に謎パワーがあったとして、それを自覚するにはステータスが表示されるか鑑定に目覚めて自分を観るしかないよね)


(あ、色んな能力を念じ続けて派手に発動したらわかりやすいか…時間だけは沢山あるから思い付くだけ試してみよう)


前回24時間の瞑想を慣行した際には魔力的なものを自分の内に探すことだけに注力した。


今回は時間が倍になるため、前回意識しなかったことにも着目して臨むつもりだ。


半目を開いて口を開けながら、凡そ他人には見せられない絵面の女が、貴重な休みを消化していく。


空腹を感じては挫折しそうになり、トイレに立つ度に投げ出しそうになる。


見たいテレビ番組を思い出しては誘惑に駆られ、それでも瞑想は続いてゆく。


空腹感は我慢し過ぎると逆に失くなるものなんだと思いはじめて、数度の寝落ちも挟みながら時間は着々と経過していった。


(あー、お風呂に入りたくなってきたなぁ。今回はこの辺で勘弁してあげようかな…)


瞑想時間が30時間を越えた頃、本格的に挫折の方向に気持ちが傾いてきた。


そして挫折することを決心しようと考えた矢先、突然視界の中に文字の羅列が現れた。



■五十嵐 真琴(いからし まこと)

会社員 26才 ♀


■スキル

料理LV2

鑑定 LV1

スキル交換 LV1



(え? ちょ、待って?)





奇跡的、尚且つご都合展開にも恵まれて、真琴は念願のスキルを獲得することができた。

正確には生まれながらにして備わっていたモノを今になってようやく認識できた、というのが本当のところだろうか。


とにかく自分に3つのスキルが備わっていることが発覚して、必要不可欠だと思っていた《鑑定》もお誂えむきに含まれている。


(こここれはすすす凄いことになってしまった! しかし人間スゲー! やっぱりスキルあったスゲー!)


(でも冷静になれ冷静になれ私っ! 落ち着いて自分に起きていることを確認しなければ!)


視界に表示された文字列は目の前30センチ先の宙空、B5用紙程のサイズ・範囲。

文字は透けるでもなく普通に視界を妨げている。


気になって近くにあった手鏡を手に取り自分の眼球を写してみた。


(あー、眼球に照射してるとかじゃないか。間の空間に鏡を割り込ませてもそのままってことは脳に作用している的な?)


(表示位置は替えれないみたいだしサイズの変更も駄目。日常生活で邪魔だから消すのは…あ、できた。じゃあもう一度鑑定!)



■室内の壁。表面は一般的な壁紙、クロス


(あれ? 違う、そうじゃなくて自分を鑑定したいのに! あ、できた)


掌を見詰めながら鑑定を意識することで再度、自分の情報を表示させることができた。



■五十嵐 真琴(いからし まこと)

会社員 26才 ♀


■スキル

料理LV2

鑑定 LV1

スキル交換 LV1


(うん、ちゃんと鑑定できて偉い! 鑑定した内容を更に詳しく鑑定できるのかな? むむむむっ)


現状、さっぱりしている感のある表示内容を深掘りするべく、料理の部分に集中してみた。



■料理LV2

経験を積んだ熟練の料理人。


(えぇぇぇっ?! 私、熟練の料理人だったの? 確かに毎日料理はしてるけど、自分のためだけの結構なズボラ飯だよ?)


過剰ともいえる鑑定の評価に秒で上機嫌になる。

褒めて伸ばすタイプの鑑定さんかも知れないと考えつつ更に鑑定を続けていった。


(じゃあLVの部分を意識してっと…)



■LV

熟練度や発達度を総合的に評価して位階として表す際の指標。2は熟練者に相当する。才能や修練で到達できるのは3が限界値。上限は10


(ん? 上限は10なのに才能があっても3までしか上がらないの? どんなに修行しても? ふうん…)


色々と気にはなるが確認する手段も思い付かないため鑑定を進めていく。



■鑑定LV1

目視により認識できるもの(者・物・モノ等)の情報を文字にして表す。LVに伴い表すことのできる範囲と内容は拡大する。


(これはまあ、そうだよね。想像通りというか、見えてなきゃ駄目って感じで)


小学生の頃からライトなノベルをはじめ、アニメと漫画にも囲まれて育ってきた真琴だ。


中でも異世界ファンタジーをほぼ専門的に好んでいた彼女には、鑑定で得た情報に対する知識があるし、すんなりと受け入れることができるだけの土台、下地もできあがっていた。


(次は凄く興味深いぞぉ)



■スキル交換LV1

自分と他者のスキルを交換する。スキルを認識していない相手とは同意を必要としない。現在のLVでは対象に触れる必要がある。


(おお…これは良い、ものなのかな? 交換てことは自分のスキルも失くなる、ていうか相手に渡すんだよね? 間違ったら大変なことになりそうだし、微妙?)


(スキルを認識していない相手となら相手の同意は必要ないのかぁ。ってスキルを認識している人なんているの? 謎だぁ…)


(なんか急に疲れちゃったな。MPとか精神力とか減ってるのかな? そういう意味でのステータスは表示されないから知らんけど)


集中することが難しくなった真琴は風呂に入って寝ることにした。

まだ頭は興奮していて、正直なところ夢の可能性も疑っている。


考えるべき事柄は沢山あるというのに、どうも身体の消耗が大きい。

軽く寝落ちを繰り返したといえども、やはり30時間の瞑想(のつもりの何か)行為は無理がたたった。


食欲もあったが先ずは睡眠をとるべくしてベットに身体を横たえる。

風呂上がりの頭を乾かすこともせずに、タオルを巻いたままで。


照明を消した室内の片隅に小さな影が蠢く。

ハエトリグモの亜種が我が物顔で縄張りを広げようと、自前の糸を使って巣作りに勤しんでいた。


その小さな体にすらスキルが内包されている事実を真琴はまだ知らない。


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