第30話

「はうっ!?」


営業後の店内。突如、真琴が変な声を出した。


「「……?」」


京と鼎は心配というよりは『何やってんだコイツ?』といった視線でその様子を眺めている。


幸い店内に客はおらず、誰にも迷惑はかかっていない。


(何? この違和感?)


(鼎ちゃんから光魔法の引き継ぎをした後で……)


(取り敢えず私を鑑定!)


(……?)


(……?)


(……?)


(……あ! 交換のレベル、上がってる!)


こうして 自力 としては初となる、スキルのレベルアップが確認された。恩恵は《触れなくても交換ができる》というもの。



「え? じゃあ釣りの餌、今度こそ交換に使えるじゃない」

「無理無理無理、あれは鑑定からして無理だから。視界に入れることがもう無理だからね!」

「冗談よ。あたしも無理だし」

「触らなくていいって、どのくらいの距離から交換できるの?」

「えっと……私の手が届く範囲みたい?」

「じゃあ魚相手に水槽の外から中のと交換できたら便利だね」

「おお、確かに。鼎ちゃん偉い!」

「鑑定と範囲拡大って同時に使えるの?」

「それは大丈夫だよ京ちゃん、数も調整できるよ」

「鑑定とポーションの組み合わせはできないんだよね?」

「うん、できる気配は全くなかったね。あと眼鏡に鑑定つけて魔道具ごっこしたかったけど無理だったし」

「子供か! ちょっと面白そうだけど……」

「魔道具ごっこいいね。私もやりたい、ふふふ」

「売ってる眼鏡に鑑定つけようと思ったんだけど無理なんだよねぇ。かといって眼鏡なんて自分で一から作れないし」

「そうなの?」

「そうかな?」

「え?」

「作れるんじゃないの?」

「うん。作れそうだし、なんならそれを元にして量産なんかも」

「え! じゃあ魔道具ごっこできるね!」

「それどころじゃなくなるんじゃ……」

「また世間を揺るがすんだね真琴ちゃん」

「いやぁ、そんな気はないけど……」

「オフ会で分かったけど、いい加減すぎよね自覚するスキルの内容。鑑定の需要ありまくりでしょ」

「でも鑑定マシーンになるのは嫌なんだよね? 儲かるとか関係なしに」

「うん。というか仕事増えるのが嫌かも」

「また誰かに擦り付ける気?」

「人聞きが悪い問題、くく」

「京ちゃん酷っ! そんな気は……あれ?」

「あれじゃねぇー」

「ちなみに真琴ちゃん、他にはどんなの思い付いたの? 何かある? 魔道具」

「え? あるよ考えただけなら。えーと髪に施術できるドライヤーと、施術みたいな効果の美顔器とか、料理スキルの手袋と、運気上昇のお守りに、会話術とか魅力が付いたアクセサリーも考えたし、あと物騒だけど魔法撃てる銃とか杖みたいのとか」

「お守りなに? 欲しい」

「私も欲しい、お母さんのも」

「私、常に運気上昇LV2がある状態だけど実感ないよ?」

「真琴、それは大丈夫」

「そうだね。私達が分かってれば大丈夫だよ」

「戦国さんの仕事終わってから皆でお守り作る?」

「いいわね!」

「今度の日曜だね。りょーかーい」





「あ、カナさん今日も」

「ん? ああ、そろそろ何らかの対策しないとだねー」


京の言葉と目配せで、言わんとすることを察した鼎。


2人はガラス越しに見える外の歩道、そに並ぶ順番待ちの列を見ていた。17時から施術が始まる予約をしていない客達、が作る列を。


その殆どは学生で、主な客層は高校生。そこに中学生や大学生、社会人等が混ざり、時には小学生までが加わる。


店の営業は夜の20時まで続くので、年齢的に若干まずいのでは? と思うこともしばしばある京達。


歩道を通行する人に迷惑になっている可能性もあるし、天気の悪い日に並ばれるのも色々な意味で心配だ。


整理券のようなものを配るにしても、今度はそれを貰うために早く並ばれては意味がないしで、困ったことになっていた。


それでも放っておく訳にはいかないので、曜日別に客層を別けてしまうことにした。


火曜→小学生、水曜→中学生、木曜→高校生、金曜→大学生、土曜→社会人、といった感じで(日月は店休日)


その上で15時から整理券を配り、人数も日に30人まで、施術単位も1に固定化、並び始めて良いのは30分前から、という風に決めて協力を呼び掛けた。


賛否両論あるだろうが、暫くはこれで様子を見ることになった。転売の問題は怪しいアカウントをブラリ入りすることで、一先ずは鎮静化している。





(あ、魔力、吸収?)


(うーん。まぁ取り敢えずもらっておこう、と)


鼎の言葉に従った訳ではないが、観賞用の水棲生物を多く取り扱う店に訪れた真琴。水槽の外からでも、ちゃんとスキルを交換することができた。



(お店に魔力タンクみたいなの欲しいんだけど、これじゃ駄目だよねぇ)


(オフ会に魔力譲渡の人いたけど、あれもピンとこないし……何が足りないんだろ)


(水晶とか魔石で魔力の補充をするよね? 小説やゲームの中では……うぅ)


(魔石は流石にこの世にないけど、魔力を何かに貯蔵……違う、貯めて使うだけならあまり意味がない……勝手に魔力が沸いてくるような……)


(そもそも、どうして私達は魔力を……いつもギリギリで……お客さんから? 魔力を、もらえないのかな?)


(そうだよ、お客さんが自分の分だけでも魔力くれたら、もっと沢山の人にサービスを提供できるんだよ、絶対)


(私にはそのために必要なことが、分からないけど……でも、相談しなきゃ、皆に)





日曜になり戦国さんに出向き(施設が送迎)カククリンを製造して、従業員の方達の施術を行った。


今日からは有料ということで、希望する人も減るだろうと見積もっていた真琴達だったが、結構な人数になってしまい焦ることに。


応援の顔ぶれは異なっているみたいだし、男性も混ざり始めたものだから、むしろ先週より多かったのかも知れない。


喜んでもらえるからやり甲斐はある。それでも何のために来ているのか、忘れそうになってしまい微妙な感じに……


3人でお風呂とサウナを堪能してから施設を退去し、お守りを作るために今日は鼎の家にお邪魔した。理由は真琴と京がアイロンを持っていなかったから。


自分達の女子力のなさに愕然とする真琴と京。簡易的な裁縫セットだけは、ぎりぎり自宅にあったのだが……


そんなこんなで瑠美にレクチャーを受けたりしながら、お守り作りは進んでいった。真琴が担当するスキルの効果を込める部分は真琴が(中に入れる厚紙に、錬金術で色々やって文字を書く。今回は全て大願成就の文字)


和柄の生地を切ったり、アイロンをかけたり、さらに縫製までを京と鼎で請け負った。叶結びは全員で頭を悩ませながら、何回も失敗して。


「おおお、可愛い」

「お守りって自分で作れちゃうのね」

「色もサイズも好きにできるからいいね。自作するの」


瑠美の話しでは、昔はそれなりに自分で作る者もいたのだとか。


真琴はピンクで京は白、鼎は紺色といった其々の色を基調としたお守りを作ることができて満足気な3人。親に渡す分もある。



夕方になり、瑠美が夕飯を作るというので真琴と京が好意に甘え、風呂にも既に入っているので、そのまま泊まることになった。



そして、思い出したように真琴が2人に相談を始めた。


「お客さんから魔力を貰う? そうきたかー」

「方法が問題になるのかな?」


即座に反響を返す高レスポンスな京と鼎。


「方法って?」

「うーん、魔力吸収? で掃除機で吸うみたいに貰うより、もっと他にスマートな方法ないかなって」

「成る程……お客さんから魔力貰うのは問題ないかな?」

「あたしはアリね。助かるしかない」

「2億円の高級車にガソリンが入ってなくても車は同じ値段だからね」

「おおおおお」

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