第16話

開業に向けて準備を進める真琴と京の二人だったが、すぐに行き詰まることになった。


二人を悩ませているのは料金体系と、施術するにあたり効果をどの程度にするのか、である。


特に後者は複雑な要素が絡み合うために難しく、前例や参考にできるものも少ない。

親達の場合と違い、短くなるであろう施術時間と費やす魔力の量を考えれば仕方のないことなのだが。


一日に何人の客が来るかによって魔力の振り分けは異なってしまうし、効果の大小ですら魔力という、施術に必要な原資というかエネルギーの配分次第で変動してしまう。


唯一間違いがなさそうなのは親達に行ったものと同じ施術を同じ料金でという、前例のあるものになるが料金は50万円にもなる。真琴達からすれば超高額なそのやり方を選びたくはなかった。


その理由の一つとして、その効果を明らかなやり過ぎだと感じているからだ。光魔法が術者に与えてくる手応えで、完治状態だと理解できる親達。これから更に年を重ねても、今の若々しい姿を保つのだ、恐らく。それはきっと異質だ。


二つ目の理由として、もっと安く、広い年代に利用して欲しいという想いもある。

肌のトラブルや毛髪で悩む学生、就職したばかりで給料の少ないOL等にも気軽に訪れてもらえるように、なるべくリーズナブルにサービスを提供したい。


尤も過度に魔力を消費した際の辛さを考えれば、どっちみち消費する魔力が少なくて済みそうなリーズナブルな方法を選ぶことにはなりそうだが。


それでも魔力量を数値で確認できないので、値段設定と具体的なサービスの効果については簡単には決めることができないでいた。それでも自分達が決めなければ何も進まないので、紆余曲折ありながら暫定的ではあるものの料金体系が出来上っていく。



【男女共通一般料金】

▼小皺、シワ、ソバカス、黒子の除去

▼毛根の再生

▼白髪の改善

▼髪質の改善


一回 3900円


(一回あたりの範囲は約5センチの正方形/一度の施術で2単位まで)

(想定する効果期間5年。注①)



▼顔全体のリフトアップ


一回 8900円


(一回あたり2~3ミリアップ)

(想定する効果期間5年。注①)



【学生割引料金/日曜日限定】

シミ、ソバカス、黒子の除去

毛根の再生


小学生 500円

中学生 1000円

高校生 1500円


(一回あたりの範囲は約5センチの正方形/一度の施術で1単位まで)

(想定する効果期間5年。注①)



注① 効果期間の半分(二年と半年)までは最初期の効果を維持、以降はゆっくりと元の状態に近付き5年で完全に戻る。


*大学生の割引料金はなし。

*半年間の保障あり。



こんな感じで料金と効果の期間が決められた。学生の割引料金が若干怖いと感じるが、スキル《範囲拡大LV1》を使って上手くやるしかない。主に真琴が。


効果については質を下げずに維持する期間を限定的にすることで、料金と魔力量を抑える形だ。ついでにリピーターを狙う思惑もある。


無いとは思うがあまりにも多くの客が殺到して魔力が厳しくならないように完全予約制にする予定であり、裏メニューとして真琴の親達に施したような内容も条件付きで非公開だが用意だけはしておいた。


二人の魔力でどれくらいの人数を施術することができるのかは未知数で集客数も予測不能。結局は実際にやってみるしかない、という結論になった(途中で考えることを止めた)





【滋賀県の修行僧、悟りを開き空中に浮く】


すっかり寒くなった12月。唐突にそんな見出しで各メディアが一人の僧侶を取り上げて報じ始めた。


概要は滋賀県にある某歴史ある寺の修行僧が瞑想の果てに悟りを開き、空中に浮遊する力を授かったというものだ。誰から授かったのかは不明。


「真琴、これ絶対にスキルの力だよね?」

「他に考えられないよねぇ……しかしお坊さんかぁ。飛行とか浮遊のスキルかなぁ? 風魔法じゃ飛行はできないっぽいし」


京の疑問に風魔法LV2を所持する真琴が答えた。魔法スキルは各種そこそこの数を発見しているので、光魔法以外は全てLV2に引き上げてある。使い道がないので今は発見してもスルーをしているが。


『この寺で修行すれば私の他にも 力 を手に入れる人物も現れるやも知れません。そのために今回は様々な修行プランを用意しました』


アナウンサーの問いに答えると同時に、寺の宣伝を始める僧侶。昨今、寺社も生き残りに必死で様々な催しを開催してはビジネスに励んでいる。珍しいことでもなかった。


「このお坊さんがどんどんスキルの覚醒者を増やしてくれたら、あんたの交換屋さんもその内できそうじゃない」

「そうだよね、私が下手に広めて余計なリスクを負わなくて済むよ。お坊さん頑張れー」


エステサロンに準ずる店舗の経営に乗り出したばかりの真琴だが、せっかく持っているスキル交換を使用した商売を諦めた訳ではない。今はまだその時期ではないと、タイミングを見計らっているだけだ。


「まぁでも色々な余裕ができたら将来的にはコッチから選ばせてもらう形で、覚醒者を増やしたいけどねぇ。じゃんじゃんと」

「安全な人達が安全なスキルを使えるようになるのはお互いに賛成だもんね。でも絶対面倒臭い人達も沢山出てくるわよね」

「そうだね。そこら辺はラノベで勉強してるから間違いない、と思う。だから私達は今はまだ大人しく様子を窺っていよう」

「だね」

「あ、この宿泊プラン行ってみたいかも」

「正座とかさせられたら痛そうだし、あたしは嫌かな」

「どんなご飯が食べられるか興味ある私っ」

「精進料理じゃないの? お寺なんだし。自分で作りなさいよ」

「そっか、それもそうだね」


これを機に件の寺社は一気に知名度を上げて(元々有名ではあったが)、訪れる客の数を数倍に跳ね上げることに成功する。


しかし、次なるスキル覚醒者は意外にも寺社とは関係のないところから現れた。そして開設された動画配信サービスのチャンネルに動画がアップされる。


『え? 修行って座禅組んで瞑想するか写経するかそのくらいでしょ? 家でも出来るじゃんって。それが切っ掛け』


寺社の僧侶を参考にして、自力でスキルに覚醒したようだ。ヒントを得られたのだから、そういう意味では寺社と完全に無関係とはいえないのかも知れない。


真琴から数えて四人目のこの人物は、足の早くなるスキルを得たらしい。日課のジョギングで異変に気付いたとか。





「うぐっ、ひぐぅぅぅ、ぐすっ」


とある週末。真琴が泣いてぐずっている。

それっぽく声を出しているだとか、演技をしている訳でもなく普通にガチで泣いていた。


泣かせた犯人はやっぱり京で、かねてより計画していた真琴が効率良くスキルを探索(鑑定)できるようにと行動した結果だった。


ちなみに京の勤め先である美容室の店長(31才♂)からアドバイスを貰っての今回の事件であった。


「店長、沢山用意できて安く買える、そして簡単に手に入る生き物がいたら教えて下さい」

「ん? 何だそれ。まぁ、パッと思い付くのは釣りの餌だな、イソメとかジャリメとか」

「餌、ですか?」

「ああ。釣具屋に行くとパックに入ったのが売ってんだよ。小さいのが300円で大きいのが500円だったか」

「間違えたら困るんで店長、買ってきてくれませんか? 観察したら店長にあげますんで」

「観察? 変な趣味だな。ま、釣具屋ならしょちゅう顔出してるから良いぜ」

「じゃあ、お願いしますね」


というやり取りを経て、店長から受け取ったイソメとやらが入ったパックが5つ。しかも500円の方。首謀者である京もドン引きしていた。


新聞紙を広げた上に容器をひっくり返して中身をあけた、そのあまりにもアレな絵面を見て京も泣きそうになるのだった。

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