田舎に帰ったらラッキースケベの呪いを受けた件について 

@tokoroten7140

第1話 ラッキースケベの呪い

「もうちょっとで出口だ!」

 

 僕は豪華な赤いじゅうたんの上を必死に走っていた。

 全裸で。

 この呪われた館から逃げ出さないといけない深刻な理由が僕にはあった。


「外に出て人のいない森の中に行けば安全だ」


 無駄に派手な装飾のされたシャンデリアに照らされながら、階段を駆け下りる。腰に巻いたタオルだけは脱げないように注意しなければならない。

 人に遭えば、呪いは発動してしまう。

 だが、人生はうまくいかないものだ。


「ミスティちゃん……」


 黒を基調としたゴシックロリータを身に纏った金髪美少女。

 そんな彼女が今僕の前に最強の敵として立ちふさがる。

 いや、敵じゃないし。とてもいい子なのだけれど!


「どうしたの? 幹也お兄さん。そんな格好して」


 印象的な赤い瞳が僕を不思議そうに見てくる。

 普通の中2女子だったらキャー! と叫んで拒絶しているところだ。だけどミスティーちゃんは冷静に僕の事情を聞こうとしてくれている。

 もしかしたらミスティーちゃんはまともなのでは?

 淡い期待に胸が躍る。


「な、なんでもないですよ。ただお風呂で暖まりすぎたから体を冷ましていただけですよ」

「そうなんですか。けど、そんな蠱惑的な臭いを漂わせちゃ、だめですよ。ああ。今すぐその美しいうなじにかぶりつきたい……!」


 ミスティちゃんも呪いの影響で正気を失っていたか。

 落ち着け。佐藤幹也。お前がどれだけ人間の最底辺であってもミスティちゃんは呪いから守らなければならない。絶対にだ!


 呪いに対抗するにはまず状況を確認しなければならない。

 天井には無駄に大きなシャンデリア。ここは入り口の広間だ。かなり広い。

 そして地面には滑りやすい赤い絨毯。これは要注意だ。足を滑らせたら一巻の終わり……。そんな赤い絨毯の上に信じられないものがある。


「バナナの皮、だと?」


 普通ならありえない状況。絶対に呪いの影響だ。

 正面にはバナナの皮。普通ならバナナの皮を回避して迂回ルートを行く。だがそれは不正解だ。経験則からわかる。一見何もない迂回ルートには必ず目に見えない罠が隠されているに違いない。

 

「お兄さん、突然怪しく笑いだして。何か面白いもことでもあったの?」


 幼い少女の前。全裸で怪しく笑う高二男子。

 誰がどう見ても警察案件である。

 ここに誰もいないのが唯一の幸運だった。


「呪い、破れたり! これが僕の答えだ」


 あえて罠であるバナナの皮へと突っ込む。

 全力疾走で、だ。

 当然のごとく皮を踏み派手に転ぶ。その勢いを殺さないまま前に転がる。あえて罠に引っかかって転がる場所を調整する。それによってミスティちゃんを回避したのだ。我ながら完璧な作戦である。


「痛てて……。けどこれで呪いは回避できた。後は目の前の扉から外に出るだけ。……ん?」


 立ち上がった時、左手にひもが絡みついていた。


「なんだこれ?」


 黒い布切れであった。少し生暖かい。良い香りもする。


「そ、それ……。私の」


 黒いドレスのスカートを抑えながら、顔を真っ赤にしているフランソワーズさん。


「黒のひもパン……だと?」


 前転でフランソワーズさんを横切る時、風圧でスカートが捲れて偶然にも手がひもぱんの結び目に引っかかったのだ。普通ならありえない。けどこれが呪いの力だった。

 以外にアダルティな趣味だ。と現実逃避して落ち着こうとするが無駄な足掻きのようだ。


「ご、ごごごごごごめんなさい!」


 これがラッキースケベの呪い。どんなに不自然で不合理でもラッキースケベを成立させてしまう。僕は慌ててひもパンを返す。

 だが、それだけでは終わっていなかった。恐ろしいのは彼女の反応である。


「お、お兄さんにならあげてもいい、、、よ」


 顔を真っ赤にしながら受け入れてくれた。

 恐ろしい。こんな普通、いや底辺ヘタレ高2男子にまるで惚れているかのごとき反応。やはり異常だ。正気を失っている。だからこそ、僕はこの館から逃げないといけないのだ。


「受けとれませんよ!」


 僕は魅惑のひもパンをフランソワーズさんに押し付けて背後の出口から館を飛び出した。夏の生ぬるい温度が肌に心地良い。

 

「最後の呪いは回避できなかったけど、脱出できた!」


 あとは館と村をつなぐ唯一の桟橋を通って、人気のない森に逃げ込むだけだ。

 ひたすら走る。その先にとんでもない光景が広がっていた。


 桟橋が燃えていたのだ。


「そこまでするのか……」


 呪いは館からの脱出を許してはくれなかった。

 どこまでも残酷である。


「これ一体どういうことよ?」


 茫然としていると後ろから声がする。


「僕にもさっぱりわかりません」


 振り返った先にいたのは幼馴染の伊藤舞だった。

 舞が肩まである綺麗な黒髪を揺らしながら歩み寄ってくる。


「だめだ! 僕に近寄らないでください! 呪いが!」

「私は大丈夫よ」


 あと二歩で接触する。そんな距離にいても何も起きない。

 それに僕を襲ってくるようなこともない。

 だけど、まだ油断はできない。


「ね?」


 伊藤さんがやさしく微笑みかけてくる。その笑顔に見惚れてしまっていた。だがそうこうしているうちに後ろからバキバキという音がした。橋が焼け落ちたのだ。

 川に焼け落ちた橋が落ち、風が二人を襲う。それは舞のスカートがめくりあがることを意味していた。


「あ、くまさんパンツ」


 素で言ってしまった。


「この変態!」


 僕の頬がパンと叩かれた。痛い。


「あ、ごめんなさい。つい……」


 舞が申し訳なさそうに言う。だが、僕は全く怒ってなどいなかった。


「そう、だよね。こんな子供っぽいパンツ履いてる女なんて引くよね」


 これまたズレた感想。だが、そんなことはどうでもいい。大事なのは、拒絶されたという事実だ。


「ありがとうございます!」


 喜びのあまり、舞の手を取って感謝した。


「は?」


 なぜなら今までラッキースケベで今のような拒絶の反応を見せた人はいなかった。それどころか、この館の影響下はわからないが正気を失ったかのように皆が僕に襲い掛かってきた。辱めを受けても逆にもっと辱めてくれと言わんばかりに迫ってきた。

 けど伊藤さんは拒絶した。

 正気を保っているということだ。


「僕の味方は君だけです!」

「叩かれて喜ぶなんて、おかしいわよ。病院行く? それともあんたそういう特殊性癖なの? ちょっと、私には理解、できない……」


 ガチトーンで言われた。普段ならショックだが、今はちがう。


「これで希望が見えた! 味方ができた!」


 呪いの影響下にない味方の舞は、静かに僕から距離を離していた。本気で気持ち悪がられているような気がするがそんなはずはない。だって唯一の味方なのだから!


「あの勝手に盛り上がらないでくれます?」


 幼馴染がなぜか敬語で話してくるけど、理由がわからない。まぁ、いいか。


「それにしてもどうしてこんなことになったんだろう?」


 呪われた館に女の子4人と宿泊する羽目になるなんて思いもよらなかった。

 始まりはおそらく昨日。

 僕はやっとの思いで帰省して、村にたどり着いた時のことを思い出していた。

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