第31話 真実の奥のさらなる真実。その先へ
やっと殲滅できた。
スライムなんて最低クラスのモンスターにこんな苦戦するんだ。
僕はまだまだなんだと実感する。
「伊藤さん! アリネさん!」
高台にまで登り、無事を確認する。
よかった。二人とも五体満足だ。
でも伊藤さんの様子がおかしい。とても落ち込んでいるように見える。
いや、無理もないか。外の世界の実情を知ってしまったんだ。
こんな残酷な世界の現実を伊藤さんには見せたくなかった。
これは僕の失態だ。
「説得は終わった。記憶処理はお前がやれ」
アリネさんから外の記憶を消すための装置を渡される。
記憶を消すのにも本人の了承を得なければならない。それがこの装置の起動条件だ。伊藤さんの様子から見て、この現実を受け入れられなかったのだろう。
「わかりました」
「私は上に報告する。記憶を消し次第、お前はケージ内の任務に戻れ」
「はい」
アリネさんはそう言うとこの場から離れて行ってしまった。
「伊藤さん。ケージの住民である君の記憶は消さないといけません」
返事はない。
「だけど、安心してください。怖いことはありません。今まで通りの生活に戻る。ただそれだけですから」
「ねぇ、教えて。この世界のこと。やっぱり私、何にも知らないまま記憶を消されるなんて嫌」
説得できていないじゃないですか……。
ケージの人に真実を話すのは気が重いな。
「信じられないと思います。疑問も多いと思いますが、ひとまず僕の説明を聞いてください」
こくりと伊藤さんは頷いた。
「この世界は異世界の魔王に侵略されています」
「え? はい?」
まぁ、そんな反応になりますよね……。
「ある時、異世界と僕たちの住む世界が接触しました。最初は向こうの人類と友好的な関係を作れていました。ですが向こうの人類が魔王に滅ぼされたんです。そしてその矛先は僕たちの世界にも向けられました。魔王やその配下の魔物には現代兵器も通じませんでした。この地球の環境さえ、一年中極寒の冬となるように変えられてしまいました。結果、今人類は滅亡の一歩手前まで追い詰めらてるんです」
さすがに信じられないだろう。
僕もそうだったからわかる。
「じゃあ、どうして私たちは。村の人たちはそのことを知らされずにいるの?」
「少し僕と一緒に来てくれませんか?」
手を差し出すと伊藤さんが言われるがまま握ってくれた。
圧縮した魔力を僕と伊藤さんの周囲に同化させる。
「飛びますよ」
「え?」
伊藤さんはきゃあああああ!と悲鳴を上げてしまう。
目的の高度に達して、上昇を止める。
「あれ、なに?」
目の前にあったのは巨大なドームだった。
「村ですよ。さっきまで僕たちがいた場所です。僕たちはケージと呼んでいますが」
「ケージ?」
「ケージは文化保存のために作られました。中では魔王侵略前の文化や営みが継続されています。たとえ、魔王に勝っても何もなかったら復興はできませんから」
「文化を保存するため、村の人たちに真実を教えずに暮らさせてるわけね」
「はい」
一部の例外はあるが、村の人たちは外の現状を知らない。
知っていたら、まともな生活なんて送れるはずがないから。
「降りますよ」
再び地表に戻る。
「他に何か聞きたいことはありますか?」
どうせここで見聞きしたことは忘れる。
でも、ショックが大きすぎると精神にも影響が出てしまう。
もう遅いかもしれないけど、言い方には気を付けないと。
「9年前。7歳の時、突然いなくなったのは外の世界が関係あるの?」
「……はい。子供は乳児期と幼児期はケージで育ちます。幼児期を過ぎた僕は外に連れていかれ、戦争のために訓練を受けないといけなかったですから」
本当はずっと村にいたかった。でも残酷な世界は僕にそれを許してくれるほど甘くはなかった。
「わかったわ」
伊藤さんは表情を変えない。
いや、違う。感情を殺したままだった。
「気になることは全部聞いた。記憶を消すなら早くして」
「……わかりました」
装置は銃型だ。
頭に当てて、本物の銃と同じように撃てば記憶の消去は完了だ。
僕は思いトリガーに指を当てた。
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