第2話 再会は丸出しの股間からこんばんは

「暖かい。帰ってこれたんだ」


 ギラギラと輝く太陽。

 ゲームセンターのごとく爆音で鳴きまくる蝉。

 外とは違う穏やかでおいしい空気。

 極寒の寒さで凍えた体にはとても染みる。

 改めて田舎に、地元に帰ってこれたんだと自覚した。


「ここも変わったな。あんな館が建ってるなんて」


 それにしても、地元も随分変わったものだ。住宅地帯に来るまでに妙な館があったのだ。桟橋の先にあり、田舎の村に似つかわしくない派手な建物だった。

 どこかの資産家が別荘として建てたのだろうか。

 そして村の変化が決して他人事ではないことを宿泊予定だったおばあちゃん宅についた際、再び思い知らされる。


「え?」


 おばあちゃんの家は見事なまでに更地となっていた。

 おばあちゃんと言っても昔お世話になっていたというだけで、血のつながりはない。亡くなったのは聞いていたし、お葬式にも参列した。『いつでも帰ってらっしゃい。ここは幹也の家なんだから』と生前聞いていた。だから正直、今回の滞在先としてあてにしていたのだが。


「野宿するか。ここら辺には確か川もあったし、夕飯は魚でも捕ろう」


 幸い野宿は慣れている。この温暖な気候なら大丈夫だろう。


※※※※


「舞ちゃん! 晩御飯は?」

「わかってる! すぐ戻ってくるって。飛鳥姉さん。あと子供じゃないんだから、ちゃん付けはもうやめて!」


 全く。姉には困ったものだ。

 散歩くらい何も言わずに快く送り出してくれたらいいのに。

 今は午後七時前。夏と言えどもさすがに太陽は沈みかけている。

 この時間の散歩が私は好きで毎日欠かさない。

 それにこの散歩は復讐を忘れないようにする日課。ある幼馴染への復讐だ。

 

「ついた」


 いつもの散歩コースであり、告白された思い出の河原。

 この静かな川のせせらぎが日ごろのストレスを洗い流してくれる。

 

『舞ちゃん、好きだ!』


 もう何年も会っていない幼馴染の佐藤幹也。

 告白の翌日に姿を消してしまった。

 あの後、どれだけ恨んだことか。当時の私はいたく心を傷つけられた。


「返事も聞かずに消えちゃって。ばーか」


 ちゃぽんと苛立ちを込めて川に石を投げる。

 穏やかな水面に波紋が広がった。

 今となってはただの思い出。もう9年も前の話。

 そう、引きずってなんかいないのだ。

 

「やっぱり蒸し暑いわね」


 今の時間帯に、しかもこんな河原に人なんていないだろうと高を括って半袖短パンというほぼ部屋着のラフな格好で出てきたがそれでも暑いものは暑い。

 川辺に座って足を水の中に入れた。


「ひんやりして気持ちいい」


 そろそろ帰ろうか。

 そう思った矢先、水面が揺らいだ。

 魚かな? そう思ったが違った。

 ばしゃあ! と目の前の水面から大きな音がして水しぶきが上がる。

 川の中から出てきたのは魚ではなく、人であった。


「獲ったどー!」


 引き締まった体に、生々しい傷跡が印象的だ。銛の先端には魚が刺さっていた。

 どこかで見覚えのある顔。

 いや、それよりも注目してしまったところがある。

 男の下半身。大事な急所が丸出しだった。

 そして目が合ってしまう。

 

「こ、こんばんは……」

「いやぁぁぁぁぁぁあ!」


 私は反射的に蹴り上げた。

 しかもうまい具合に股間へとクリティカルヒット。

 男は青い顔をして昏倒してしまった。


「あ、あのー大丈夫ですか?」

 

 不審者かと思わず蹴ってしまったがどうやら魚を獲っていただけのようだ。

 男は川にぷかーと浮いていた。幸い浅瀬だったから流されることはなかったけど返事はない。


「……幹くん?」


 面影がある。

 成長して随分大人っぽくなっているが男は幼馴染の佐藤幹也だった。


「ちょっと返事して! ねぇってば! 死んじゃやだよ!」


 どうしよう? どうしよう? 突然のことで頭が真っ白だ。


「お、お姉ちゃん!」


 せっかく再会できたのに、また別れるなんてあんまりだ。

 裸足で足が傷つくのもお構いなしに、私は家まで走ってお姉ちゃんを呼びに戻った。

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