第26話 ハッピーエンド
私はことの真相を知って安堵した。はずなんだけど……。なんだか違和感がある。まだ何か見逃している。何か重大なことを忘れている。そんな感じ。
「あのー僕の呪いってもう解けてるって認識でいいですか? というか呪いって結局何だったんですか?」
明かされた化け物襲撃の真実。
すべてはゆうきの仕掛けだった。
あの化け物はゆうきがドローンとよくわからない全身黒黒タイツを使って映像を投影した偽物。そうわかると恐怖でしかなかった爪の攻撃も大迫力ですごかったんだな、と感心できるほどには余裕が出てきた。
幹也が聞いてくれるまで、呪いのことなんてすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「呪い? あぁ。あれか」
すっかり意気消沈してしまったゆうき。
因果応報よ。
ざまぁみろ。
「ほら。これで解けたぞ」
謎の筒状の機械を幹也に向けて何かスイッチを押した。
「あ、お腹の模様が消えました」
すっかり忘れてたけど、幹也のお腹には呪いのあざがあった。
それがきれいに消えたらしい。
本当によかった。正直ほっとした。
「で、その機械って結局なんなの? ラッキースケベを引き起こす機械なんて聞いたことないんだけれど」
「仕組みは知らない。通販のカタログに載ってたから頼んだだけだし……」
「えぇ……。通販でそんなのあるの……」
そんな通販は嫌だ。
警察に通報しようと固く心に誓った。
「だいたいこれはラッキースケベを引き起こすことが主な機能じゃないからな。商品名は、ええとあった『リトル・ブレイブ」だ」
ゆうきがポケットからぐちゃぐちゃになった説明書を出した。
「あーもう。危険物の取扱説明書なんだから。きれいに保管しときなさいよ」
ゆうきから説明書を受け取って、しわを伸ばす。
その本来の機能とやらの説明を確認する。
「ええと。なになに? 本商品は男女の仲を進展させることが目的です? あまり好意を抱いていない相手にはラッキースケベは発生しません。ご注意ください?」
「そうだ。最初から少しでも好意を持ってなけりゃ、それは効果を発揮しない。好意を持っている奴が一歩踏み出せるように後押しをする。それがラッキースケベという形で発生するんだ。名前の通り、小さな勇気を与えてくれる。そういう代物だよ。つまりお前らは初めからこの男に――おごふ!」
なんだかよくわからない単語をはこうとしたから先制パンチで封じた。
「つまり、どういうことですか?」
幸い、幹也は理解しきっていない。
危なかった……。
「つまりもう呪いは解けたってこと」
「それはそうなんですけど、呪いのことは気になります。説明書読みたいです!」
「いいから! 呪いのことなんて忘れちゃいなさい!」
「え? あの? その?」
「い・い・わ・ね?」
「は、はい……。伊藤さんがそう言うなら……」
勢いに任せてごまかしたのは悪いことをしたと思ってる。
けどこの説明はまだ聞かせるわけにはいかない。絶対に。あととても恥ずかしいし、私自身どうなっちゃうかわからないから。
「あ」
気づいてしまった。
違和感に。
呪いの機械。リトルブレイブ。好意を持っていなければ、ラッキースケベは発生しない。
なら男のゆうきにもラッキースケベが発生していたということは……。
「ねぇ、なんで男にも発動してたの? 祭りの準備してた男の人とも変なことになってたし」
もう一度、説明書を見る
呪われた対象と好意を持っている相手が同性の場合、呪われた対象がスケベな目に合うためご注意くださいと書かれてた。
「かわいいは正義! 見た目がよけりゃあ、なんでもいいのさ!」
まさかの両刀。
しかも理由がどこまでも俗物。
こんな三下クズに幹也は絶対に渡さない。
私はそう、心の中で誓った。
※※※※
こうして事件は終わった。
みんな怪我をすることもなくハッピーエンド。
幹也の異常な自己否定を治すことはできなかったけど、まだ慌てなくていい。
夏休みは始まったばかり。
ゆっくりと時間をかければいいのだから。
そんな甘い考えはすぐに消え去った。
そんな余裕は完膚なきまでに叩き潰された。
真実の奥のさらなる真実。その先。
ここから先に進んでしまった私は否応なく、残酷な真実にたどり着いてしまったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます