第25話 人工ハーレム化計画


「それは、俺もイチャイチャハーレム体験してみたかったからだよぉぉぉぉ」


 はい? 僕の思考が停止した。


「ゆうきん♪ くだらないこと言うんだったら。……ひねりつぶすよぉ?」


 さすがの飛鳥姉さんでも、このふざけ方に対してはイラっときたようだ。

 姉さんの視線は下半身に向いていたが、どこをつぶすかは恐ろしくて聞けなかった。


「ち、ちちちがうわい! 心底まじめだ!」

「あの。話の腰を折るようで悪いんですけど。舞元さんは男、なんですか……?」


 話し方や声が完全に男だ。

 黒いタイツを脱ぐとセーラー服姿に戻る。

 見た目は女子高生にしか見えない。


「そうだ。なんなら俺の息子見る?」

 

 スカートをたくし上げると純白のレースがついたパンツがあった。

 よく見ると確かに膨れ上がっている。


「なんてもの見せてんのよ!」


 伊藤さんの蹴りが舞元さんの股間にクリーンヒット! 

 おごごと呻いて悶絶してる。

 い、痛そう……。


「そ、そう。俺は男だ。だからこそ、男の夢であるハーレムを俺も体験したかった! だからこんな手の込んだ計画をしたり鬼のように高いドローンとこのクソ動きにくいスーツで魔物を投影したんだぞ」


 今もまだ舞元さんの周囲を飛び回っているドローン。あとさっき脱いだ黒いスーツはモーションキャプチャースーツだろうか? 自分の動きに合わせて映像も動く、みたいな。

 どうやらその二つで魔物を演出していたようだ。


「あの正直僕にはハーレムを体験したい気持ちが全く分からないんですけど……」

「はぁ!? 嘘だろ? ハーレムは全男の夢! 希望! 楽園! それを否定するならお前は今日から俺の敵だっ」

「す、すいません。欲求は人それぞれですものね……」

「ラノベやアニメみたいなハーレムは所詮幻想。だがしかしぃ! それが現実に現れたらどうだ? ラノベやアニメのような体験を一時でもいい。本当だと思って体験できる! こんなに素晴らしいことはないと思わないか?」


 ちょっと納得できた。

 ハーレムは理解できないけど。映画やアニメのような体験をできたら。しかも偽物じゃない。本当だと思えたら。それはどんなに楽しいだろう? 

 実際、僕はこの館に来てから楽しかった。

 皆に迷惑をかけていたのは申し訳ないけれど。


「それは事前に私たちに伝えてた計画の動機でしょ? 突然計画変更して、あんな化け物を出した。私たちを脅した理由になってないわよ」


 なるほど。

 本来の計画は村おこしと舞元さんの欲望が一致した結果に計画されたものだったんだ。

 けどそれだけじゃ、あの魔物を出した理由にはならない。

 下手をすれば、命の危険すらあったものだ。


「だって女性陣は本気じゃなかっただろ?」

「どういうこと?」

「女性陣は言ってしまえば仕掛ける側だ。まぁ。これは外の男と村の女の出会いの場を作るという意味合いもあるから。男が合わないっていうなら仕方ない。けど今回は違う。お前らはそいつのことをそれなりに気に入ってたはずだ。ラッキースケベされてもいい。それくらいにはな」

「え? そうなんですか?」


 まさかそんなはずはない。

 冗談のつもりで聞いた。

 その結果。


「私はいいよぉ。ちなみに誰にでもいいってわけじゃないからぁ」

「最初は嫌だった。けど今は……」

「え?」


 飛鳥姉さんとミスティちゃんの意外過ぎる回答。

 え? え? え?


「はぁ? そ、そそんなわけないじゃない! 勘違いしないでよね!」


 伊藤さんは慌てて否定する。

 

「あぁ……。よかったです。そうですよね。僕なんかと接触されて好きな女の子がそうそういるわけないですよね」

「こいつ、これだけ幸せな立場でうやむやにしやがった……。まぁいい。お前の自己否定病はおいておく。ともかく! 女性陣は本気じゃなかった。本気でラッキースケベを引き起こそうとしてたら、間違いなくお前は回避できなかったからな」

「たしかに。館の仕掛けを回避したところで、みんながあえて罠にかかっていったらどうしようもなかったです」


 じゃあ、やっぱりみんな乗り気ではなかったんだと少し安心した。


「じゃあ、どうするか? ドキドキ! 吊り橋効果作戦で女の子との仲を急接近大作戦! てなわけだ」

「あの。定期的に僕の思考を引っ掻き回すのはやめてくれませんか?」

「だめだ。ついてこい」

 

 聞きなれない謎にインパクトのあるワードを出してくるのはやめてほしい。


「また話が逸れてるわよ。つまり、本当に危機的な状況を作り出して、男女の仲を深めようとしたのね」


 伊藤さんがわかりやすくまとめてくれた。


「でもそんなので仲良くなれるものなんですか?」

「何言ってるんだよ。実際、苦難を一緒に乗り越えたことでお前らの距離は相当縮まったはずだぞ。なぁミスティ? 舞?」

「そうねぇ。わたしも幹くんの勇敢な姿見て惚れ直しちゃったなぁ。またヤりたたいなぁ」


 飛鳥姉さんは別の意味で言っている気がしてならない。

 でもたしかに仲は深まった。

 

「まぁ、少しは……。幹也とどう向き合えばいいか。答えの一つは出せた、と思う。まだまだこれからだけど」


 伊藤さんに僕がいじめられていたことを打ち明けられた。

 それにどれだけ気にかけてくれているか知ることもできた。

 それは僕にとってはうれしかった。伊藤さんも同じ思いだといいのだけれど。


「私もお兄さんのいいところたくさん知ることができた。迷惑はいっぱいかけちゃったけど……」


 あんな状況だ。

 取り乱して、言いすぎるのは仕方ない。


「そう! 企画側だった女子勢は魔物の登場によって本気にならざるを得なくなった。そして! 窮地を乗り越えた男と女の仲は大接近! という寸法よ!」


 高笑いする舞元さん。

 でも一つ気になることがあった。


「でも、それだと舞元さんはハーレム体験できないのでは?」

「この企画が通ったら、他のだれかに計画してもらうんだよ! やったね! これで俺もハーレムを体験できるぜっ。ははっははは!」

「たとえ、計画してもらったとしても本気にはなれないと思います。だって計画されたものだってわかっちゃうんですから。どっちみち本気の体験はできないんじゃないですか?」


 舞元さんが黙り込んだ。


「あ」


 どうやら本当に見落としていたらしい。


「互いが合意の下で、出会いの場としてなら許可出してたんだけれどぉ。こんな勝手なことしちゃったら、ちょっとぉ良い報告を村長にはできないかなぁ」


 つまり、この無茶苦茶な計画は終わったらしい。


「あああああああああああああああああ」


 飛鳥姉さんにとどめをさされて、舞元さんが絶望に呻く。

 少しかわいそうかな? と思った。

 けど考えてみたら、さんざん騙されて命の危険を味あわされたんだ。

 ちょっとだけざまぁみろ、と思った。

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