第27話 ハッピーエンド 裏ルート


 幹也が解き明かした真実。

 ゆうきが語った動機。

 どれも納得がいくものだったし、事件はきれいに解決した。

 みんなそう思っているし、私もそう思う。


「ちょっと怖いわね」


 今日はいろいろなことがあった。

 もう呪いの心配はない。だから食事を終えて、みんなそれぞれ別々の個室で寝ている。

 今は夜の11時30分。

 もう少しで日付が変わる時間帯。

 

「ついた」


 少しだけ違和感があった。魚の小骨が喉の奥に刺さったような。

 そんな感じ。 

 だからその違和感を解消するために、私はあの化け物に追いかけられた場所を再び訪れていた。

 最初に追いかけられた東側のL字廊下や書斎に変化はなかった。

 相変わらず、砕けた花瓶や武器類が床に散らばっている。

 今いるのは二度目に追いかけれた西側のL字廊下。

 BAR兼娯楽部屋前。

 

「あの時、化け物は壁を突き破って部屋に入ってきた。けど、きれいに直ってる」


 部屋に入っても同じ。

 崩れた壁の瓦礫はない。酒瓶はきれいにBARのカウンター奥に飾られていた。


「信じられないけど、あの光景もドローンで映し出したものってことかしら」


 あの化け物に追われた恐怖。

 姉さんが決死の覚悟で戦い、私はそれを見ていることしかできなかった。

 あの恐怖は、たしかに本物だった。

 それがこの違和感の正体。

 本物だと思っていたものが偽物だと言われた。

 

「けど、どうやら何もないみたいね」


 きっと私の気のせいだ。

 そう納得して、帰ろうとした時だった。


「ん?」


 足に何か当たった。


「何これ?」


 窓のそばに行く。

 月明かりに照らされたものは銃の薬きょうだった。

 そういえば、姉さんがあの化け物に銃を放っていたわね。


「あ」


 その時思い出した。


「姉さんが撃った銃、ちゃんと当たってたじゃない」


 あの化け物がドローンの作り出した映像だというなら、銃弾が当たること自体ありえない。

 しかもあの化け物から逃げるための隙を作り出すために幹也が投げた酒瓶。

 あれもちゃんと命中していた。

 

「あの時、たしかに幹也は酒瓶を投げた。それなのにどうして割れた酒瓶がない

の?」


 今日はみんな疲れ切って片づけになんか来ていない。

 背中に寒気が走る。

 手が震える。

 考えることをやめたい。でも、思考は止まらない。


「だいたい壁を突き破ってこれるような演出ができるなら東側のL字廊下でもやっておけばよかったのよ」


 東側では花瓶が割れたり、壁に飾ってあった武器が落ちている程度の演出だった。おそらくゆうきが自分の手でしたのだろう。


「たぶんできるものならやってたと思う。でもドローンの数は限られてる。だからできなかったんだ。だったらこの部屋で出会ったあいつはなんだったの?」


 はぁ、はぁと息が荒くなる。

 歯ががちがちとなって、自分の体なのにコントロールができない。


「みんなに知らせなくちゃ!」


 走った。客室があるのは大階段を上った二階にある。

 真っ先に来てしまったのは幹也の部屋。

 自分でもどうしてかわからない。


「幹也、ねぇ。起きてる?」


 ノックを三回。

 しばらく待つが返事はない。

 

「ねぇ、開けるわよ? 後から文句言わないでよ」


 不安な気持ちを抑えて、部屋の中に入った。

 

「え?」


 部屋の中には誰もいなかった。

 正面から生暖かい夏特有の空気が押し寄せる。


「窓が開いてる……」


 窓の淵に手をつくと、私の手に土がついた。


「窓の淵に靴の跡……?」


 まさか窓の外から飛び降りた!?

 すぐに下を見る。だけど誰もいない。

 嫌な予感がする。

 

「いや、嫌嫌嫌! せっかく再会できたのに!」


 何も考えられなかった。

 頭が真っ白だった。

 走って館の外に出る。ちょうどさっき覗き込んだ窓の下まで来た。


「足跡がある。うそでしょ? 二階から飛おりたの? どうして?」

 

 やわらかい土にはくっきりとした足跡があった。

 その足跡が森の方へと続く。

 脳裏から嫌な予感が離れない。

 嫌な汗で白のワンピースの下に来ているインナーシャツがべたりと肌に張り付く。


「行くしかない、わよね」


 私は意を決して、幹也の足跡をたどって森の中に入っていった。

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