第28話 外

「なんで一人で行っちゃうのよ! あの馬鹿」


 私も自分のことは言えないけれど。

 本当なら飛鳥姉さんたちも呼んでくるべきだった。

 でも幹也への心配のほうが勝った。

 いてもたってもいられなかった。


「本当に私も人のこと言えないわね」


 そんな自嘲交じりに森の中へを進んでいく。

 ここら辺には野生の動物がたくさんいる。イノシシなんか夜に遭遇したら怖い。けど、今は森が静まり返っていた。

 虫の音すらない。まるで何かに怯えているかのようだ。


「怖いけど都合がいいわ」


 幹也の足跡を追っていると開けた場所にたどり着いた。

 いや、もともとは木で密集していた場所が無理やり開かれたと表現した方がいいかもしれない。


「何よ、これ……」


 言葉が出てこなかった。だってここら一体の木が溶けていたのだから。

 そう表現するしかない。

 切られたのでもない。燃えているわけでもない。

 どろどろと異臭を放って溶けている。

 こんな異常事態、あの化け物にしか引き起こせない。

 

「幹也を探さないとっ」


 大声は出せない。あの化け物が怖いから。

 溶けた木はどんどんと森の奥に続いていく。

 その跡をたどっていくと、またもや異常な光景に出くわす。


「風景がえぐれてる……?」


 一見山がどこまでも続いているように見える。

 だけど目の前の一部だけに穴が開いている。まるで写真の中央が破れて穴が開いたかのような光景。その穴の先には無機質な鉄のシャッターが下りていた。


「なにこれ?」


 触れようとすると、突然シャッターが勝手に開いた。

 

「きゃっ」


 開くと同時に猛烈な冷気の風が流れ込む。

 同時に何かが私に倒れこんできた。

 いや、何かじゃない。人だ。それは血まみれの人間だった。

 右足が無残に切り落とされ、そこから大量出血している。


「ちょっと! 大丈夫ですか!?」


 まるで自衛隊のような迷彩服を着ている。

 ただ成人ではなく、まだ年端も行かない少年だ。だから自衛隊ではないと思う。そんな少年は息も絶え絶えで、空に手をかざした。


「たす、けて……」

「今! 今助けますから! 止血、何かで止血しないと!」


 とりあえず焼け石に水かもしれないけど、タオルを出して足に押し付けた。

 しかし、そこで初年の上がっていた腕が地に落ちた。


「ちょっと! しっかりしてください! ねぇってば!」


 だが返事はない。

 胸に耳を当てるとすでに音は聞こえなくなっていた。


「そんな……」


 明らかな異常事態。

 シャッターの外は猛吹雪で地面は雪に覆われていた。

 雪面には幹也の足跡がある。


「行くしかないのね……。ごめんなさい。どこのだれかはわからないけど、後で絶対家族のもとにかえしてあげるからね。だから今だけ少し借ります」


 私は名も知らぬ迷彩服の少年を吹雪が当たらない木の陰に寝かした。

 少年が来ていた防寒具を身にまとう。

 そして再び、シャッターの前へと立つ。

 

「ここから先に言ったら、もう後戻りはできない。けど、ここで行かなかったら私は一生後悔する!」


 意を決して私は一歩村の外へと、シャッターから外へと足を踏み出した。


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