第16話 超ラッキースケベ

「どうしてなんだよぉぉぉぉぉ」


 構想に3年。計画の準備に丸々一年を犠牲にした俺の青春の集大成。

 それがことごとく打ち破られ、俺はまたもやトイレで叫んでいた。

 だって、あんな完璧な落とし穴回避されるとか思わねぇよ。


「糞っ! 安全対策のマットが仇になったか」


 これなら呪いに任せておいた方が、よかったか? 

 だけど、本来なら呪いなどに頼らないことが理想。


「計画は、仕込みは完璧だったはず。この計画がうまくいかないと村の大人たちを言いくるめることができない……」


 仕込みは万全。あの幸運な男をこの館まで誘い出し、ラッキースケベを連発させる。そして、性欲が臨界点に達した状態で、一夜を過ごしたらどうなるか? 

 そんな状態で我慢できる男などいない。俺は我慢できないから他の男が我慢できるはずがないね!

 そう。本来ならそうなるはずだった。それをあの佐藤幹也は謎の身体能力と決意で回避した。

 なら、もう手段を選んでいられる場合ではなくなった。


「この手は友達を裏切るようで使いたくなかったけど、仕方がない。最終手段だ。さぁ、呪われた館とラッキースケベの呪い。その本領を発揮してもらおうか……」


 ※※※※


 夕暮れ。

 夏とはいえ、もう日は傾いてあと一時間もしないうちに夜になる。

 なんとか無事に館探索も終わった。

 飛鳥姉さんも楽しめたようで、今年の夏は一生の思い出になると満足げだ。

 それに伊藤さんとのわだかまりも少しだけ解消した。どっちかというとあっちの方から歩み寄ってくれたという方が正しいけど。

 

「ふう……」


 ラッキースケベの呪いなんていう訳の分からないものにも対抗できた。

 とりあえずは回避できた言ってもいいんじゃないかと思う。


「気持ちいい……」


 僕は今、風呂に入っていた。

 かなり広いし、僕一人で入るのは躊躇われるくらい贅沢だ。

 でも男は僕ひとりだけだから仕方がない。


「本当によかったのかな? 一番風呂をいただくなんて申し訳ないんだけれどな」

「いいわよぉ。だって、私たちに恥ずかしい思いをさせないように一番頑張ってくれたじゃない」

「そうですかねー? 本当なら、呪いも僕ひとりで何とかしないといけない問題です。そんな呪いを解呪するために皆さんが協力してくださってるんです。僕は体を張るくらいのことしかできていないのが悔しいです」

「偉いわねぇ。そんな風に考えて頑張る男の子は素敵よぉ。ねぇ? ゆうきんもそう思うわよね?」

「シュー・シュー・シュー」

「そんなこと初めていわれました。照れるじゃないですか。ははははは――は? ゆうき? え?」


 いつのまにか僕の両隣に二人の女の子がいた。

 左隣には舞元さん。バスタオルを巻いているとはいえ、スタイルの良さは隠しきれない。その美しいうなじは生唾ものだ。僕がかろうじて理性を保てているのは風呂の中でもつけている場違いなガスマスクのおかげだ。

 そして本格的にやばいのが右隣にいる。飛鳥姉さんだ。

 何がやばいって?


「すっぽんぽん!」


 年上のやさしいお姉さん。その豊満な胸が惜しげもなくさらけ出されている。

 それはどんな呪いよりも恐ろしく、今まで相対してきた敵の中でも随一の強敵だ。


「見ちゃだめだ!」


 これ以上目を開けてたら僕の理性が耐えられない。

 耐えきれずに僕は目を閉じる。


「別に見ていいのに……」


 僕の両腕がやわらかい感触に伝わる。

 これ二人が僕の腕に押し付けてる! 何がとは言わないけど!

 

「おっぱい気持ち良い?」

「僕のなけなしの現実逃避をあっさりと無意味にしないでくれませんかね!」


 けど、この状況は何なんだ?

 これは呪いなのか? ラッキースケベは、たまたま幸運にも女の子とエッチな接触をしてしまうことだ。この状況はちがう。これではスケベの域を超えている。


「どうしてこんなことしてるんですか?」

「だってもう耐えきれないよぉ。そんな立派な体をお預けなんて無理ぃ。再会したときからずっとずっと食べたくて食べたくて仕方なかったんだよ」


 まさかの体目当て!?

 男が女にならわからんだけど、その逆をまさか僕が体験するなんて思ってもみなかったよ!


「こひゅ……」


 舞元さんもなまめかしい呼吸音と共に、僕のお腹をフェザータッチ。

 なんかすごい。初体験だ。妙に男の気持ちよい力加減を知っているというか。


「んぁ」


 これはやばい。変な声が出てしまう。

 けど、このまま流されるのだけは絶対にだめだ。

 強引に二人を振り払って、湯船から出る。

 とりあえず、タオルを腰に巻き付けた。

 よし、よくぞこの状況で耐えてくれた息子よ!

 二人の超絶美少女という存在を前に耐えてくれた下半身にあるもう一人の僕を褒めたたえる。だが、もう何かしらの刺激があれば、ノックアウトするのは目に見えていた。


「二人ともどうかしてますよ!」

「はぁはぁはぁ」

「ヒュー・ヒュー・ヒュー」


 もはやまともに返事もしてくれない。

 二人とも呼吸音が荒い。それに目が明らかにおかしい。ギラギラと獲物を狙うような眼だ。

 明らかに二人は正気を失いながら、まるでゾンビのようにふらふらとした足取りで僕に迫ってくる。

 

「人の意志さえ捻じ曲げてしまう。これが呪いの本領発揮か」


 僕に残された選択肢は一つ。

 逃げることだ。

 勢いよく浴室のドアを開き、走り出す。

 

「だめだ。これじゃあ、一緒の部屋で一晩過ごすなんて無理だ」


 腰にはタオル一枚を巻いただけだが構わない。

 裸同然の格好で僕は、走り出す。

 目的はこの館からの脱出だ。


 






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