第15話 絶対ラッキースケベさせたい黒幕VS体を張ってでも阻止したい主人公
「何あれ?」
まず謎の警戒で罠の気配を察知。
俺が設置した特性美少女の服溶かす液発射装置の存在を特定。
からのスライディングして飛んで、エアガンで撃ち落とす?
「どこのハリウッドアクション俳優だ! 聞いてた話とちがうじゃねぇか! どこが普通の高2男子だ! それ以前に、どうしてあの罠を事前に察知できんだよ! どこかの軍隊にでも所属してたんか? 何が『クリア』だよ。アウトだアウト! だいたい美少女たちの裸を合法的に拝めるんだぞ。なんでそこまで抗おうとするんだ。わけわからん」
はぁはぁはぁと息が荒れる。
「まだ慌てる時間じゃない。この館にはたっぷりと仕掛けがある。それに奴がどう足掻こうが無駄だからな……。せいぜい無駄な苦労をするんだな。それにいざとなったら最終手段もある」
我ながらこの計画の用意周到さは笑いが出てくる程完璧だ。
「くっくっくっ……」
外に声が漏れないよう声は抑える。
するとドンドンドンと扉が叩かれる音がする。
「すいません! もう30分くらいトイレに籠りっぱなしですけど、大丈夫ですか? もしかしてお腹痛いんですか。うんこですか? それとも病気? いや感染症の可能性も!? 返事がないってことは意識がなくなってる? きゅ、救急車!」
まずいまずいまずい! 救急車なんて呼ばれたら、せっかくの計画が台無しだ!
呑気にトイレで下半身丸出しにして黒幕笑いしている場合ではない。
俺は急いで服を整えてから外に出た。
※※※※
トイレ休憩が終わってからまた館の探検を再開する。
ここからも罠は大量に待ち構えていた。
まず温室だ。この館の主の趣味か。
さまざまな熱帯植物が立ち並ぶ温室がある。
温室は夏という季節も相まってむせかえるような熱気だ。
その温室で待ち構えていたのは謎の植物から生えてくる触手による波状攻撃。
僕が身を呈してすべて触手に絡めとられる。男の触手プレイとか誰得なんだよという感想はあるかもしれないが、皆を守れるならそれでいい。
「あらあらセクシーねぇ。やっぱりいい筋肉♪」
次に待ち構えていたのはロボット犬による襲撃。
さらに呪いの鎧もセットで追加だ。
漏れなく、服だけが解ける液体が詰められた水鉄砲装備である。
「僕が殿を務めます! 皆は先に行ってください!」
服が解ける液体対策はすでに完了済みだ。
館のあちこちに飾られている骨董品の盾を使用し、皆を守る。
「きゃあ! 胸が!」
それでも防ぎきれずミスティちゃんが被弾。
そんな時は慌てず、自分の目をついて一時的に視界を奪うのである。
「ちょっとあんた何してんのよ!」
伊藤さんが言った。
「いや、ミスティちゃんの貞操を守るためなら僕の目なんてゴミクズ以下の価値もないですよ。それに案外聴覚だけで何とかなります」
足音のみで敵の配置を特定。
また射撃音もわかりやすい。
次々に襲い来るロボット犬とすれ違うたびにスイッチを押して電源を切る。
呪いの鎧も対策済みだ。
頭部を拳で砕けば、鎧は消え去る。
「お兄さん! すごい!」
「ありがとうございます」
褒められることなんてあまりないから、照れる。
「ちょっと幹也! 手!」
「へ?」
「血がついてる」
まだ視界が回復していないからはっきりとはわからないけど。
手に消毒液をかけられた後、包帯がまかれるのがわかる。
鎧を素手で砕いたから、拳が傷ついていた。
やっぱり伊藤さんは気が利くし、やさいしいなぁ。
そう褒めたのだけど、なぜか伊藤さんはむすっとしたままだった。
ミスティちゃんみたいに上手に人を褒めるのはむずかしい。
※※※※
「ふざけんじゃねぇよ! どうして俺の罠をことごとく躱せるんだよ! あれだけ大量のロボット犬と鎧を用意したんだぞ! 費用だって馬鹿にならないのに!」
またトイレで俺は叫んでいた。
これだけ理不尽でありえない罠の避け方をされたのだ。
佐藤幹也の性能があまりにも高すぎて、俺が用意したラッキースケベな罠と呪いの合わせ技でも、防がれてしまう。
「最初の触手を身代わりに受けるのはわかる! けど、次のロボット犬と鎧の攻撃をどうして目つぶしした状態で倒してるんだよ。おかしいだろ! 気か? お前は少年漫画でよくありがちの気の使い手で、特殊能力でもあるっていうのか?」
なにせ一年間。学校以外の趣味の時間を全部費やし、村の大人を何とか説得して作り上げた集大成だ。それが、こんなよくわからん根性やら気やらで防がれてしまったら俺の努力は一体何だったんだっていう話だ。
「次だ! 次!」
※※※※
次に待ち受けていたのは秘密の通路と隠し部屋だった。
「えぇ……」
館の主人の書斎。
壁全体が本棚の部屋で、一冊だけ巨大で真っ赤な露骨に怪しい本を抜くと本棚が動き謎の扉が現れたのだ。明らかに厄ネタです。ありがとうございます。
「ここからは惨劇の臭いはしないから大丈夫。お兄さん、行こ」
「ええ、すごく楽しそうだわ」
ミスティちゃんと飛鳥姉さんは乗り気。
そして舞元さんはというと……。
「フシュ―・コシュー・ヒュヒュ」
……うん。わからないから放置で。
「ここ明らかにやばいですよ。危なそうなところはやめときましょう。明日呪いが解けてからでもいいじゃないですか」
「それはだめ。このスリルと緊張感がたまらないんじゃない」
飛鳥姉さんェ……。
そうだ。伊藤さんなら、味方になってくれるはず!
「伊藤さんもここは危ないと思いますよね!」
さっきは怒らしてしまった。その後もなんだかぶつぶつと独り言を言いながら考え事をしている。伊藤さんはやさしいから僕のために色々考えてくれてるんだろう。だったら、僕に協力してくれるはず。
「危ない、か。ええ。そうね。私もそう思うわ。ここは怪しい」
「そうですよね!だったら――!」
「そう。露骨に怪しいからちょうどいいわ。さっさと入っちゃいましょう」
なぜぇ? どうしてそうなる!?
「う、うぅ……わかりました」
全体の空気に反抗するなんてことはできない。
僕のような力のない陰キャの悲しい定めである。
「私が先に行くわ」
有無を言わさず、真っ暗闇の通路を伊藤さんが突き進む。
「ちょっと待ってください! そんなに早く行ったら危ないですよ」
急いで伊藤さんを追いかける。
呪いの件もあるが、単純に危ない。どんな仕掛けが施されているかわからないからだ。
「ちょっと二人とも走ったら怪我するわよぉ」
「なんだか危ない危ない言ってた二人が先に行っちゃったね。血の臭いもしないけど、あの匂いはするんだよね。大丈夫かな?」
「フシュー」
「そうだね。私たちも行きましょう」
そんな会話が後ろから聞こえてくる。
後ろの三人のことも気にかかるけど、今は先に行っちゃった伊藤さんが優先だ。
「あ、やっと追いついた」
長く暗い通路。その先に待っていたのは、コレクション部屋だった。
古今東西あらゆる国の武器や防具が壁一面に飾られている。
圧巻の光景だった。
「わぁすごいすごいすごい! あれは呪われた名工が作った妖刀でしょ。そこにあるのは大戦の伝説的英雄が多くの要人を暗殺したっていう狙撃銃!」
一番興奮していたのは飛鳥姉さんだった。
僕のじゃなくて、血塗られた呪い的な意味で怖くなっていたんだが。
「伊藤さん、危ないですよ。一人で先に行っちゃったら」
「ええ。そうね。危ないわね」
わからない。危険なところにあえて飛び込むなんて正気の沙汰じゃない。
「あ、きれいな宝石!」
部屋の中央。露骨に怪しい台座にはきれいな赤い
「あぁ、吸い込まれそうな程深くて濃い紅……。すごく喉がかわいてくるな……」
なんだか怪しいこと言ってるけど、やばくない?
同じことを感じたのか、伊藤さんも僕と同じようにミスティちゃんのもとへと駆け寄ってきた。
すると、「カチリ」という何かのスイッチが入るような奇妙な音がした。
「「やばい(危ない)」」
本能で察して僕と伊藤さんが同時にミスティちゃんを押し出した。
その直後、台座の周囲の床が唐突になくなった。
落とし穴だ。
「うわああああああ」
「きゃああああああ」
完全な落とし穴じゃなくて滑り台にみたいになっていて、坂を滑っている感じで僕と伊藤さんは落ちていく。
ローションが塗りたくってあるのか。すごくぬるぬるして、止まらない。
「あれは沼! しかもあの液体、まさか……」
「服だけを溶かす液体、ね」
このままでは二人仲良く、転がり落ちて素っ裸だ。
それだけはさせない。
ついに滑り台部分は終わり、宙に投げ出された。
その瞬間、伊藤さんだけでも救い出そうと宙で押し出した。
沼は小さいから少し押し出すだけで、回避できそうだ。
「え?」
すると同じ考えだったのだろう。伊藤さんも僕を押し出した。
全く同じタイミングだ。
互いが互いを押し出して、沼ダイブをなんとか回避。
安全のためだろうか。着地した床にはマットが引かれていた。
僕はうまく着地した後すぐに伊藤さんに駆け寄る。
「大丈夫ですか? どうしてこんな無茶なことを!」
マットの上で涙目になっていた伊藤さん。
「それはこっちのセリフよ!」
僕は逆に怒られてしまって頭の中が『?』で埋め尽くされた。
「さっきから自分だけが危ないめに遭って、守る守るって。いい加減にしてよ!」
「え? あの、だってそれは皆僕の呪いの解呪のために来てくれてるんだ。僕が頑張るのは当たり前……」
「あんたは言ったわ。自分がやさしさを受け取れる資格がないって。そんなの知ったことじゃないの! 私はあんたを助けたい! 守られてばかりなんて嫌! 今の私はあんたが自分を大切にできるような気の利いた言葉なんてかけてあげられない。だからあんたが自分を大切にできないなら、私がする。私があんたを守る! それが私の出した答えよ!」
だから、か。
だから明らかに危ない隠し通路にあえて自分が先に入ったのか。
皆が興味を示した時点で、僕が押し負けて一緒に入るのは目に見えている。
だったら僕に危険な真似をさせる前に自分が危険なことを引き受けるために率先して秘密の通路に入っていたんだ。
「そうか。そうだったんですね。ふふふ。あはははははっ」
「な、なにがおかしいのよ?」
「いえ、ありがとうございます。僕を守ろうだなんて言ってくれた人、初めてで。つい」
すごく。すごくうれしい。
守られることが、気にかけてくれることがこんなにもうれしいことだなんて初めて知った。
僕は今、すごく幸せだ。
※※※※
「ああ、もう! なんで泣きながら笑ってんのよ!」
幹也が嬉しそうに泣きながら笑っていた。
これで少しは幹也を救えたのかな? 力になれたのかな?
私の口元も自然に緩むのがわかる。
だけど、知らなかった。
私は幹也のことを何一つ理解できていないことを。
この村の外に出たことがないという、本当の意味を私はまだこの時知らなかったんだ。
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