第14話 反撃開始
すべては計画通りに進んでいる。
佐藤幹也が呪いに抗おうとしているのも想定の範囲内だ。
抗ったところで無駄なのに。今はことごとく呪いに屈している。
呪いはあらゆる因果、いや森羅万象を操って結果を引き寄せる。
俺は少し、おぜん立てするだけだ。
舞台に必要な登場人物の配役の設定。使えそうな小道具の用意。雰囲気づくりのために置いた鎧があんな風になるとは思ってもなかったけど……。
この館も俺が用意した。
細工は流々あとは仕上げをご覧じろってね。
奴が、佐藤幹也が自らの欲望に溺れ堕ちるのも時間の問題だ。
佐藤幹也が堕ちたその時こそ、俺の長年の念願が叶う……。
さぁ、あと少し。あと少しだ。
※※※※
昼食はとりあえず無事終わった。
今はお昼の2時。大食堂にみんなでいる。
さっきの騒動で、少し昼食の時間が遅くなってしまった。
キッチンでの飛鳥姉さんは手強かった。それ以上に、伊藤さんの誤解を解くのもかなりきつかった。
呪いのことは知っているはずなのに、「そんなに姉さんがいいんだ! こんな真昼間からお盛んになるほどいいんだ! 破廉恥、破廉恥、破廉恥!」と泣き叫んでいた時はどうしようかと思ったものだが。
どうしてあそこまで錯乱していたのかはわからない。
今では落ち着いている。
誤解とわかってからは、自分の早とちりとアレな妄想をしてしまった恥ずかしさから借りてきた猫のように大人しくなっている。
今も顔を真っ赤にして誰とも目を合わさない。そんな姿を少しかわいいと思ってしまう僕は意地悪なんだろうか?
「掃除は終わったし。食事も終わったわ。さて今から何して遊ぼうかしら?」
「え? 遊ぶ? どうしてですか? 今は僕が呪われてるんですよ。なるべく夜まで皆さんとは接触を絶たないと……」
突然の飛鳥姉さんの提案。
「だって今皆夏休みよ。この夏は一生で一度きりなんだから。しかも同年代でお泊り会! 私、こんなの初めてだから楽しく遊びたい。呪いなんてもののせいで、せっかくの機会を捨てるのはどうかと思うわぁ」
「私も遊びたい……。普段は修道会のお勤めをしていて同年代の人と遊ぶことって滅多にない。たとえ、ここが邪なる物が跋扈する血塗られた館で。幹也お兄さんからゴミを煮詰めたようなどす黒い惨劇の臭いがしているとしても遊びたい」
なんか怪しいワードが追加されているんですけど。皆スルーしてるってことは、僕もスルーでいいんだよね?
果てしなく不安だ。
あと僕ってそんな臭いするの?
かなりショックなんだが。
お風呂入ったら消えるかな……。
それはともかくとして。
「ヒューココ・ヒューヒュー!」
「館探検をしたいのぉ?」
館探検!
それはまた自ら地雷原を走るようなマネなのでは?
ラッキースケベの呪いと血塗られた館のコンボで何が起こるか、全く予想ができないんですけど!
「私も探検、してみたい。なんだかゲームみたいでワクワクする」
ミスティちゃんも乗り気だ。
「私も賛成ねぇ。舞ちゃんは……だめねぇ」
飛鳥姉さんが伊藤さんの頬をムニムニ指でいじるが反応はない。
そして、全員の視線が僕に突き刺さる。
「幹也お兄さん。私、せっかくみんなで集まったこの夏を一生の、楽しい思い出にしたいな」
ミスティちゃんの幼気で純粋な瞳が真っすぐとこちらを見てくる。
「コヒュコヒュコヒュ」
人形のように美しく、なぜか制服姿でエンジョイする気満々の舞元さんも体をうずうずさせている。相変わらず何を言ってるかはわからないけど、伝えたい感情はその体の動きと目線でわかる。
「どうするぅ?」
飛鳥姉さんが面白そうにニヤニヤしながら見てきた。
あ、この状況を楽しんでるな。年上の掌で弄ばれるのってこんな感じかぁ。
唯一味方になってくれそうな伊藤さんのセットアップ完了はまだ先のようで援軍は望み薄。
「僕はぁ……」
※※※※
結局、探検をすることになった。
「このまま呪いに負けっぱなしじゃためだ」
館の惨劇と呪いから皆を守る。
そんな決意を胸に、僕は皆の先頭を歩いていた。
今歩いているのは玄関ホールの東扉を抜けたL字型廊下を歩いている。
「ちょっと待ってください」
角を曲がる前に、壁に背を当て曲がった先に何もないか確認する。
「あの、さすがに警戒し過ぎじゃないかな? お兄さん、もしも呪いが発動しても私はかまわないよ」
「ありがとう。けど、このままじゃだめなんだ」
ミスティちゃんの心遣いはありがたい。けどこのままじゃ、僕の気が収まらない。
曲がった先は箪笥などの収納家具があるだけの何の変哲もない廊下だ。
「クリア。……いやまだだ」
だが、これだけでは油断できない。
食堂に遭ったかつてこの館に住んでいた子供の遊び道具であろうボールを進行先に転がす。
するとそのボールに向けてプシュという音共に謎の緑のレーザーらしきものが発射された。
「わぁ。今の館ってすごいのねぇ」
飛鳥姉さんの場違いな感想はともかくとして。
「お兄さん! お兄さん! なんかジュウ!って音したよ! ジュウって!」
なんだかかわいらしい慌て方をしているミスティちゃんに「フシュ―フシュ―」言って謎の興奮を隠しきれない舞元さん。
「人体を解かすのかしら?」
その発想は怖すぎますって。
「たぶん大丈夫だと思います。あれ、下のレッドカーペットは溶かしてますけど、ボールは解けてませんから」
「私たちが通ったら服だけ溶けちゃうのかしら? じゃあ、問題ないわねぇ」
そう、命にはかかわらない。
「いや、だめですって! 服解けたらやばいですって!」
危ない危ない。飛鳥姉さんの謎の常識に浸食されて判断を誤るところだった。
たとえ僕が視界を塞いだとしても、また呪いは確実に発動してしまう。
まさか館と呪いが連携してくるとは。
「じゃあ、戻るの?」
ミスティちゃんの言う通り、迂回すべきなのだが。
試しに後ろにもう一つボールを投げる。
すると進行方向と同じように謎の液体がボールを襲って再びレッドカーペットだけを溶かす。
「あらあら囲まれちゃったわねぇ」
どこまでも緊張感がないな、この人は。
でも飛鳥姉さんがいるおかけで、活路を見いだせた。
「飛鳥姉さん、さっきのハンドガンって持ってますか?」
「持ってるわよぉ」
「貸してもらませんか?」
「いいけど、これただのガスガンよぉ。ちょっと改造してあるだけの物。本物には程遠いけどいいの?」
ちょっと改造するだけで鎧を貫いてたまるか!
というツッコミはしたいけど、これがあるのなら何とか活路は見いだせる。
「よし、行ける」
僕はハンドガンの引き金を引いてから、勢いよく廊下に飛び出した。
その瞬間、緑のレーザーが飛んでくるが目視で避ける。
レーザーの射撃装置を撃ち、沈黙させる。
「まだだ」
僕はそのまま廊下を走り抜ける。
四方から射撃装置が顔を覗かせ、同時に僕へ向けて発射。
スライディングしながら射撃して2機撃墜。
そして止まることなくジャンプしてレーザーを躱しつつ残り2機を破壊。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息を切らしながら、本当にすべて壊せたか。残っていないかを廊下を行き来して確認。どうやらすべて破壊できたようだ。
「勝った!」
思わず拳を上げてガッツポーズ。
「あ」
覗き込んでいた飛鳥姉さんたちと目が合った。
自分一人で浮かれてて、すごく恥ずかしい。
「すごいすごいすごい! お兄さん! まるで映画のアクションスターみたいだった!」
ミスティちゃんがぴょんぴょん飛び跳ねてかわいらしく喜んでくれた。
「あ、いや、その。そんなこと、ないですよ」
「すごいわぁ。やっぱりあんな鎧を着て私と対等にやりあっただけはあるわね」
飛鳥姉さんがじゅるりと舌なめずりをしている。
なんだか背筋がゾッとするけど、今は見なかったことにしよう。
「これでやっと呪いに一勝だ」
これは僕にとって大きな第一歩となった。
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