第13話 キッチンでの死闘
「ごめんなさい。私が掃除しようとしてバケツなんて持ってきたからこんなことになっちゃって……」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
そう。なんともない。僕が女の子の前でパンツ一丁の姿でガッツポーズをしていただけ。。隔離地域で舞元さんが僕の股間へと顔面ダイブされた時点で、僕の男としての尊厳など粉みじんになっているから問題など一つもないのだ。
「コヒュヒュヒュヒュ」
謝ってくれているミスティちゃんはいい子だなぁ。
いまだに僕の醜態を思い出して笑い転げてる舞元さんとは大違いだ。
「それにしてもこの屋敷掃除しないと汚かったんですか?」
水にぬれた服から着替えたジャージを整えつつ聞いた。
ちなみにジャージを着たのは破れにくく、水では絶対に透けないから選んだ。
「皆で止まる部屋なんだけど、ちょっと汚れてて」
「僕も手伝いますよ」
舞元さんは掃除から逃げ出そうとしていたところをミスティちゃんに首根っこを掴まれながら連れていかれた。
シスター強くない?
「で、ここが皆で練る部屋。以前、呪われた人が男女5人で一晩過ごしたら呪いが解けたんだって」
ミスティちゃんに続いて、部屋に入る。
かなり広い部屋だったが、中はやばかった。
ベッドが五つに、箪笥がある。その家具類が滅茶苦茶に荒れていた。しかも荒れている家具が散らばる中央には人型の血の跡が薄っすらと付着している。
ミスティちゃんの言葉を借りるならこうだ。
「惨劇の足音がする……!」
僕と舞元さんは血の気を失っていた。
「どうして? ここには惨劇の臭いはそんなにしない。むしろその臭いはお兄さんからするよ?」
待って。この明らかに過去何かがあった部屋より僕の方がやばいの?
というかそんな臭いがするなんて冗談だろう。きっとそうだ。そういうことにしておこう。
「とりあえずここから出ます!」
ミスティちゃんと腰を抜かしていた舞元さんを引きずって部屋の外に出て扉を閉めた。
「この部屋はやめておきましょう」
「別にいいけど、解呪の前例がある場所の方が解呪の確率は高いよ?」
「だとしても、この部屋に皆さんを止まらせるのは忍びないです。だから他の部屋にします」
「そう……。まぁ、汚いのはいやだよね」
違う! そうじゃない。と言いたかったけど、一刻もこの部屋から離れたかったから、早々にこの惨劇部屋から離れた。
※※※※
いろいろなことはあった、今は昼食の時間だ。
そして、驚愕の事実が判明する。
まともに家事をできるのが、僕と伊藤さんだけなのだという。
だから掃除は重労働だから、伊藤さんを中心に女子四人。
料理は僕一人の担当となった。
「うん。これならまともなものが作れるかな? それに良いものもあったし」
僕は今、西洋の
「どうしてキッチンにあったかは気になるけど、これで呪い対策も完璧だ」
そういうことで、僕は上機嫌でふんふんと鼻歌交じりに昼食の準備に取り掛かっていた。
だから油断していたのだろう。ここが明らかに呪われた館としか思えなくて怖がっている女の子がこの見知らぬ全身鎧で料理しているところを見られたらどういう事態になるのか。
答えは簡単だ。
「きゃああああああああああああ! 呪われた鎧!」
悲鳴を上げられて、腰を抜かされたのである。
声の主はミスティちゃんだった。
事態に気付いても、時すでに遅し。
誤解だと伝えようと思った。僕は呪われた鎧じゃない。
ただ僕はあきらめにも似た感情があった。こういう事態に陥った時は誤解を解かせてくれるような間はないのだと。
「はぁぁあぁぁぁああ!」
裂ぱくの気合と共に蹴りが飛んできた。
咄嗟に腕で防御する。凄まじい衝撃で、鎧を着てなかったと思うとぞっとする。そしてこの蹴りの主はミスティちゃんではなかった。
「あ、ミスティちゃんだぁ。大丈夫?」
さっきの気合とは裏腹に気の抜けた声。
「飛鳥お姉ちゃん! 鎧が勝手に歩いてる!」
「そうねぇ。大変ねェ」
「のんきにしてる場合じゃないよ! その鎧の中から惨劇の臭いがプンプンするんだよ! お兄さんの呪い並みに大変!」
驚愕の新事実。ミスティちゃん、本当に呪いを嗅ぎ分けることができる模様。
もうさっきみたいに現実逃避はできない。
それにしても血まみれの部屋よりやばい惨劇臭がするとは、僕って一体……。
「そうなんだぁ。けどこの鎧さん強者の気がするからお姉ちゃん、倒してみたいなぁ」
呪いの臭いの次は強者の気ですか……。
僕には理解できない感覚のオンパレードである。
そんなことより早く誤解を解かなければヤられちゃう!
「Woooooooooooooo(誤解です! この鎧の中身は僕です。佐藤幹也です)」
どうして!?
もしかしたこの鎧本当に呪われてる?
まともに言葉がしゃべれない!
「気合は十分ねぇ。いいわ。いいわぁ」
なら鎧を脱ぐしかないともがく。
ぬ、脱げない……! どうして。
そして、そんな隙を見逃してくれるほど飛鳥姉さんは親切ではなかった。
一発の銃声。
しかも的確に脳天を狙い撃ちだ。
衝撃で一歩後ろに下がる。
「Whooooooooooo(こわいこわいこわい)」
ためらいがなさすぎる。あと、それ本当にエアガンだよね?
なんかすごい威力なんだけど。
商店街ではエアガンを使用した訓練をしていたからエアガンに違いない。きっとそうだ。僕は考えることをやめた。
「面白いわぁ」
飛鳥姉さんはためらいなく僕の間合いへと侵入する。
その迷いのなさ、決断力の素早さ。体術。こんな異様な
当然僕の拳など当たりはすれど、簡単に受け止めらてしまう。
「あははっははは。まさか私に当ててくるなんて。いいわ、いいわぁ」
素敵な笑顔だ。落ち着きのある奥ゆかしい笑い方。
その手に銃がなかったらの話だけれど。
「Woooooooo!(死ぬ死ぬ死ぬ。鎧動きにくすぎ!)」
慣れない装備、しかも骨董品を身に着けていてはとてもじゃないが飛鳥姉さんの動きには追いつけない。姉さんもロングスカートなんて動きにくい恰好なのになんて素早さだ。さらに蹴りや至近距離からの銃撃。
そして、頭の方から鎧が砕ける鈍い音がした。
「あは。やっと空いてくれた」
見ると鎧の額に穴が開いていた。
恐るべきことだが、ただ闇雲に銃撃していたのではなく一点集中していたらしい。
そして足を払われ、派手に転倒する。
飛鳥姉さんに馬乗りになられ、穴に銃が押し付けられる。
「楽しかったわぁ」
うっとりとした表情。完全に危ない薬をやっている種類の人間にしか見えない。
だけど、狙い通りだ。
飛鳥姉さんが銃を撃つ直前。
勝ちを確信した一瞬の隙。
戦いのせいでキッチンが散乱し、床には食器類が散乱していた。
その食器を姉さんが持つ銃へと当てる。
銃の狙いは少し上に逸れる。当たった衝撃で、ただでさえひび割れていた鎧の頭部は限界を迎えて割れた。
中からは当然、僕の素顔が現れる。
「飛鳥姉さん、僕ですよ」
「あらあらまぁまぁ」
戦いに勝った。
勝利条件は相手を打ち倒すことではない。戦いを止めることができれば僕の勝利なのだから。
だけど、同時に負けた。
姉さんにではなく、呪いに。
「姉さん、パンツ見えてます」
戦いの最中、ロングスカートが破れたのだろう。
黒くアダルティでセクシーなパンツが見えていた。
そしてなぜだか僕の服ごと消え去る
「知ってるわぁ。あと途中からだけど、鎧の中身が幹くんだってこともわかってたの」
「え!? だったらどうして戦い続けたんですか?」
だったらさっきの死闘は一体……?
「今の物音、なに!?」
キッチンの扉が大きく開け放たれた。
そこには驚いた表情の舞元さんと伊藤さんがいた。
「だって、幹くんの(体術)があまりにも刺激的ですごかったんだもの。私、胸がどきどきしちゃって。君の情熱的でおっきなの(拳)に突かれた時なんて、どうにかなっちゃいそうだったもの。私、こんなの初めてだったから。途中でやめるなんて考えられなかったわぁ」
なるほど。わからん。けど、僕が終わったことだけはわかる。
「な、なななな……!」
伊藤さんの目の前には激しい運動をした後のように散らかったキッチン。
なぜか全裸の幼馴染。
その上に馬乗りになるパンツ丸出しとなった実の姉の艶姿。
そして、狙っているとしか思えないほどの勘違いワードのオンパレード。
「なにしてんのよ! あんたたちはぁぁぁぁぁ!」
あぁ……。僕はラッキースケベ回避以前に、生き残ることができるのだろうか……?
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