第23話 魔物との直接対決

「今からあの魔物のもとに行って決着をつけます」


 館の探索から戻ってから発した僕の第一声。

 突然だからみんな驚いていた。


「ええ!?」

「またあの子と戦えるの!?」


 約一名、飛鳥姉さんだけは喜んでいたけど……。


「戦わないでください」


 飛鳥姉さんにはきっちり釘をさす。

 怪我でもしたら大変だ。


「勝算はあるんでしょうね?」

「勝算、というか。怪我をするようなことはない、と思います。ただしみんなが僕の言うことを信じて冷静でいてくれたら、ですけど」


 パニックになって自分で怪我をしてしまうかもしれないからだ。


「お兄さん。今の探索で何かわかったんだよね? 教えてほしいな」


 ミスティちゃんの手が震えている。

 僕は安心してもらうために、やさしく手を取った。


「怖い、ですよね? ここに残っていても構いませんよ。僕一人でも全部終わらせることはできますから」


 そういうとミスティちゃんはぶんぶん頭を横に振った。


「だめ。私も一緒に行きたい。お兄さんだけに全部押し付けるなんて嫌! 私、お兄さんにひどいこと言っちゃったから……。許してもらえないかもしれないけど、私にできることがあるならしたい、です」

「ありがとうございます」


 そう言うとうれしそうに微笑んでくれた。


「じゃあ、説明してもらおうかしら」

「はい。信じられないかもしれません。それに確実な証拠もありません。だけど自信はあります」

「わかったわ」


 意を決して魔物について、僕の推測を話した。

 みんなからの質問にも答えた。


「なるほど、ね。正直、今は戸惑いの方が多いけど、あんたが自信あるっていうならいいわ」

「信じてくれるんですか?」

「だって、自己評価の低いあんたが自信を持つって相当じゃない。私はあんたの自己肯定感の低さは信用してるのよ」

「あはは」

「嘘。幹也は自分が思っている以上に自分がすごいんだって自覚なさい」

 

 まっすぐに褒められて、顔から火が出そうなくら熱い。


「私も幹也お兄さんの言うことなら信じられる!」

「私もいいわよぉ」


 ミスティちゃんと飛鳥姉さんも賛成してくれた。

 姉さんはぼそっと、「戦えるならそれはそれでいいしねぇ」と小さくつぶやいていたが気のせいだ。幻聴に違いない!


「できたら早めに決着がつけたいです。さっそく行きましょう」


※※※※

 

「Gruuuuuuuuuuu」


 狼の魔物が陣取っている書斎の前まで来た。

 扉越しにも魔物の寝息が聞こえる。


「もしも僕の読みが間違っていたら、逃げてください。いいですね?」


 三人とも神妙な顔で頷いてくれた。

 念のため、道中で壁に飾られた剣と盾を手にしている。


「開けます」


 扉を開ける。

 さっきと変わらない。

 舞元さんの死体を囲うように寝息を立てる狼の魔物がいた。

 相変わらず見た目のインパクトが凄まじい。

 鋭い爪に牙。何よりも常識外の巨体にどうしても気後れしてしまう。

 でもそれだけだ。

 種がわかっているからか。この魔物にさっきまでの脅威は感じなかった。


「さすがに気づかれますよね」


 寝ている間に終わらせようとしたが、甘かった。

 魔物の目が僕を捉えた。


「Gaaaaaaaaaaaaaaaaa」


 咆哮。

 それでも僕は前と踏み出す。

 魔物は今にも飛び掛かりそうな勢いで前かがみになっている。


「来い!」


 あえて僕は魔物へと走り出した。

 もちろん魔物も黙っていない。巨木に日本刀がついたような前足が僕に襲い掛かってくる。僕は盾を構えて受けの体制に入る。


「幹也!」


 その無謀とも思える行動。

 たとえ、計画通りの行動だとしても伊藤さんは声を上げてしまったのだろう。

 そして、僕の予感は的中した。


「やっぱり止まった」


 狼の前足は盾にあたる寸前で止まっていた。

 

「もう。いいんじゃないですか? ここが引き際だと思いますよ」


 魔物は沈黙したままだ。


「ねぇ? 舞元さん?」


 この騒動を仕組んだ黒幕。

 目の前に死体で横たわっているはずの彼女に呼びかけた。


「あーあ、もうおしまいか。けど、目的はほぼ達成できたからいいか」


 ジジと魔物と死体が揺らぎ、消える。

 消えた魔物の中には数機のドローンに照らされた黒のタイツ姿の舞元さんがいた。

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