第33話 エピローグ
あれからアリネに報告した。
伊藤さんの記憶は消さずに、外に出ること。
「ああ。そうなったの。ならやっと魔王を倒す気になったのね」
笑われると思ったから魔王を倒すと決意したことまでは言ってないのに、なぜか見透かされていた。
それになぜか嫌に簡単に許可が下りた。
スーパー下っ端の僕の申請が簡単に通ったことは疑問だけど、都合がいい。
「村に入り込んだ魔物はまだ3匹いる。引き続き、伊藤舞と共に任務にあたること。それから今度は貴様の手には余る任務だ。応援もよこすからそのつもりでいろ」
そんなわけで任務は続行。
ケージの中に戻って館で休んだ。
そして、朝になると僕の部屋に伊藤さんがいた。
決して一緒に寝たわけではない。
僕のベッドの前で、気に入らないものを見るように僕を見ていた。
「あの、伊藤さん? なんですか?」
「いろいろ文句を言いに来たの」
「文句、ですか?」
「最初にどうして私は苗字呼びなの? 昨日は言ってくれたのに。それに他の子は下の名前呼んでる。ずるいわ!」
僕は人の名前を呼ぶときは基本苗字呼びだ。下の名前を呼ぶのは相手に頼まれた時しか言わない。
それになぜだか、伊藤さんだけは下の名前を呼ぶのはすごく照れくさい。
「いや、昨日は思わず……。あの苗字で勘弁してください」
ベッドの上で土下座する。
「だめ。リピートアフターミー。舞ちゃん」
必死に黙って抵抗するが、眼圧がすごい。
絶対に下の名前で呼ばせてやるという気合。
昨日の数万のスライムの軍勢が雑魚に思えるほどの強敵だ。
そんなわけで、僕は簡単に屈してしまった。
「ま、舞……さん」
冷たい視線が僕を貫く。
「まぁ、今はいいわ。後の楽しみに残しておくことにする。あと敬語! なんか距離取られてるみたいで悲しい……」
さっきまでの強気な態度はどこへやら。
濡れた子犬みたいにしょんぼりしている。
そんな顔をされたら、弱っちゃうなぁ……。
「わかった。敬語はやめるよ、舞さん」
「他の人にもやめるの?」
「舞さんだけだよ」
悲しそうな舞さんの顔が、突然勝ち誇ったようにふっと笑った。
「なるほど。ちょろいわね。幹くんはそういうのに弱いんだぁ。いいこと知っちゃったな」
ハメられた!
なんて狡猾な罠なんだ。
「舞さん! ひどいよ!」
「ふふふ。どうとでも言いなさい。9年間待たされた恨みはこんなことだけじゃ、晴れないんだから」
なんて話していたら、扉の方に気配を感じた。
「あらあらぁ。朝からイチャイチャしてていいわね。私も混ぜてほしいわ」
「舞お姉ちゃんだけずるい!」
「そうだぞ、ずるいぞ! 俺にも女の子を分けろよ!」
飛鳥姉さんとミスティちゃんがいた。
舞元さんはロープで拮抗縛りにされて、姉さんに引きずられている。
そんな状態でも調子のいいことを言うのだから、まったく反省していないようだ。
「いつから、いたの……?」
舞さんがロボットのように首を三人の方にギギギと動かす。
動きがものすごく固い。
「下の名前呼びがずるいってところから、かしらぁ?」
「最初からじゃない! もう嫌ぁ!」
舞さんは顔を真っ赤にして、僕の部屋を飛び出していった。
「あらあらぁ。お邪魔だったかしら?」
これが飛鳥姉さんの恐ろしいところだ。
別にからかっているわけじゃなく、素で言っている。天然ものなのだ。
「お兄さんと舞おねえちゃんは付き合うことになったの?」
「ちがいますよ! 僕に舞さんは釣り合ってません」
今は。今はまだ、この気持ちは伝えない。
今の僕じゃあ、舞さんを幸せにできない。
この気持ちを伝えるのは魔王を倒してから。魔王を倒すことができた時、初めて僕は胸を張って舞さんにもう一度告白ができる。あなたを幸せにしてみせます。そう堂々と言うことができる。だからそれまで、この気持ちは胸の中に大切にしまっておくことにしたんだ。
※※※※
「これで魔王を守護する結界が一つ消えた。あとは3つ」
目にかかった銀髪をかきあげる。もうそろそろ切り時か。
「血に狂った王女・死を運ぶ黒い風・森羅万象の破壊者」
資料をめくる。
世界の9割を死に追いやった4つの厄災。
侵食する千変万化は倒された。
「どうしてあのケージに集まったのか? いや集められたのか? さぁ、幹也。お前はすべてを殺しきるのかしら? 殺しきるのでしょうね。そして、魔王に至る」
笑う。
どうせ無駄なのに足掻いている彼がおかしくて。
おかしくておかしくて。
涙がとめどなくあふれてくる。
「あぁおかしい。無駄なあがきなのに。どうせ世界は滅びるのに」
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
ここで一度区切りとなります。
この場をお借りして、今後の予定を少し書いておこうと思います。
興味ない方はスルーしてください。
現在別作品を執筆中で、8割ほど完成しております。
その作品が終わり次第、ラッキースケベの2部の執筆を開始します。
2、3か月程で書く予定ではいます。(できなかったら、すいません……)
一応締め切りを設定しておきたかったので、自分への戒めとして書きました。
今後も皆様の暇つぶしの一助になれるように頑張りますので、頭の隅の隅の隅程度にはこの作品のことを置いておいてもらえると幸いです。
田舎に帰ったらラッキースケベの呪いを受けた件について @tokoroten7140
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